たとえ大金を手にしたとしても、使ってこそ“お金”。上手に使えないと、人生の最期に後悔が待っているかも……。お金があっても、未来が見えない女性の苦悩をレポート&分析した。(分析してくれる人:マネーセラピスト 安田まゆみさん)

いくらあっても足りない――。友人の言葉が脳裏をかすめて

お金が貯まらないと悩む声はよく聞くが、「お金はあっても、どう使っていいかわからなくて……」と漏らす女性たちもいる。贅沢な悩みといえばそれまでだが、昨今はお金の使い方に迷う人たちも増えているようだ。

イラスト=ユリコフ・カワヒロ

大手メーカーに勤めるYさん(45)はシングルで、年収600万円ほど。30代半ばに5000万円近い3LDKのマンションを購入し、すでにローンは完済している。今は貯蓄も2000万円ほどあるが、気になるのは自分の老後。

「どのくらい取っておいたらいいでしょうね」と心配は尽きない。老後の安心のためにと、好きだった海外旅行もあきらめ、コツコツ貯める日々を送っている。

一方、外資系商社で年俸2000万円以上を稼ぐKさん(51)は、夫と共働きで世帯年収3000万円を超える。都心の分譲マンションで暮らし、週末は近郊の別荘で過ごすという優雅なDINKS生活を満喫。資産は1億円近くあるものの、「これでも足りないのでは……」と不安を隠せない。思わず「どうして?」と聞けば、投資銀行で働いていた友人の言葉が頭から離れないのだという。「お金なんかいくらあっても足りないのよ」と話していた彼女は、50歳を目前に難病を患い、高額な治療のかいもなく亡くなったそうだ。

こうしたお金を使えない女性たちの中には、貯めた現金でひたすら資産運用に励む人もいた。保険会社に勤めるMさん(39)は1DKの賃貸マンションで一人暮らし。銀行口座には常に100万円だけ入れておき、残りはすべて投資に回している。外貨の変動に一喜一憂し、リーマンショック後の1年間は帰宅後のひとりの部屋でお金を失った恐怖と闘っていたそうだ。その後もたまに友人と会うことはあっても、洋服や化粧品はほとんど買わず、自宅でパソコンに向かっている。

投資にのめり込むようになったのは、郷里の実家に同居する叔母の姿を見ていたから。独り身で手に職もなく、遠慮がちに暮らしていた叔母が哀れで、「あんなふうにはなりたくない」と思い、お金を貯め始めたと振り返る。

老後の不安が大きく、怖くてお金が使えない

実際に「お金をどう使っていいかわからない」と悩む人たちの相談にも応じるマネーセラピストの安田まゆみさんは、その背景にある心の問題とも向き合っている。

「老後の不安がすごく大きいのです。老後に対する悲観的な予測が漠然とあり、強迫観念にかられて心配でたまらないから、貯金を減らしたくないと。変に先々のことを考えるため、怖くてお金が使えないわけなんですね」

カウンセリングをとおして、安田さんは「本当はどうしたいの?」と聞いてみる。すると、こんな仕事をしたい、自分の夢を追ってみたい、などと本当にやりたいことも出てくるが、貯めたお金は老後のために取っておくので使えない。それゆえ自分の生活が満たされないという、心の葛藤も浮かぶ。

さらに話を聞いていくと、幼少期に親が借金を重ねて苦しむ姿を見ていた女性は、お金や家を持つことへのこだわりが強かった。あるいは親が厳しすぎて自分を認めてもらえなかったという女性は、自己肯定感が低くいくらお金を貯めても不安でならない。親の介護や知人の死によって、過剰に老後の生活を案じる人たちも多い。

「お金を上手に使えない人は、メンタルブロックがかかっていることも多いのです。親子関係などに起因するトラウマを抱えるケース、未来に対する悲観的な見方に振りまわされるケースの2通りがあり、心を閉ざしてしまいます。そうしたメンタルブロックを解消しなければ、先へは進めません」

他人がうらやむ額のお金を持っていても心は満たされず、常にお金への不安が渦巻いている。

無駄に使いすぎて後悔する人も

お金を上手に使えないという点では、無駄に使いすぎて後悔する人たちもいる。本人は「贅沢はしてない」と言うが、100円ショップや量販店であれこれ大量に買い込んだり、頻繁にファミリーレストランへ行っていたりする。浪費と自覚していない人が危ういと、安田さんは見ている。「じゃんじゃんお金を使っているけれど、本当に欲しいものに使っているわけじゃない。その場限りの欲求を満たしているようなお金の使い方では、満足感は得られません」

お金を使えない人も、無駄に使いすぎてしまう人も、自分の人生において、本当にやりたいことができなければ後悔するだろう。それをつい環境や誰かのせいにしがちだが、「お金があることで、自分がやりたいことの選択肢が増えます。でも、何を選んで決めるかは自分であり、お金はあくまでもそのツールなんです。大事なお金を使うなら、自分の心を満たすものに目を向けてほしいですね」と安田さん。

お金は「人生の応援団」と、女性たちに熱いエールを送る。

【お金を使えない人の結末は……】
・本当にやりたかったことを我慢して後悔
・お金の増減だけを気にしていた人生を後悔
・ストレスから病気になり後悔
・友人との付き合いがなくなり後悔

お金に不安を抱えている女性たちは、一様に人生を謳歌(おうか)することをあきらめている。お金に執着するあまり、友人たちとの付き合いも希薄になり、精神的に不安定になりやすいのも特徴。お金は使ってこそ生きるものと、キモに銘じよう。

【お金を使いすぎる人の結末は……】
・お金が貯まらず、老後貧乏で後悔
・本当に欲しいものに使っていないことに後悔
・いざというときにまとまったお金が出せずに後悔
・やりたいことをやれずに後悔

何に使っているか把握できない「ざる会計」の女性たちは、自分の無駄遣いに目を向けることはない。お金と向き合わずに、お金に好かれることはない。「こんなはずじゃなかった」と後悔しないためにも、早々にお金との付き合い方を見直そう。
安田まゆみ
マネーセラピスト。「元気が出るお金の相談所」代表。東京生まれ。著書に『月5万円ムリなく貯まるシンプルな生き方』(中経の文庫)など。今買いたいものは、「ONE OK ROCK」のライブDVD。