会社と社会の間で奮闘する5人の広報ウーマンが集結。周囲からはあまり見えない日々の地道な仕事から、火事場の火消し対応まで語りつくします。
(左から)井田さん●流通業界/広報歴4年、鈴鹿さん●メーカー/広報歴1年、小谷さん●人材業界/広報歴15年、福山さん●アミューズメント業界/広報歴4年、横山さん●不動産業界/広報歴14年(イラスト=林 ユミ)

謝罪会見、デマ対応……緊急事態発生!

【井田】実はわが社に広報専門の部署ができたのは、お客さまが商品の使い方を誤ったために3歳のお子さんが亡くなった事故がきっかけ。当時私は社長室にいたんだけど、マスコミから「会見をしないんですか」「商品を見せてください」という電話がじゃんじゃんかかってきて、その日の夜9時に急きょ記者会見を開いたということがありました。それでちゃんとした広報室をつくろう、ということになったんです。

【小谷】嵐の中でのスタートだったのね。

【井田】ある事業が行政指導を受けて、撤退することになったときも会見を開きましたね。でもそのときは社長以下全員トレーニングをして臨みました。

【小谷】そういう記者会見のとき、どんなふうに振る舞えばいいのかを指導してくれる専門の会社があるのよね。

【井田】この質問にはこう答えましょうとか、お辞儀の角度は何度がベストだとか、細かく教えてもらいましたよ。

【小谷】私は前の会社にいたころ、「噂の真相」っていうゴシップ誌に、会社が関わっていたプロジェクトの裏側を暴く、みたいな記事を書かれたことがあるわ。あのときは大変だったなあ。

【横山】私もいまの会社に入ってすぐ、デマが流れたことがあった。大雨で川が氾濫したのは、うちの子会社の手抜き工事が原因だっていうの。真偽はともかく、その会社はうちの子会社じゃないのに。

【小谷】そういうときはどうするの?

【横山】すぐに危機管理対策室を結成して火消し対策を打ちます。

【小谷】ぐずぐずしてると被害が広がるから、スピード勝負。残業や休日出勤でも文句は言えないよね。

消したい情報はこうやって消す!

【福山】根も葉もないデマのときは、あえて放っておくこともありません? うちのお店のトイレで自殺した人がいるってデマが流れたことがあるんだけど、その程度で訂正のリリースを出すのはかえって怪しまれるじゃないですか。

【横山】その程度なら静観するかな。でもいまの時代、悪い情報が拡散するのはすごく速いじゃない? だから何か火の手が上がったな、と思ったら、それを打ち消すような大きなプロジェクトを急いでつくって大々的に発表するようにしてる。そうすると社名で検索したとき、いいニュースのほうが上位に表示されるようになるでしょう。

【小谷】そうか、いいニュースで上書きするのね。火の手が上がったということを、どうやって知るの?

【横山】ネットでどんなふうに話題にされているかを自動でモニタリングしているんですよ。いいニュースが多いと笑顔、悪いニュースのほうが多いと悲しそうな顔が表示されるんですが、悲しい顔が一定のレベルを超えたら緊急事態だから、急いで原因追究。それからタレントさんを起用するなどしてニュースを無理やりつくる。でもニュースを拡散するのはかなり地味で根気のいる作業。「こんなことをするために会社に入ったわけじゃないのに」と思うことも、正直言ってありますね。

広報女子はストレスをためている

【鈴鹿】広報の仕事をしていて、ストレスを感じるのはどんなとき?

【小谷】テレビの取材で半年くらい追い回されているのに、いつ放送になるのか、そもそも放送されるのかも不明なの。

【福山】ああ、わかる。テレビってすごく長くカメラを回したのに、映ったのはほんの一瞬なんてザラだもんね。

【横山】取材されることの多い社長クラスはそういうものだとわかっているけれど、そうじゃない人は田舎のお父さんやお母さんに「今度テレビに出るよ!」って予告するじゃない。でも実際に使われたのは10秒、なんていうときは申し訳なくて……。かといってメディアの人たちとはいい関係を保ちたい。だから常に社内と社外の板挟み。

【井田】うちは広報の重要性が理解されていないから、協力を得るのに無駄なエネルギーを費やすのが腹立たしいわ。

【福山】「そんなこと業績に直結しないじゃん」みたいに言われると辛いよね。

【横山】社外の人と会うことも多いせいか、華やかな部署だと勘違いされている。「いいよね、広報は楽しそうで」って。本当は汚れ仕事も多いのにさ。

【小谷】私は会社の方針が明確じゃないときにストレスを感じるなあ。

【横山】「これをやります」と発表したあとで「やっぱりやめた」とかね。若いときはそのたびに振り回されて、意味のない落ち込みをしていたけど、最近は“経営方針は水もの”と思えるようになってきた。いまは忙しすぎて彼氏ができないことのほうが深刻(笑)。

それでもやりがいのある広報の仕事

【福山】大変なこともあるけれど、やりがいを感じることも多いよね。

【横山】記者さんとのいい関係は、誰でもつくれるものじゃないから、そういう意味ではスペシャリスト。一生ものの仕事だと思う。私の下に入ってきた後輩たちはみんな、「一生広報で食べていきたい」と言ってくれてます。

【福山】広報に来てよかったのは、経営層とコミュニケーションをとる機会が格段に増えたこと。現場にいたときは「なんでこんなことするんだろう」とふに落ちなかったことも、理由を役員から説明してもらって納得できた。

【小谷】私は自分がいいと思ったものを広められるのが広報の醍醐味(だいごみ)だと思う。私自身は裏方で、まわりに光をあてるのが性に合ってる。

【鈴鹿】私は経験が浅いせいか、まだまだその境地には……。そこに行けるようにがんばらないと。

【井田】広報って社会との接点でしょう。そこに私の存在意義があると思うと、すごく楽しい。この春異動になったんですけど、また戻ってきたいです。

【福山】結局みんな、会社が好きで、仕事が好きなんだよね!