ツクルバ「共感を得るためにわかりやすさを重視」

建築を学んでいた学生のころから、課題の発表などでプレゼンの経験を積んでいた中村真広さん。デザインはさすがのクオリティーだ。

中村さんが自社の紹介をするときは、専門家だけでなく、幅広い人に共感してもらうことを心がけている。

「僕たちがプレゼンする相手は業界のビジネスパーソンから商店街のおじさんまでいろいろな人がいますが、『伝えたいことを伝えたい相手に翻訳するプレゼンがいいね』とほめてもらったことがあります」

共感を得るためにも資料はわかりやすさを重視。「最初に全体の目次を見せる」「スライドで説明しすぎず口頭で説明する」などが聞き手の理解度を高めるコツだ。

「右脳(感性)に訴える写真と、左脳(論理)に訴える言葉やグラフを交互に見せると聴衆は飽きません。試してみてください」

▼プレゼンテーションクリエイター 前田鎌利さんが資料を判定

◎ピカピカOK資料

【good!】スケルトン状態の物件で撮った写真がイメージにぴったり
自己紹介に使っているのが、CEOとCCOの2人が、創業したばかりで何もないオフィスに立っている写真。「場をつくる」という事業内容にもマッチしていて、「これから2人で会社をつくり上げていくぞ」という決意や2人の絆も感じられて、プレゼンに引き込まれます。
【good!】人間が一度に認識できるのは13文字まで
人間がパッと見た瞬間に内容を認識できるのは、13文字まで。それ以上長くなると読むのは大変だといわれています。「約1.4兆円の二次流通市場」という1行は、小数点を含めまさに13文字。中古物件の市場がこれから成長していくというメッセージが瞬時に伝わります。
【good!】鮮やかな1色でメッセージを強調
スライドをつくるときに失敗しがちなのが、何色もの色を使ってゴチャゴチャになってしまうこと。中村さんのようにモノクロに1色だけ鮮やかな色を加えたほうが、伝えたいメッセージが際立ちます。これをワンカラー効果といいます。

×あるあるNG資料

【bad!】平凡でありきたりな自己紹介
スーツ姿の写真に文字だけの自己紹介は、平凡すぎて革新的なイメージとはほど遠い。もっとも役所や教育機関などへプレゼンする場合はこちらのほうが真面目さをアピールできて好印象な場合も。ケース・バイ・ケースで使い分けるといいでしょう。
【bad!】グラフがないので意味がつかみにくい
中村さんがつくったスライドは、これから不動産の二次流通市場が伸びていくということを棒グラフで示しています。しかしこの悪い例ではグラフを使わずに、イメージ写真に頼ったことで、論理的な説得力が弱まってしまいました。
【bad!】工夫が感じられないフリー素材のイメージ写真
札束のイメージ写真を入れていますが、これではあまりに安直すぎるし、品がない。業務提携で「握手しているビジネスマンの写真」を使うのも使い古された印象です。フリー写真を用いるなら、見る人をハッとさせるような新鮮な表現に工夫したいもの。

<中村さんの資料づくりのコツ>
▼TEDで一流のプレゼンを学ぶ
中村さんがプレゼンの参考によく見るのが、TEDの動画。さまざまな分野で活躍する人たちがカンファレンスに参加し、プレゼンを行う様子をYouTubeなどの動画サイトで見ることができる。ほとんどのプレゼンは英語だが、なかには日本語の字幕もあり。話の展開、スライドの書き方、身振り手振りなどが学べる。
▼こまめに写真を撮っておく
中村さんのスライドには中古物件で楽しそうに暮らす人たち、社内スタッフの集合写真など、自分たちで撮った写真が頻繁に登場。グラフや文字ばかりでは疲れてしまうので、合間に写真を入れてリズムをつくっている。「こんな写真ほしいな」と思ったらすぐ使えるよう、写真のストックを用意しておくと便利。
▼ストーリーは手を動かしながら考える
「概念を整理するときは、いつも手書き」という中村さん。話したいテーマを白紙の中央に置いたら、マインドマップをつくる要領で、「どんな言葉で伝えるか」「どんな資料があればいいか」というように、外側へ向けて枝を伸ばしていく。スライドに落とすのは、全体の構造が決まってから。
中村真広
ツクルバ 代表取締役CCO。東京工業大学大学院で建築を学び、2011年にツクルバを村上浩輝さん(CEO)と共同創業。中古物件のオンラインマーケット「カウカモ」が16年のグッドデザイン賞を受賞。
 
前田鎌利
監修プレゼンテーションクリエイター/書家。ソフトバンク在職中、孫正義氏の後継者育成機関の第1期生に選考され1位を獲得。孫氏のプレゼン資料づくりも数多く担当した。著書の『社内プレゼンの資料作成術』シリーズは11万部を超えるベストセラー。