島根県の夫は家事に協力的
総務省が日本人の一日の時間の使い方を調べた「社会生活基本調査」というものがあります。私はそのなかでも「6歳未満の子どもがいる共働き夫婦の時間の使い方」に着目し、夫と妻の家事・育児分担率を算出してみました。さらにそれを都道府県別に比較したところ、「夫がよく家事・育児をする県」と、「そうでもない県」があることがわかったのです。
夫の分担率が最も高いのは島根県。全国平均が14.1%であるのに対し、島根県は22.4%でした。
ではなぜ島根県の夫は、家事・育児に積極的なのでしょうか。実は島根県は子育て期の女性の正社員比率が全国一高い県でもあります。正社員が多いのは、この地域では3世代の同居率が高く、子どもを親にみてもらって女性が働きに出られるからだといわれています。しかし正社員ともなれば責任も重くなりますから、仕事を優先せざるを得ないときもある。そこでおのずと男性も家事・育児をするようになる……ということではないでしょうか。
埼玉や東京の夫もよく家事・育児をする傾向にあり、いずれも分担率が16%を超えています。東京や埼玉には地方からの流入世帯が多く、両親や親戚に頼れないため、夫婦で力を合わせて暮らさないとやっていけないのかもしれません。また、四国も夫の分担率は高めです。
それでは逆に、夫が家事・育児をしない県はどこでしょうか。普通に考えれば、「男尊女卑」の風土があるといわれる九州だと思うかもしれません。確かに九州地方は下のほうにランクインしている県もあります。私は鹿児島県出身ですが、なにしろ中学校の家庭科の女性教師が「男子厨房(ちゅうぼう)に入るべからず」と大真面目に言っていましたし、先日も県知事が「サイン、コサイン、タンジェントを女の子に教えて何になる」と発言して物議をかもしていました。
ところがその鹿児島よりも夫の分担率が低いのが、全国最下位の大阪(6.7%)です。これは言い換えれば、たとえ共働き家庭であっても、女性が家事・育児の93.3%をしているということです。
大阪だけでなく、近畿圏はどこも女性が家事・育児の9割を担っているのですが、これはどうしたことでしょうか。ちなみに近畿地方は児童虐待の発生率が高い傾向にあります。家事・育児をしない夫への不満を募らせた妻が、そのいらだちを子どもに向けている、というような図式を勝手に想像してしまいます。
やる気はあるが、スキル不足
大阪は島根を見習うべき、と言いたいところですが、実は1位の島根県も、世界的に見れば決して褒められたものではありません。先進国における夫の家事・育児分担率は3~4割が当たり前。子どもがいる共働き夫婦の夫の家事・家族ケアの分担率は、スウェーデンが42.7%、フランスが38.6%、アメリカが37.1%、イギリスが34.8%で、日本は最下位です。
なぜ、日本の男性は世界一家事をしないのでしょう。それにはいろいろな理由が考えられますが、大きなものとしては、日本が男女の役割分担がはっきりしている社会であること、男性の労働時間が国際的に比較して長いことなどが挙げられます。
さらに私がもうひとつの原因ではないかと考えていることがあります。それは男性の家事スキルの低さです。本当は男性も家事をしたくないわけではない。ただ今まであまりやったことがないので、料理をさせても掃除をさせても下手。結局女性がやり直すはめになるから、手を出させてもらえない。それで夫はますます家事スキルを身につける機会がなくなるというわけです。
本当は男性もやる気はあって、現に20代の男性の6割が、「男性も家事・育児を行って当然である」と考えています。今の若者は男性も家庭科を必修科目で学んだ世代ですから、ジェンダーフリー教育の成果があらわれてきているのかもしれません。
ですから下地はできています。あとは長時間労働の解消など労働環境が改善されること、そして男性が家事スキルを身につけること。それが実現すれば、男女の家事・育児分担率は欧米に近づくのではないでしょうか。
武蔵野大学、杏林大学兼任講師1976年生まれ。東京学芸大学大学院博士課程修了。博士(教育学)。専攻は教育社会学、社会病理学、社会統計学。主な著書に『教育の使命と実態』『47都道府県の子どもたち』『47都道府県の青年たち』(いずれも武蔵野大学出版会)などがある。