アメリカ・カタリストの調査によると、女性役員が多い企業は、少ない企業に比べて、業績が高くなるという。その理由が聞きたくて、CEOのデボラさんを直撃すると……

※CATALYST(カタリスト)とは?
1962年に創立されたカタリストは、女性のキャリア推進とビジネスの発展をグローバルにリードする企業会員制の非営利団体。会員企業に向け、働く女性のためのリサーチやダイバーシティを進めるための情報、コンサルティングなどのリソースを提供している。現在、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、インド、オーストラリア、日本で事業を展開し、会員企業は800を超える。カタリストの活動基盤は徹底した調査にあり、膨大なリサーチから浮かび上がる事実を科学的に分析することで、ビジネスを発展させる解決策を見いだそうとするもの。毎年、各組織の女性の雇用や人材開発などを綿密に検証し、すぐれたイニシアチブをとった団体を「カタリスト・アワード」として表彰。表彰によって多くの組織にとってもモデルとなる事例を紹介し、働く女性と企業がより躍進し、成功していくためのサポートに取り組んでいる。

消費活動の64%は女性が握っている

女性の役員や管理職が多い会社はなぜ業績が上がるのか。そこにはいくつかの理由があります。

カタリスト プレジデント兼最高経営責任者(CEO) デボラ・ギリスさん

第一に挙げられるのは、そうした組織は市場の動向を敏感にキャッチできる、ということ。購買にまつわる判断には女性が大きな影響力を持っています。世界レベルの調査によって、消費活動の64%は女性がカギを握っている、というデータが明らかになっています。そうした市場に対して製品やサービスを提供するのですから、市場、つまり女性たちの行動を理解することは、もはや企業が生き残るための必須戦略。

2013年、女性が影響力をもった購買は29兆ドル、それが18年には40兆ドルになると推測されています。女性が経済に与える影響はすでに大きく、さらに今後も拡大していくことは明らかです。女性の能力を開発、活用する企業が業績を伸ばしていくのは、市場の実態からみても必然のことと言えるでしょう。

もうひとつの理由は、働く人の意識です。一人一人が職場のなかで受け入れられていると感じられる企業ほど、新しいアイデアやダイナミックな変化が生まれやすいもの。私たちは、それをチーム・シチズンシップと呼んでいます。女性を多く登用し、多様な人材を開発する環境をととのえている職場では、チーム・シチズンシップが自然に生まれ育まれます。働く人が会社に対してよい帰属意識を持つことこそ、企業を発展させるための豊かな土壌となるのです。

女性の登用を推し進めるためには、男性の意識改革も必要です。とくに管理職や役員のポストは男性のもの、という意識が根強い企業では、女性を登用すれば、その分、男性のポストが減ってしまう、と考える傾向もあるでしょう。女性が勝つか、男性が勝つか、同じ会社でありながら、対立する勢力のように捉えられているのは悲しいことだと思います。

この問題を解決するために必要なのは、女性のパワーを企業の目的、発展に結びつけること。女性にとっていいことは、男性にとっても、企業にとっても、そして家族や地域、さらに大きな視野で見れば国家にとってもよいこと。0か1かのポスト争いではなく、機会を拡大してビジネスに結びつける、という発想の転換が求められています。男女の別なく、能力のある人を引き上げる。その一歩を踏み出すために、男性もスポンサーシップの手本となって、優秀な女性にどんどん活躍の場を与えていってほしいと思います。

企業や社会の変革も不可欠です。能力があっても、家庭や子育てのことを考えてキャリアを断念する女性も少なくありません。多様な人材を受け入れる、ということは、そのバックグラウンドまでも含めて支えることです。経済を動かす社会の一員としても、また母や父、妻や夫としても満足できる働き方ができること。そのためには長時間労働は削減し、男性も家庭の責任を担っていく必要があります。女性の側も固定概念に縛られず、より能力を生かせるチャンスに踏み出していくこと。一部の変化にとどまらず、全体で変わっていく努力が何よりも大切です。

▼フォーチュン500では「女性役員の存在」は、優れた財務業績に結びついている
※「フォーチュン500」は、アメリカのフォーチュン誌が毎年1回編集・発行するリストの一つ。全米上位500社がその総収入に基づきランキングされる。

【左】ROE(株主資本利益率)【右上】ROS(売上高利益率)【右下】ROIC(投下資本利益率)
 

●ROE(株主資本利益率)
Return on Equityの略で、株主からの資金がどれだけ利益につながったかをあらわす財務指標。ROEが高ければ、株主資本を効率よく活用して収益をあげる経営が行われている、ということ。配当能力を測るものさしにもなるため、投資尺度としても重要視される。
●ROS(売上高利益率)
Rate of Salesの略で、コストや人件費、税金などを差し引いたあとに残る純利益が売上金額に対してどのくらいあるかを示す数値。高い企業ほど、収益力があるということ。ROSを比較することで、その企業の市場での競争力を測ることができる。
●ROIC(投下資本利益率)
Return on Invested Capitalの略。企業が投じた資金(投下資本)を使って、どれだけ効率的に利益を生み出したかを見る指標。税金を差し引いた純利益を投下資本額で割ることにより計算される。本業で稼ぐ力を見るのに適している。

Deborah Gillis(デボラ・ギリス)
カタリスト プレジデント兼最高経営責任者(CEO)。カナダ・ヨーク大学を卒業後、20年以上にわたって官民両セクターのコンサルティングにあたる。2006年よりカタリストにて勤務し、グローバルな成長戦略を推進。初の米国以外の地域出身のCEOに。貧しい家庭に生まれ、「両親は高校にも行けなかった」というデボラさん。しかし常に、学ぶことの大切さ、そして自分の持つものを持たざる人へとシェアすることの尊さを教えられて育った。その教えが、「世界をよりよい場所に変えたい」という情熱の根底に。高校時代に、「男女の同一賃金」をテーマにディベートしたことをきっかけに、女性の躍進に注目。以降、一貫して女性が活躍できる社会づくりに力を尽くしている。乳がんを乗り越え、多くの困難を克服してきた彼女の発言は、さまざまな分野のリーダーからも注目を集めている。