「何気なく手に取った一冊で、人生が変わった」。そんな経験のある人は多いのではないでしょうか。雑誌「プレジデント ウーマン」(2018年1月号)の特集「いま読み直したい感動の名著218」では、為末大さんや西野亮廣さんなど11人に「私が一生読み続けたい傑作」を聞きました。今回はその中から「TABLE FOR TWO」の大宮千絵さんのインタビューを紹介します――。

入社7年目に妊娠して1年間の産休・育休

前職は、日産自動車でマーケティングを7年。バリバリ働いて、キャリアの階段を上っていたので、7年目に妊娠して1年間の産休・育休に入り、食らいついていた仕事が手元からガバッと離れたときは戸惑いました。

私は人を驚かせたり喜ばせたりするのが好きで、ゼロから生み出したサービスや商品を社会に届けたい気持ちが強いんです。でも職場復帰したときに、今までのように時間を使えない自分がそれをどうやって実現できるのか。子どもという大切な存在ができた今、自分は何を一番大事にしたいのか? そう悩んで、育休中、知り合いにすすめられて読んだのが、『イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ』でした。

悩んで迷ったときに読む、人生の教科書

特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International チーフ・マーケティング・オフィサー 大宮千絵さん

著者いわく、労働の動機付けには収入や地位を目標にして働く“誘引理論”と、モチベーションを大事にする“内的動機付け理論”の2つがあると。人は誘引理論に従って働くと、目標が満たされたときに不満は持たないけれど、心から満足することもない。そして、「人生に心から満足したいなら、素晴らしいと信じる仕事をするしかない」と書かれていて。まさにそうだなと思い、その言葉が深く心に突き刺さりました。

「自分を動かすものは何か」「誰のために、何のために働くのか」を読みながら自分に問い直してみたんです。たしかに日産での仕事は面白くやりがいがありましたが、これからは、また別の考え方でキャリアを築こうと思いTFT(TABLE FOR TWO)への転職を決意しました。

実は社会人3年目のときにTFTの社会人ボランティアチームにプライベートで参加し、お弁当箱をつくったことがあるんです。マーケターとしての腕試しを兼ねて、リサーチして企画書をまとめ、営業をして商品化にこぎつけ、LOFTで販売してもらいました。購入金のうち20円が開発途上国の子どもたちに給食を送る資金になります。そのとき、自分のアイデアを商品化できて、なおかつ売り上げが人のためになるという仕組みが自分の気持ちにとても合っていて、「面白いな」と感じました。そしてもうひとつ、私は思春期に突然病気を発症して、自由がきかなくなった経験があって。世の中には、自分の力だけではどうにもならないことがあると知り、病気が治ったとき、いつか困っている人のために役立ちたいとも思っていました。

でもTFTに転職すると話したとき、周囲は大反対。大手企業を辞めて、キャリアをなぜ捨てるの?と。自分でもそうだよな、と思って(笑)揺れましたね。だから、自分のやりたいことを信じるべき、という思いを貫く助けとしてこの本を持ち歩き、心の支えにしていました。

心のホットボタンを押す方法を、常に考えています

TFTの正社員になってすぐ、「おにぎりで世界を変える」をテーマに“おにぎりアクション”という企画を立ち上げました。おにぎりをつくって写真投稿すると、企業さんが寄付金を協賛してくれる仕組みです。どんな企画も、「面白いな、楽しいな」と感じてもらわないとマス(大衆)には広がりません。マーケティングは、シンプルでポジティブでストーリー性があることが大事。大切な誰かのために握るおにぎりには、多くの人の愛情やストーリーが込もっています。そこに少しだけ、開発途上国の子どもたちへのおすそわけの気持ちも込めてもらえたらと。

(左)『売れるもマーケ 当たるもマーケ』アル・ライズ/ジャック・トラウト(東急エージェンシー出版部/1546円)、(右)『イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ』クレイトン・M・クリステンセン(翔泳社/1800円)

そんなマーケティングの基本を教わったのが、新入社員時代に上司がすすめてくれた、『売れるもマーケ 当たるもマーケ マーケティング22の法則』です。マーケティングの原理原則が詰まったこの本は、迷うと必ず読み返します。なかでも、「マーケティングは商品の争いではなく知覚の争い」という教えは肝に銘じ、どういうメッセージだとお客さまの心に刺さり、人は共感し、行動してくれるのかを常に考えています。

実施して3年目の今、“おにぎりアクション”は世界の舞台で「アジアマーケティング大賞」をいただき、おにぎりの写真は1日に3千枚ペースで投稿されています。それは前職で得た学びと、本に書かれた法則に従ったおかげ。以前の私は石橋をたたいてたたき壊すようなところがありましたが、今はやるしかないので「なんとかなる!」と思っています。自分が信じたことをやっていると言葉にも嘘がないし、自分の気持ちのままに生きられる。自分にとっても子どもにとってもいいんじゃないかな、と思います。

▼Recommended MOVIE
『世界の果ての通学路』
監督:パスカル・プリッソン
2012年・フランス
アルゼンチン、インド、ケニア、モロッコの子どもたちが何時間もかけて通学する様子を追ったドキュメンタリー。「未来に向けての夢と希望を持つ子どもたちの、ひたむきな姿に心を打たれます。自分の子どもにも見せたい映画です」
大宮千絵
特定非営利活動法人 TABLE FOR TWO International チーフ・マーケティング・オフィサー
大学卒業後、日産自動車に入社。約7年間、市場調査室でグローバルマーケットリサーチ業務に携わる。2013年に産休・育休を取得した後、日産自動車を退社。15年4月よりTFTに正社員として勤務。