研修もなく上司からも教えてもらえない、取引先とのメールや手紙の書き方。“一目置かれる”にはどんな書き方をすればいいのか? 「告白」「復縁」「お礼」「謝罪」「遺言書」など、あらゆる分野の相談を受ける代筆屋、中島泰成さんに教わります。
●挑戦者:小野麻衣子さん(38)
メーカーにて役員秘書。秘書歴20年。マンネリ感のあるお礼状をブラッシュアップしたい。「代筆も含め毎日10通、お礼状を書いています! 同じ人に送ることもあるのでバリエーションがほしい。」

▼指令1
ゴルフのお礼に、「謹啓」は堅苦しいです。思い切って省略することで、爽やかな文章に生まれ変わります。季語も思い切って省略しましょう。

(※1)頭語を省き、時候をひらく
ゴルフのお礼に、「謹啓」は堅苦しいです。思い切って省略することで、爽やかな文章に生まれ変わります。季語も思い切って省略しましょう。

(※2)言葉を並べるより、短く簡潔に
「空が抜けるような青さに澄み切る晴天……」は、相手にとっては堅苦しいだけです。「すがすがしい晴天」の一言で伝わります。

(※3)短文に、「末筆では」は不要
このような短い文章なら一目でわかるので不要。それよりも、相手の体を気遣っていることを、さりげなく添えて。うれしくない人はいません。

(※4)句読点のない文章は読みにくい
最大の問題は、句読点を使っていないこと。自社の独自のルールなのだそうですが、受け手の立場に立つと、見直したほうがよさそうです。

▼指令2
上司に同行してよくゴルフや会食をご一緒する取引先企業の部長(45歳)へのお礼状を書いてください。

(※1)外に出て、季節を感じてから書こう
拝啓と季語をやめ、自分なりの言葉に変えてみましょう。難しければ、外に出て季節感を体感することで書きやすくなります。

(※2)比喩表現でイメージを喚起
「街の喧騒が嘘のような」という表現は嘘のように聞こえます。「避暑地のような」といった比喩にすると、イメージしやすく感動も伝わります。

(※3)「とても」「素敵」「素晴らしい」はNG
文章は具体的であるほど伝わります。食事をしてどういう気持ちになったか表現しましょう。抽象的だと「どんなふうにやねん!」と感じるかも。

(※4)段落分けをきちんと行う
段落分けをすると、読む人は呼吸を整えられます。段落のない文章は、息継ぎなしに泳げと言われるようなもの。読み手に優しい段落分けを。

自分がどうしたいかより相手が読みやすいか

手紙に限らず文章は、自分や自社がどうしたいかではなく、読む相手がどう思うかが大切です。僕は、読む相手が読みやすい文章が良い文章だと思っています。

小野さんの会社は、句読点を省くというルールがあるそうですが、読みにくく相手にストレスを与えますし、誤字とも受け取られかねません。

また、珍しい季語は一見、格好良くても、意味を理解して使っている方は少ないです。それより、オリジナルの季節感あふれる表現や文章を考えてはいかがでしょう。季語という枠から離れて、やわらかく考えてみてください。

自分の署名でのお礼状では、親しみを伝えつつも距離感を保つため「皆さま」や「学び」という言葉が有効です。お土産を渡されて「恐縮した」という表現では、相手は「なぜ?」と感じてしまいます。心遣いに感謝し、相手の配慮から学ぶことが大きかったことを伝えると、上下関係や距離感も同時に伝わります。

中島泰成
代筆屋、行政書士。小説『代筆屋』(辻仁成著)をきっかけに代筆業をはじめ、テレビ、新聞などで紹介。「告白」「復縁」「お礼」「謝罪」「遺言書」など、あらゆる分野の相談を受ける。著書に『プロの代筆屋による心を動かす魔法の文章術』。