31歳から52歳まで10人の「決断」
「プレジデント ウーマン」の最新号では、本当にやりたいことや、大事なことだけに打ち込むための「しない習慣」を提案しています。それは日々の習慣にとどまらず、人生の大事な決断でも同じこと。あるひとつの選択肢を選ぶことは、ほかの選択肢を「しない」と決めることでもあります。
特集内の「泣いた、笑った 10人の決断ストーリー」では、産まない人生を選んだ人、離婚を決意した人、安定を捨てて会社を飛び出した人など、31歳から52歳まで10人の「決断」を取材しました。このうち46歳で「産まない」という決断を下したマサヨさんさんのストーリーを紹介させてください。
▼マサヨさん(46歳)の「産まない」決断
小柄で細身なマサヨさん(46歳)は、一見30代に見える若々しい女性だ。ボディボードにはまり、サーフィン関連の仕事をしていた時に出会った元Jリーガーの夫とは約4年の同棲を経て、34歳で結婚した。
「小さい頃から、結婚して母になることが夢でした」と話すマサヨさんは、子どものいない将来を露ほども想像したことがなかったと言う。
不整出血の治療をきっかけに、結婚後1年経たないうちに不妊治療をスタートさせたマサヨさんだったが、検査しても悪いところは見当たらない。原因がわからないまま時間だけが過ぎていった。そして38歳のとき、訪れた婦人科で、「加齢ですね。卵子は老化するし、数も減っていくんです」と言われた。
「ショックでした。女優さんが40代で妊娠した話もよく聞くし、タイムリミットがあるとは思っていなくて」
治療開始から4年、「最後の砦」と思っていた体外受精を開始した頃から、心のバランスを崩しはじめた。
誰にも相談できず、妊娠しない自分を責めてばかりの日々。
「検査で良い兆候があっても、気持ちを浮きたたせては失望することの繰り返し。2度の流産を経験し、ぬか喜びに疲れ、感情にフタをするようになっていきました」
妊娠にとらわれる前の自分に戻れた
不妊治療にあたっては、過度な期待を持つことは厳禁とされている。しかしどうしても「今回この治療を受けたら妊娠できる」と思ってしまう気持ちを抑えることはできない。こうした中、自分のメンタルをコントロールできなくなる人も少なくないと言う。
悲しみ、怒り、嫉妬、劣等感――。心と体のバランスを崩し、夫婦間も危機的状況に。かつて経験したことのない負の感情に押しつぶされていたマサヨさん。そんなときに出会ったのがヨガだった。
ヨガを日課にしてから、体調が少しずつよくなり、その魅力にはまっていった。そしてマサヨさんの気持ちが大きく変わっていったのは、44歳のとき。不妊治療が10年目に入った頃だ。
「子どものいない人生、というものを受け入れられるようになっていたんです。諦めとは少し違うのですが、心が穏やかになり、妊娠にとらわれる前の自分に戻れたような……。まさに“生き返った”という言葉がぴったりの感情がわいてきました」
「できることは精一杯やった」
ヨガに真剣に取り組み、ヨガインストラクターの資格を取得。体はもちろん、精神的な安定を取り戻していくに従って、自分に対する自信が生まれた。そして、「子どものいない人生でも幸せになろうね」と、ようやく夫の前で口に出して言えるようになった。
「できることは精一杯やった、という思いと、妊娠のことだけを考えていた10年から解き放たれたて、気持ちがとても楽になりました。体を冷やすからと禁じていたアイスクリームも、今は堂々と食べています(笑)」
そう話すマサヨさんの表情は溌剌としていて、言葉にもよどみがない。
「それに、今は新しくやりたいことができました。昨年、不妊体験者をサポートするNPO法人Fineに参加したのですが、そこで不妊ピア・カウンセラーという資格があるのを知って今取得に向けて勉強中です。これなら自分の不妊治療の経験を生かせると思いました。今後は、カウンセリングとヨガを合体させた妊活向けのヨガ教室を開いて、不妊で悩んでいる女性の役に立てたら……」
30代からは、人生を引き算で見直そう
特集では、ほかにも「産まない人生」を選んだ女性に話を聞いています。一連のルポの締めくくりは、「本当に充実した人生は、第三者が決めた幸福=世間体を捨てることから始まるのかもしれない」となっています。
「○○して当たり前」「○○のほうが幸せなはず」と思われていることを「しない」で生きようとするとき、大きな葛藤に直面するかもしれません。それでも、世間の評価軸ではなく自分の評価軸で人生を生きることの尊さを、彼女たちは示してくれています。
今回、特集のサブタイトルは「30代からは、人生を引き算で見直そう!」としました。「プレジデント ウーマン」の特集「しない習慣」。読者の皆さんのお役に立てると自負しています。ぜひご覧ください。