人口減少、高齢化社会に向かう日本ではこれまで社会的な少数派に追いやられていた女性の活躍が求められている。女性の起業家の割合は過去20年間、およそ12%~15%で推移している(日本政策金融公庫総合研究所「新規開業実態調査)。起業時の年齢は男性に比較して平均年齢が4.5歳若く、起業前の就業経験年数も女性の方が短い傾向にある(経産省委託「女性起業家に関するアンケート調査、三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。こうしたことから、起業時において女性の方が経営や事業に関する知識・ノウハウが不足している傾向にある。
仕事も家族もどちらも幸せな状態を目指す
日本ママ起業家大学(学長・近藤洋子氏)はこれから起業しようと考えている女性、自己流で起業したものの初期段階でつまずいている人をサポートする組織。近藤洋子学長は「ただ、お金を稼ぐだけでなく、仕事も家族もどちらも幸せな状態を目指す」と、“ママ起業”という新しい生き方を提案している。
10月のある日、都内で開かれたママ起業大学の授業を見学した。開講は10時。7人の参加者はいずれもママさん。3回目となる授業のテーマはマーケティングについて。近藤学長の講義のほか、男性講師がテレビ会議で講義し、熱心にメモを取る参加者の質問にも答えていく。
近藤学長は、FMラジオのDJとしてのキャリアは約15年。各分野のカリスマへのインタビューは延べ4000人超。TV通販では家電ナビゲーターとして1日で1億円超の売り上げを記録したという実績を持つ。「15秒で相手の心をつかみ、1分で売れる!」セルフプロモーションの専門家として、これまでに延べ300人以上の女性起業家たちに個別レッスン、セミナーを開催。またプロアスリート専属のメディアトレーナーとしても活躍。 プライベートでは女児の母。働くママの会員制のコミュニティ「Dear.Tomorrow Family」の副代表も務めている。
近藤学長の主張は、「一億総活躍は企業の雇用が大前提ではないはず。ママ=家庭の中心であり、子育てという人類にとって最も重要な仕事をしていることを前提に、“働き方”の方を考え直すことが、必要ではないか」。
「仕事は、会社に勤めて給与をもらうことではない。誰かの役に立ち、喜ばれ、その喜びに見合う報酬と感謝とをバランスよく受け取ること。そしてそのような仕事は、子育てしながらできない理由などない」という。
ママ起業大学の特長は、実践的であること。ITを活用し、マーケティング、セールス、情報発信、集客の方法などを学びながら、名刺やプロフィール、セールスツール、ホームページなどの稼ぐための必須ツールを作っていく。また、自分の“メディア化”に重点を置いている。
起業を考える男性にも役立つ「ママ大 福十訓」
ママ大の卒業生には次のような人がいる。
◆ママ大1期生 廣瀬淑子さん 美小柄プロデューサー
起業のきっかけは自分自身の、コンプレックスという。小柄で悩んでいる人の助けになればという想いで「美小柄プロデューサー」という仕事を生み出した。現在は企業とのコラボ企画も増え、元町ブランドとのコラボで「ハマトラファッションショー」を開催。
◆ママ大3期生 荻原美奈さん ママWEBデザイナー起業専門トレーナー
おうち起業としてママになってから、WEBデザイナーを目指す人を、月収20~30万円を稼げるWEBデザイナーに育てるためのコンサルタントとして事業をスタート。2児の母として奮闘しながら、働く場と時間を自分でコントロールしながら活躍している。
◆ママ大4期生 市川知子さん ワイヤーディップアート作家
自分ひとりでは失敗するのが怖くて、足踏み状態だったところから、現在は、パートで得ようとしていた収入額を超え、3人の子育てと家庭、好きな仕事と充実した毎日を送っている。「起業というと壮大なイメージを持ちがちだが、自分が幸せを感じるサイズと収入を得ることができるのがママ大の特徴」という。
◆ママ大4期生 浅枝真貴子さん ニッポンの文化財に泊まろう!“文泊“プロデューサー
ビジネスアイデアを発表する機会がご縁ときっかけを生み出してくれた。ママ大にいつでも相談できるという安心感が、ひとりで起業する不安感を払しょくしてもらえた。「今の私は、ママ大に入らなければなかったと感謝しつくせません」という。
広告会社電通には電通マンの行動規範「電通鬼十則」と呼ばれる有名な言葉がある。近藤学長は、「戦うビジネスマンの行動規範として立派なものだと思いますが、ママ起業家としては少々違う考え方をしてもいいのではと思います。外に向けて戦う男性が『鬼十則』ならば、『鬼は外~福はうち~』とママ起業家向けに「福十訓」をまとめてみました。皆さんの行動規範として、参考にしていただければ幸いです」という。
ママだけでなく、これから起業を考える男性にも役立つ考えではないだろうか
【ママ大 福十訓】
(1)仕事は自ら創り出したものの方が、与えられたものよりもずっと楽しい。
(2)仕事とは、喜ばせた相手から報酬と感謝を受け取り、自分も嬉しいものであり、「お金のために我慢する嫌なこと」ではない。
(3)何のためにいくら収入を得たいかをまず考え、それを元に仕事と時間の計画を立てよう。どれだけ収入を得ても満足を得られないなら、自分も家族も不幸にする。
(4)自分が仕事を通じて幸せにしたい人を具体的に想い描き、その人に向けて発信し熱い支持を得よ。すべての人を客にしようと思わなくてもいい。
(5)やり始めたら続けよう。ペースを落としてもやり方を変えてもとにかく続けること。うまくいかないのは、うまくいくまでやらないからである。
(6)周囲を頼れ。家族は巻き込め。周囲に相談し、助言を求め、手伝ってもらい、感謝を返す。助け合って成長すれば、互いの関係がお金にかえられない財産となる。
(7)ワクワクする夢を持て。成功した未来の自分を具体的にイメージせよ。未来の自分が見えれば、今の自分に忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
(8)自信を持て。誰だって誰かを幸せにすることができ、もちろんあなたにもできる。相手を少し幸せにできる自信は、仕事の根源であり、あなたの生きる糧になる。
(9)頭は常に全回転。八方に気配りと感謝を忘れるな。提供する本質は気配りであり、受取る本質は感謝である。サービスとはそのようなものだ。
(10)弱みを見せるのを恐れるな。疲れたら休め。感謝を忘れなければ泣き言をいってもいい。それでも応援してくれる人があなたが一生付き合う客であり、仲間であり、家族である。