「自分磨き」でキャリアアップを目指すにはどうすればいいのか。「プレジデントウーマン」(2017年9月号)では、「学び」を通じて可能性を広げた5人の女性に話を聞きました。第1回は入省9年目の法務官僚が学んだ「コーチング」について――。(全5回)

※本稿は、「プレジデントウーマン」(2017年9月号)の特集「幸せなひとり時間」を再編集したものです。

法務官僚が"挫折"して学び始めたこと

▼プレジデント ウーマン読者アンケート
もし、もっと自由時間が取れたら、何をしたい?

1位:旅行・街歩き:73.7%
2位:キャリアアップの勉強:55.5%
3位:新しい趣味を始める:34.2%
4位:マッサージ・エステなど:33.1%
5位:睡眠・休息:32.5%
※複数回答

伊藤綾華さんは入省9年目の法務官僚。入省4年目までは、現場で保護観察官として、犯罪をした人や非行のある少年たちとの面接を日々行っていた。そのときから「自分の対話のしかたはこれでいいのか、話を十分に聞けていなかったり、誘導して、自分の意見を押し付けたりしているのではないかと引っかかりがありました。コミュニケーション技術を磨きたかったんです」(伊藤さん)。

伊藤綾華さん
法務省 保護局総務課 被害者等施策班 係長。最優秀で基礎と応用コースを修了。初学者をサポートしながら同じコースを復習する制度で学習継続中。

きっかけは、2年前に参加した異業種交流のワークショップ。肩書を語らずに自己紹介をしたとき、全員が生き生きと自身について話すなか「私だけが何も話せなかった。役職を離れた自分には何もないと大きな欠落を感じ、自分とは何なのだろうかと不安になりました」。

この出来事で一念発起。検索して出合ったのがコーチングだった。

「コミュニケーション技術を学ぶだけでなく、同時に自分を掘り下げるという点にぴんときたんです」

隔週土曜日、7時間×6回の基礎コースと、7.5時間×6回の応用コースを半年かけて履修。基礎コースでは、傾聴、承認、質問という3種類の技法を学び、相手の話を聴いたり、その主観に肯定的に関わりサポートしたりする技術を身につけた。形式は講義、グループワーク、ロールプレーイングなどだ。また応用コースでは、自分の内面に深くアプローチすることで、相手の潜在意識へ働きかける方法を学んだ。

「コミュニケーションの前提は相手を理解することだと思っていました。でも『理解』はこちらの一方的な思い込みで勝手に解釈することにもなりかねない。コーチングでは、あるがままを『肯定』し『受け入れる』ことが基本です」

コーチングのセッションで涙が溢れた

例えば、いらいらするときは、その原因を自分と対話して探る。とことんまで掘り下げると、それは自分でも気づかないようなじつにささいなことだったりする。「自分にはこんなこだわりがあるからいらいらしていたんだな、と感じ方のくせを受け入れることで、自然と気持ちが落ち着きます」

伊藤さんはずっと後輩や部下への対応が苦手だった。後輩の何げない疑問や提案を「自分への非難や、欠点の指摘」のように感じてしまうくせがあったのだ。「でもそれは、純粋な質問や、改善の提案だと気づいた。一緒に考え、意見を採り入れて、状況をよくしていくことができるようになりました」

小さい頃から気づかぬうちに、「こんな自分ではだめだ」と思い込んでいた。実習仲間とのコーチングセッションの中で、本当はこうしたかったという思いを「邪念」と表現した自分に気づき、涙があふれた体験がきっかけとなり、「ありのままの自分を受け入れる、ということが徐々にできるようになりました」。

極めて専門性の高い困難な職務に活かせただけでなく、自分を受け入れ周囲と肯定的に関わるためのスキルとして、コーチングは彼女の財産になったようだ。

▼コーチングを体系的に学べる
日本コーチ連盟コーチアカデミー
コーチングスキルを学ぶコーチ養成プログラム。7時間×6回の基礎コース(税込み11万3000円)と、7.5時間×6回の応用コース(税込み12万3000円)などがある。
伊藤綾華
法務省 保護局総務課 被害者等施策班 係長
入省9年目。犯罪をした人の再犯を防止する更生保護の立場から、被害者を支援する施策の企画・立案を担当。保護観察官として、面接を担当したことも。