一番のポイントはストレートに伝えること
多くのビジネスパーソンが直面する資料作成という作業。完成度の高さを求めるほどに時間がかかる。
「この時間を生産活動にまわせたら、もっと成果が上げられるのに……」。そんなふうに負担に感じている人も多いはず。
かといって、「時短」にこだわるあまり、伝わらない資料をつくっても意味がない。効率良く、見やすくて品格を感じる資料をつくるには、どこに力を注ぎ、どの手間を削るべきなのか? プレゼンテーション資料作成コンサルタントの山橋美穂さんは、「ゴールを明確に設定できていれば、時間をかけずに資料をつくることができます」と断言する。
「資料づくりの一番のポイントは、伝えたいことをストレートに伝えること。その資料で最終的に“何をしたいか”が重要です。意外と、このテーマの設定を間違えている人が多い。例えば、新発売するコーヒーのプレゼン資料をつくるとします。資料のテーマは何かと聞くと、『このコーヒーの魅力を広める』『従来のコーヒーとどこが違うかを知ってもらう』などと答える人が多いのですが、本当の目的は『売ること』のはず。そのゴールを間違えてしまうと伝わるものも伝わりません」
極端な話、「テーマが明確であればスライド1枚でも十分」と言う山橋さん。「買ってもらうというふうにプレゼンテーションの目的を絞り込めていれば、おのずと余計な要素を入れることもなくなり、本質と外れた細部にこだわることもなくなります」
次ページでは、具体的なムダの洗い出しポイントと、資料の品格をワンランクアップさせるためにもっと時間を割くべきところを山橋さんに聞く。
<構成のムダ>
いきなりパワポに向かっている/1ページ目から順番につくっている/明確なゴールを意識できていない/社内外で同じフォーマットを使っている/ひたすら情報を詰め込むタイプ
▼記憶力には限りがある。ポイントは絞り込んで
資料のテーマを明確にし、構成を考えることが資料づくりの大前提。「いきなりパワーポイントに向かう人は、1時間半あっても3、4ページしか進みません」と山橋さん。また、小さくグラフを入れたり、こまごまとした情報を盛り込むことも、相手には伝わらないムダな作業。「1分間にポイントを10個聞くのと1個聞くのとでは、当然1個のほうが記憶に残ります。情報を詰め込んでも、結局忘れてしまうのですから、思い切って絞り込むのがオススメです」
<操作のムダ>
「配置機能」を知らない/手作業で色を変えている/手作業でフォントを変えている/1ページごとにテキストボックスでつくっている/『外資系○○の資料術』などの本を熟読している
▼手作業の3分の1の時間で見た目を整える方法
特に勉強しなくても、なんとなく使えてしまうのがパワーポイントの良いところであり、やっかいなところでもある。「例えば、図形を自動的に配置してくれる『配置機能』を使えば、手作業とくらべて作業時間が3分の1になりますし、『フォントの置換』や『スライドマスター』を使えばフォントの種類や文字の大きさを一度で変えられます」。遠回りに見えて、一度基本操作を学んでみることが結局は近道になりそうだ。
<「こだわり」のムダ>
リサーチ、データ探しに時間がかかることが多い/スピードより完成度を重視している/関連性のないグラフをやたらとのせている/とにかくアニメーションをよく使う/フォントにこだわる/何色を使うか迷う
▼デザインやテンプレのこだわりは必要なし
「資料づくりにとって、リサーチは一番重要」と言う山橋さん。ただ、見つからないデータをひたすら探し続けていたら、いつまでたっても資料は完成しない。「入手できた材料でいかに美味しい料理をつくるか」の精神で、腕を磨く意識が必要。また、ビジネスシーンで使う資料に「デザインやテンプレートのこだわりは必要ありません」とキッパリ。あくまで大事なのは「伝えたい内容を目立たせること」。技巧を駆使して“パワポ使えるぜ”というアピールをしても何の成果にもつながらない。
ここで品格アップ! 力を注ぐべき4ポイント
▼ポイント1:構成をしっかり考える
「時間をかけるべきところは構成」だと山橋さんは言い切る。
テーマを伝えるためのストーリー展開を考え、それにあわせて骨子をつくる。「まずスライドに1枚ずつタイトルだけを書いていきます。タイトルをすべて書き終えたら、何度か読み返してみて話の流れを確認します。ストレートにつながっていればOK。その後、各タイトルにあわせたコンテンツを入れていけば、テーマが伝わるストーリーを持った資料が出来上がります」
ストーリーの見せ方のコツは、盛り上がったところで終わること。
「相手の購買意欲や企画の採用意欲を刺激することができます」
人の集中力は20分が限度といわれている。「スライド枚数は、多すぎてもすべて説明はできません。プレゼンでは、1スライドにつき30秒から1分かけるのがちょうど良い。スライドは20~30枚が適当です」
さらに、行間に十分余白がとられていると、視線にゆとりが生まれる。「1スライドに、1メッセージがベスト。余白がなくなるまで詰め込まないことを心がけて」
▼ポイント2:ルールをつくる
「スライドのルールをつくっておくことで、仕上がりが非常に美しくなります」と山橋さん。最初に、レイアウトを作成するための「スライドマスター」を使って、決めておくべきルールをすべて設定してしまう。
「例えば余白。すべてのスライドの余白がそろっていると読みやすいですよね。箇条書きに使うブレット(行頭記号)も、スライドごとに違うと品がありません。第1ブレットは丸形、第2ブレットは菱形にするなど、あらかじめルールを決めておきましょう。出典や脚注を入れる場所や、メッセージボックスの形も決めておくとよいですね。面倒ではありますが、最初に細かくルール化しておくことで統一感のあるキレイなスライドをつくることができます」
また、「見やすい資料にするならば、色もメインカラーとアクセントカラー、グレーの3色で十分。メインカラーには会社のコーポレートカラーを配色すると、会社の存在感が伝わります」とのアドバイスも。補足的な内容の文章でも、色がなければ寂しいと感じる箇所は全部グレーにすることで、アクセントカラーも生きてくる。「グレーは名脇役なんです」
▼ポイント3:我流を卒業する
パワーポイントの時短につながる機能を使いこなせず、デザインやフォントの設定をひとつひとつ手作業で変えている人も多いのでは?
「特に勉強が必要なソフトではないため、なんとなく使い始める人が多い。我流で操作していると、結局、有効な機能を知らないまま必要以上に作業に時間がかかってしまいます。一度、機能を熟知したプロに教わることをお勧めします」
最近はちょっとしたセミナーブーム。「私のようにマイクロソフト オフィス スペシャリスト(MOS)の資格や、マイクロソフトから授与されたMVPを持つエキスパートのセミナーを受講したり、『ストアカ』など個人向けセミナーを提供するコンテンツから講座を吟味して学ぶのも手。オンライン動画学習サイト『リンダドットコム』などのeラーニングや、無料動画サイトにも基本操作がアップされているので、それらを利用するのも良いですね」
ただし、資料作成においては、スキーム図が多数紹介されるような書籍で学ぶことは勧めないと山橋さん。「本や参考書を読んでも、そのとき自分が伝えたい内容を伝えるためにどの図が最適か判断が難しいことも。社内外の良い資料のサンプルにたくさん目を通して、“これを伝えたいときにはこの手法が有効”というように、自分の中に選択肢をストックしていくことが資料をワンランクアップさせる秘訣です」
▼ポイント4:文章を簡潔にまとめる
山橋さんが「簡単ではないが大事」なポイントとして挙げたのは、文章を簡潔にまとめること。「わかりにくい資料の特徴は、文章が説明的になっていること。説明するためにどうしても文章は長くなりがちです。資料にのせるのは要点やキーワードのみに絞り、相手が早く理解できることが重要です」
フォントにこだわる人もいるが、「見やすければ好みでいいんです」ときっぱり。「違うと思えば、あとで『フォントの置換』を使って一発で変換すればよいのです」
文章作成の段階では、「最初につくった骨子にそって、キーワードを“のせていく”感じでよい」と山橋さん。「また、一瞬で理解できる文字数には限りがあるので、1行が長くなりそうなら2行に分けたほうが伝わりやすいです」
スライドの展開にメリハリをつけるのも大切。「説明のページが続いたら、ところどころにまとめのページを入れて念押しするのも効果的」
文章で注意したいのは、社外用や他業界の人に対してプレゼンするときの資料。「ワードひとつにしても、それが一般的に認識されている言葉かどうかを考えることが重要です。社内や業界内だけで通じる言葉の場合があり、業界外だと違うとらえ方をすることや、知られていないことも。資料を作成するときは、社内用か社外用か、または業界向けかそうでないかを意識してください」
プレゼンテーション資料作成コンサルタント。大学在学中より日興シティグループ証券のプレゼンテーション資料作成チームに就業。身につけたスキルを活かして企業で経験を積み、フリーランスに転向。2015年、日本で6人目のMicrosoft MVP(PowerPoint部門)受賞。