せっかく転職活動をするならば、絶対失敗したくないというのが本音。納得できる転職を実現するための心得を、「転職のプロ」の2人が解説します――。

※本稿は、「プレジデント ウーマン」(2018年4月号)の掲載記事を再編集したものです。

▼教える人

早坂奈麻さん
リクルートキャリア エージェント事業部 キャリアアドバイザー。アドバイザー歴16年の事務・企画職のスペシャリスト。地方や理系新卒、製造業界の就職・転職支援を経験し、幅広い視点を持つ。産休・育休を経て復職したワーキングマザーでもある。


酒井哲也さん
ビズリーチ ビズリーチ事業本部 事業本部長。大手人材サービス会社で、大手企業中心の営業を担当した後、2015年にビズリーチに転職。現在は即戦力と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」全体を統括している。

すぐ動けるように、キャリアを整理しておこう

「今すぐには転職を考えていない」という人も、自分のキャリアを振り返り、強みを整理しておくことは大切だ。

写真=iStock.com/KatarzynaBialasiewicz

「今は転職市場が活況ですが、いつまでも続くものではありません。もしも景気が崩れたら、求人件数が減る一方で求職者は増加し、需給バランスは大きく変動します。だからこそ、『いい求人に出合えたときにすぐ動ける状態』をつくっておくことが大切です」(早坂さん)

ちなみに今は、好景気を反映して「いい人がいたら採用したい」というニーズも増えている。「求人の裾野が広がっているので、少しでも転職を考えているのであれば動き時です」(早坂さん)。

自分の市場価値を知るために、転職エージェントやスカウトサイトを活用するという方法もある。

「例えば当社であれば、匿名のレジュメを登録しておけば、それを見た企業やヘッドハンターからスカウトが来ますが、その内容から自分のどんな強みが評価されているのかがつかめます。思いもよらない業界や職種のスカウトが来て、自分の意外な可能性に気づくことができたり、足りないスキルを再確認できたりすることも。自分の価値を測るための1つのツールとして利用するのも手だと思います」(酒井さん)

▼成功する人

・自己分析がしっかりとできている
・得るものがあれば失うものもあることを理解している
・転職目的が明確である
・行動力がある

▼失敗する人
・やるべきことを面倒くさがる
・得るものばかりを注視しすぎる
・理想の会社があると思っている
・慎重になりすぎる

 

心得1:事前準備
「自己客観視」してキャリアとスキル、強みの整理を

「転職成功のためには、事前準備が一番大切」と早坂さん、酒井さんは口をそろえる。

「普段の生活の中で、自分の経験、強みを整理する機会はなかなかないもの。自分にはどんなスキル、経験があるのか、知識や強み、成果は何か、今までのキャリアを振り返り“自己客観視”して整理しましょう。ここでしっかり整理できているかどうかが、後々のレジュメ作成、面接にも大きな影響を及ぼします」(酒井さん)

「事前に自分のキャリアを整理しておけば、この会社は自分に合うかどうか、活躍できる環境があるかどうか、判断する軸にもなります」(早坂さん)

転職先に求める条件も、事前に整理しておくことが重要だ。

「自分の希望をすべてかなえられる会社はどこにもありません。希望条件を整理し、優先順位をつけておかないと、『この会社はこの条件をクリアしていないから……』を繰り返し、いい求人を見逃してしまう恐れがあります。また、後々の面接の場での発言内容にズレや矛盾が生じる恐れも。できれば『これだけは譲れない』という条件を1つ決め、あとの条件はバランスを見ながら判断するという方法がおすすめです」(早坂さん)

心得2:レジュメ
ただの羅列は×。成果や個性を伝える工夫をして

ちまたの職務経歴書の見本にありがちな、「やってきたことがただ羅列してある」レジュメはNGだ。

「どういうミッションを背負い、どんな成果をあげたのか、そこでどんな強みを発揮し、自分なりにどう工夫を凝らしたのかまで記しましょう。中堅層であれば、任される範囲の広さや視点の高さも求められます。可能であれば、自分の働きが組織にどのような影響を及ぼしたのかまで記すといいでしょう」(早坂さん)

「採否はレジュメ+面接で決まります。まずはレジュメを見た相手に『会ってみたい(=面接に呼んでみよう)』と思わせることが大事。自己PRとして、仕事に対する情熱や思いなども記しておけば、個性が伝わり、『会ってみたい』につながります」(酒井さん)

転職回数が多い人は要注意。1年以内の転職や、短いスパンで転職を繰り返している場合は、「辞めてしまうのではないか」とマイナスの印象を持たれる恐れがある。

「退職に至った決断が、今のキャリアにつながっているという“ストーリー”を伝えることがカギ。会社を辞める前に、現状を打破するために自分なりに努力したことがあれば、併せて記しておきましょう」(酒井さん)

▼自己PR NG例(添削前)
ベンチャー企業に10年間勤務し、立ち上げ期から成長していく過程で人事の側面から携わってきました。(※添削1)評価制度や研修制度の策定、採用活動の実施などに携わり、(※添削2)3年前からはリーダーとしてメンバー5人を束ねています人事業務の経験、およびマネジメント経験には自信を持っており、御社においても必ず活かせると考えています。

※添削1:どんなミッションで、どんな貢献をしたのか、さらに会社がどのように拡大したのかを具体的に。

※添削2:任されている仕事の範囲を明確に。また、どんな思いを持って業務に携わっているのか、仕事に対する姿勢がわかる一文を加える。

▼自己PR OK例(添削後)
ベンチャー企業の立ち上げ期に入社し、以来10年間、人事の側面から組織づくりや会社の拡大に尽力してきました。(※添削1)評価制度や研修制度といった人事制度は、経営陣とともに一から策定。産休・育休制度も1年目から導入し、働きやすさの向上に努めてきました。4年目からは新卒採用も実施。いち早く制度面を整えたことで社員の定着率もよく、新入社員の3年以内退職率はゼロを実現。産休・育休、および復職実績は年々伸びており、優秀な女性応募者の増加にもつながっています。その結果、社員数が今では200人を超えるまでになりました。3年前からは(※添削2)リーダーとしてメンバー5人の指導を任され、チームとしての業務の可視化や業務分掌の推進を担ってまいりました。入社以来、私が常に大切にしてきた「人を財産と捉え、皆がイキイキ働ける環境を整備する」大事さを日々伝えており、若手のアイデアもどんどん取り入れ、より魅力的な職場づくりに力を注いでいます。

心得3:面接
しゃべりに自信がある人こそ、事前に練習しておくべし

面接では基本的に、レジュメに書かれている内容について質問される。レジュメに「聞いてほしいこと」をあらかじめちりばめておけば、面接で主導権を握れる。

そして、レジュメをもとに十分な「面接準備」を行っておくことが大切。早坂さんによると「コミュニケーション上手な人ほど注意が必要」だという。

「面接でもきっとうまくコミュニケーションが取れるだろうと丸腰で臨んでしまった結果、思ったように話せず後悔するケースが多いのです。面接は、自分自身をアピールする場。プライベートや仕事でのコミュニケーションとは違います。逆に、コミュニケーションが苦手な人のほうが、しっかり準備していくので、うまくいく傾向にあります」(早坂さん)

選考が進むと、条件面を擦り合わせるタイミングがある。年収が下がることを躊躇(ちゅうちょ)する人が多いようだが、「提示額が低いから」と安易に辞退せずに、評価制度などを確認してから判断しよう。

「転職して一時的に年収が下がったとしても、成果を正当に評価して給与に反映する会社であれば、数年後には前職の年収を上回り、生涯賃金で見ればプラスになる可能性もあります」(酒井さん)