倹約家、オシャレ、情熱的に人を愛する……。日本人がフランス人に持っているイメージの実情はいかに? 日本と比べて際立って違う9つのことを、日仏両方の価値観の違いを観察し続けてきたエッセイスト、吉村葉子さんが現地レポート!

買い物とクローゼットの中

日本人は昔からフランス人のファッションに憧れてきた。グランドメゾン(高級ブランド)も多いが、おしゃれのしかたや買い物事情は実際のところどうなのだろうか。

1. クローゼットに10着しかない理由は?

吉村さんによると「10着以下かもしれないですね(笑)」。

なぜならそもそもフランス人は、それが自分に似合っていたり、自分が気に入った服であれば、同じものをずっと着ていても気にならないから。ちょっと毛玉ができたり、ほころびたくらいで買い足したり、買い替えたりはしないからだ。

イラスト=ヨーコチーノ

またオンとオフの洋服ははっきり分かれている。オンの日は、仕事帰りに女子会で外食ということもしないので、毎日同じような服でも問題ない。

オフはひたすら楽でカジュアルな服を着るのが普通。これまた何着も持っている必要はない。

そしてもうひとつ、意外な理由もある。

「フランスは硬水なので、真っ白な新品のTシャツも一度洗濯すれば黄ばんでしまう。つまり、新しく買った服もすぐに色あせて汚くなってしまうんです。そうすると古い服と変わらないので、新しいものを買う意欲も薄れる(笑)。新品を買って余計な見えを張る人はいないのです」

なお、クリーニング代は日本に比べて驚くほど高額。一般的にジャケット1枚が2500円くらいするので、定期的にドライクリーニングに出す習慣もない。

見た目の新しさにはこだわらないのがフランス流らしい。

2. シャンプーが切れたときに、「残念!」と深いため息をつく

日本人は消費というと、ものを買うことだと思っている人がほとんどではないだろうか。

「フランス人は、買って使い切るまでが消費。日本人が消費と言っているのは、“購買”です」

そして、幸い日本にはあらゆる種類のあらゆるものがふんだんに売られている。目移りする。しかも安くて高品質なのだ。

個人差はあれど、どんどん買って、使い切らないまま捨てたり、放置したり、すぐに新しいものに買い替えることが当たり前になっているのが現状だ。

「日本と同じ価格で同じ品質のものは、フランスでは手に入らないんですよ」

と力説する吉村さん。安いものはそれなりの品質で、高い品質のものはそれ相応の値段がする。だから彼らは、一度買ったら値段の分、とことんまで使い尽くす。

「例えばシャンプーが切れたとします。日本人は、やっと新しいのに買い替えられる、とむしろちょっとうれしく思う人が多いでしょう。でもフランス人は心の底から『Oh! Desolee!(ああ、残念)』と深いため息をつき、買い替えなければならないことを嘆くのが普通なんです」

それくらい、新しくものを買うことに抵抗があり、いい意味でケチなお国柄なのである。

3. そもそも買い物が嫌い? ブランドはいらない?

フランス人はおしゃれだというイメージがある。パリの街を歩けば、Tシャツにジーンズでもなぜかキマッている女性、黒と白の普通のデザインの服をシックに着こなしている女性など、日本人とは違うオシャレさんがたくさん歩いている。それは、本当に自分に似合うものをよく吟味して選んでいるから。ブランドが好きだったり、たくさんの種類の服を持っているのとは違う。

「人それぞれ体形が違い、似合うスタイルもさまざま。有名ブランドのラインが必ずしも自分を一番美しく見せるわけではない、とフランス人は考えます」

そもそもフランスは階級社会で、ラグジュアリーブランドは一部の「セレブ」や有閑階級の人が身に着けるもの。

「月給の何倍もするバッグを20代のお嬢さんが持つことはあり得ません。もしデートに持っていったら、分不相応に高額な買い物をする家計管理能力が疑われます。また、一体誰に買ってもらったのかと相手は不審に思うし、面白くないでしょう」

フランス人はブランドの価値を認めはするが、自分に似合うかどうかは別だと考えている。似合わないものや、自分の収入で買えないものをそもそも最初からほしいとは思わないのだ。

吉村葉子
神奈川県生まれ。立教大学経済学部卒業。生活文化研究家。20年間のパリ滞在経験を通じ、フランスおよびヨーロッパ全域を対象に取材、執筆を続ける。近著に『人生後半をもっと愉しむ フランス仕込みの暮らし術』(家の光協会)。