仕事、家庭生活、お金、親子関係……、さまざまなお悩みに、110冊以上の著作を誇る作家の本田健さんと、PRESIDENT WOMAN Onlineの連載「WOMAN千夜一夜物語」でおなじみのコラムニスト河崎環さんが回答する人生相談、今回は「気の利かせ方」についてのご相談です。
社会人歴3年目の会社員です。職場でも家でも「気が利かない」と注意をされます。言われたことはできますし、学校での成績も決して悪くはなかったのですが、どうしても気を利かせるということができません。そもそも“気を利かせる”ということがどういうことか分からないため、何をどう努力すればいいのかすら分かりません。気が利く人になるためには、どうすればいいのでしょうか。
すべての魅力を兼ね備えている人はいない
こういうことで悩んでいる人はたくさんいます。多くの人は、気が利くということは、ある種の特殊能力で、自分にはその力がないと悩むからです。「気が利くかどうか」については、判断が難しいところがあります。なぜなら、その基準は、人によって、全然違うからです。
「気が利く」ということをちょっと分析してみましょう。そもそも、どういう人が、気が利く人なのでしょうか。
例えば、一緒に食事をしているときに、相手のグラスが空になったとします。そういうときに、ウェイターの人を呼んで、「おかわりを何にしますか?」とさりげなく聞ける人は、「気が利く人だ」となるのではないでしょうか。あるいは、お客さんが来ているのに、「どうぞ、おかけください」と言わない。コートを脱いで手で持っているのに、「コートお預かりしましょうか」という一言が出ない。こういう人は、気配りができないということになります。
「気が利く」には、観察力、想像力、行動力の3つの能力が必要なことがあることが分かります。
まず、観察力です。周りがどうしているか、グラスは空かなどの、状況把握が必要です。これができないと、次に進む事ができません。気が利かない人は、グラスが空かどうかを認知する力がそもそも欠けているともいえます。
次に、想像力です。相手のグラスが空になっているとしたら、もう1杯欲しいかもしれないと想像して、ウェイターの人を呼んであげるというのも想像力です。気が利かない人は、この想像力がない人です。
そして、最後に行動力です。観察して、想像して、実際に行動に出ることなければ、気が利く人にはなれません。
あなたには、何が欠けていましたか? この3つを意識して磨いてください。
作家。神戸生まれ。経営コンサルタント、投資家を経て、29歳で育児セミリタイヤ生活に入る。4年の育児生活中に作家になるビジョンを得て、執筆活動をスタートする。「お金と幸せ」をテーマにした1000人規模の講演会、セミナーを全国で開催。インターネットラジオ「本田健の人生相談~Dear Ken~」は2200万ダウンロードを記録。
代表作『ユダヤ人大富豪の教え』(大和書房刊)など、これまでに著書は110冊以上、累計発行部数は700万部を突破。
「察する」が尊ばれる日本文化の中でとるべき行動とは
【河崎環さんの回答】
この「気が利く」という言葉は大変な曲者でして、日本のコミュニケーションにおける非常に典型的、かつ独特な感覚です。彼らにはものすごく大事らしいのに、何一つ具体的でないという、ひどいありさまです。「すべてコミュニケーションとは基本的に言語化して伝えるべきものである」との社会習慣を持つ文化から来た外国人からすれば、日本人は大真面目に「エスパーになれ」と言っているようなものです。
つまりは「人に言われずとも、自分から空気を読んで先回りし、他者のニーズをくみ、行動せよ」ということらしいのです。「わざわざこっちに言わせるな! 言われる前に気付け!」などと叱責されたりします。なんて理不尽なんでしょう。古くは織田信長の草履を懐で温めていた木下藤吉郎の時代から、“先回りの行動”は日本では高評価。「はぁ? 自分がこうして欲しいと思っているなら、その通り直接伝えりゃいいでしょうよ? なんで自分は口も開かずに、察して欲しいとか、まして察するのが当然みたいに思うわけ?」むしろコミュ障なのは「察しろ」と押しつける側の方じゃないか? と思うわけです。
ですから「気が利く」なんてのは、目に見えない空気を読むだとかナントカで五感以上の第六感をやたらと磨きたがる日本人の奇妙な精神習慣だと捉え、「郷に入れば郷に従え」と観光客気分で受け入れ、形式をなぞってまねしてあげればいいのです。「気を利かせろ」なんて特殊そうに聞こえることを言ってはいても、特別なことはせず通り一遍の対応をしてあげれば、彼らは満足します。
上司がキョロキョロしていたら「何かお探しですか?」「お困りですか?」、家族がダルそうにしてたら「疲れた?」「おなかすいてない?」「何か手伝おうか?」。おや、まるでこれは顧客満足のためのマニュアル対応ですね! そう、直接的なコミュニケーションを避けるくせに「ニーズを察しろ」だなんて、どこか「お客様は神様だろうが!」のクレーマー的。だからどんどんマニュアル主義になっていくんですね、日本社会って(毒)。職場でも家庭でも、顧客マニュアル対応で八方収まり、みんなハッピー(猛毒)。いやいや、日本人ってシャイなんですよ。ですから察してあげないとダメなんです。せめて私たちは、自分の思いやニーズはきちんと言葉にして伝える他者への親切さと厚顔さ(?)を持って生きていきたいものです。
※今回で連載「本田健と河崎環の『人生曼荼羅』」は最終回となります。ありがとうございました。
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。