海外には残業がほとんどなく、「定時に帰る」のが当たり前の国もある。長時間労働が慢性化している日本と比べて、一体なにが違うのだろう? オランダ、ドイツ、北欧など、労働時間の短い国々の実態を調べてみた。

ヨーロッパ諸国の労働時間が短い理由

経済協力開発機構(OECD)の調査(2012年)によると、日本の労働者の年間労働時間は、平均1745時間。これに対して、オランダは1384時間、ドイツは1393時間、ノルウェーは1418時間、デンマークは1430時間、フランスは1479時間。これらの国の労働時間は、日本より約270~360時間も短い。

また、総務省の「労働力調査」(2014年)や国際労働機関(ILO)のデータベース(2015年1月現在)によると、週49時間以上働く長時間労働者の割合も、日本が21.6%あるのに対し、スウェーデンが7.6%、フィンランドが8.1%、オランダが8.6%、デンマークが8.7%、イタリアが9.6%、ドイツが10.5%、フランスが10.8%と、約2~3倍もの開きがあった。

イラスト=ハラアツシ

こうしてみると、ヨーロッパ諸国では労働時間が比較的短く、長時間労働者も少ない――つまり、定時退社が一般的であることがわかる。

定時に退社できる理由は、国の法律や労働協約によって、労働時間の「上限」が明確に決められているからだ。

ヨーロッパでは、戦後の高度成長期に各国で労働時間の短縮化がすすみ、法律上の労働時間の基準が1日8時間、週35~40時間前後となった。

フランスではかつて法律による規制が週40時間だったが、2000年代にオブリー法という法律が施行され、現在の法定労働時間は35時間。

ドイツには、週6日として最大48時間という法規制があるが、労働協約により、ほとんどの業種で週40時間以内に抑えられている。

オランダでは法律上は週60時間を上限としているが、現在の産業別労働協約では平均38時間。

デンマークも労使協約によって週37時間と定められ、シフト制で夜間勤務などに就いている場合はさらに短くなっている。

スウェーデンは、週最高40時間。フィンランドも1日8時間、週40時間。

イラスト=ハラアツシ

さらに、残業時間についても各国で細かく規制されている。

●最長労働時間は10時間/日、48時間/週、ただし、週の平均労働時間が連続12週間にわたり44時間を超えてはならない(フランス)
●1日の労働時間は10時間を超えないこと、6カ月ないし24週平均して1日あたり8時間を超えないこと(ドイツ)
●4週間48時間まで。または月最高50時間まで。ただし年間200時間まで(スウェーデン)
●残業は従業員の同意を得たうえで、暦年で最高250時間まで。ただし4カ月に138時間を超えてはならない(フィンランド)

わが国ではどうだろうか。日本でも戦後に労働基準法ができて、法定労働時間は週40時間となっている。ところが、時間外労働(残業)の上限基準を設定する法律は存在しない。36(さぶろく)協定を結びさえすれば、労働時間を雇用者側が延長できるシステムだ。これこそが、日本の長時間労働の大きな要因になっているといえる。

仕事が「シェア」されているから早く帰れる

OECDの加盟国でもっとも労働時間が短いオランダは、ワークシェアリングを生み出した国。土日のほかに平日も1日休む「週休3日制」で働く人も多く、子どものいる人は「週休4日制」にしているケースもある。

なぜ、そんなことが可能なのだろう? オランダで6年働いている日本人女性は、「仕事が人につくのではなく、シェアされているから」と言う。

「評価は成果主義。業務範囲がはっきりしていて、自分の業務で成果を出していれば、どんな働き方をしてもよいと考えられているようです」

オランダ人は家庭での時間を大事にするので、家族のいる人は仕事が終わればたいてい家に直帰し、男性も女性と平等に子どもの送り迎えをし、面倒をみるのが普通という。

イラスト=ハラアツシ

2番目に労働時間が短いドイツでは、朝早くに業務をスタートして、その分早めに退社する傾向が強く、8時に出社して、夕方4時に帰ったりする。

ドイツに2年滞在している男性によると、「共働きの家庭が多いので、子どもが病気になった場合は、夫婦のどちらかが在宅ワークを行っています」。

業務が少ないときは早く帰宅し、繁忙期の残業時間を振り替えるのが一般的。また、日本とは違って各種サービスや工事業者が平日の日中しか営業しないので、自宅の水道・電気工事の立ち会いをしたり、病院に行ったり、美容院に行くなどの理由でも在宅ワークやフレックスタイムを活用することが多いという。

「バカンスを楽しむ」文化が根づいている

有給休暇(長期休暇)を取ることも、当然の権利として認められている。

ヨーロッパ諸国では多くの場合、年間5週間の有給休暇が認められていて、消化率はほぼ100%。冬季に1週間、夏季に3~4週間まとめて休むのが一般的だ。夏の休暇は、フランスで「バカンス」、ドイツでは「ウアラウプ」と呼ばれていて、働く人々にとっては一大イベントである。

オランダでは春先になると、「今年の夏はどこに行くの?」という話題で盛り上がり、人気のホテルや格安航空券の争奪戦が早くもはじまるという。

ドイツでは、アパートメントタイプの宿泊施設を借りて、家族でゆっくり過ごす人が多く、とくに人気の高い行き先はイタリアやスペイン。

フランス人は海外にはあまり行かず、南仏のリゾート地で過ごすのがスタンダード。

1カ月近くも休めば当然、経済活動は停滞する。夏になると取引先の担当者と連絡がつかないことも増える。それでも、腹を立てたり文句を言う人はほとんどいない。なぜなら、それは「お互いさま」だから。長期休暇は文化としてしっかり根づいているのだ。

いっぽう、日本はというと、フルタイムで6年半勤めても年20日の有給休暇が認められる程度。その少ない有給も、取得率はわずか48.8%(厚生労働省2014年就労条件総合調査結果)。それなのに、日本の労働生産性はこれらヨーロッパ諸国より低いという悲しい結果が出ている。

人は定時に帰り、思いきって長期休暇を取ったほうが労働意欲が高まり、効率よく働ける――ということなのだろうか?

※リサーチ協力=EYアドバイザリー株式会社 参考資料=「海外に学ぶ労働時間規制」(田端博邦)、「データブック国際労働比較2015」(労働政策研究・研修機構)、「欧州各国の雇用制度一覧」(2009年・JETRO)