なぜ元日テレ社員は落語を楽しめる小料理屋を開いたか
東京・秋葉原に「やきもち」という店がある。お酒や料理とともに生の落語を楽しめる小料理屋だ。店を1人で切り盛りするのは、日本テレビでディレクターをしていた中田さん。朝の情報番組を振り出しに、ドラマ、バラエティとさまざまな現場を経験してきた。
「ドラマ志望だったので、バラエティに異動になったときは、毎日非常階段で泣いていました」
そんな中田さんに笑顔が戻ったのは34歳で「笑点」の担当になったとき。落語と落語家の魅力にはまり、プライベートでも近所のバーに頼まれて落語会のセッティングをした。公私ともに落語漬けの幸せな日々だったが――。
「35歳で編成部に異動になってしまって。そこは、番組のタイムテーブルを作るデスクワークだったんです。私には無理……と、退職を決意しました」
「収入は減りましたが、会社員に戻りたいとは思いません」
とはいえ、退職後のプランはすでにあった。中田さんが開いた落語会は毎回大盛況で、「これは仕事になりそう」とひそかに考えていたのだ。もともと料理が得意で、「落語も聞ける料理屋を開けば食べていけるのでは……」。
しかし、いざ開業してみると苦労の連続。「知人の店で3カ月間修業もしましたが、1人で何十人分もの料理を仕込むなんて初めてで。当初は余裕がなくて、集客どころではなかったです」
落語会がない日は1人も客が来ず、「今日は掃除だけでいいよ」とアルバイトに帰ってもらったこともある。収入が少なくても、固定費は月に数十万円かかる。出費を抑えるために、掃除や落語会のチラシ手配、ブログの更新など、すべて自分でこなした。定休日には寄席に行き、出待ちをして落語家に出演交渉。プライベートはほとんどなく、1年ちょっとで3kg痩せた。以前よりは余裕が出てきた今も、相変わらずフル稼働だ。それでも、会社員時代より断然ストレスは少ないという。
「合わない人と無理につきあう必要がないですから。客商売ですが、ヘンな人は無理につなぎ留めなくてもいいやって思ってます」
目下のご褒美は、出演してくれた落語家に「おかげさまで、やりやすかったよ」と言われること。
「収入は減りましたが、会社員に戻りたいとは思いません。頑張って店を大きくします!」
29歳:助監督として芽が出ず悩む
31歳:深夜ドラマで地上波初演出
32歳:勝手がわからずパニックに。非常階段で泣く日々
34歳:落語家という生き物が好きになる
35歳:ひたすらCM料金の計算をする日々
37歳:小料理屋「やきもち」を開店