多くの企業が、社員に「成長せよ」と望んでいます。成長している自信がない、そう言われると焦る――そう思ったら、あなたがすべき事とは?

あなたは成長していますか?

「あなたは成長をしていますか?」

この質問に胸を張って「はい」と答えられる人ならば、本日のコラムを読む必要はありません。

ここで指す成長とは、ビジネス社会における自分自身の成長、簡単にいうと「働くために必要な能力が適切に身についているか」を意味しています。「身体が色々な意味で成長した」(笑)という人や、「仕事ができるようにはなっていないが、精神的にはひと回りもふた回りも大きくなった」という人は多いかもしれませんが、そういう成長は今回は除外ということで(それはそれで成長と捉えてもいいのかもしれませんが)。

いま、多くの企業では従業員を成長させることに躍起になっています。従業員の成長こそが組織の発展であり、結果として企業にとって不可欠なことである、という図式ですね。

もちろん、どこの企業も社員に対して「組織のために成長をしろ」という言い方はしません。その辺りは上手にオブラートに包んで、「自らが成長することが、結果的に自分自身を幸せにするのだ」とモチベートする仕組みを取ってはいますが、本音の部分では「今よりももっと、できるようになってほしいし、なってもらわないと困る」と考えているのです。

そういう状況に追い込まれたときに、「燃えるぜー、やってやるぜー」とファイトむき出しになるという人もいますが、「自分は本当に成長できるのだろうか?」と考え込んでしまう人も多いはずです。「成長」という言葉を見かけるたびに、ある種の焦りを感じたり、気分が滅入ってしまったり。果ては「みんながみんな、出世したいわけじゃないし!」などというセリフが口について出てしまう人もいるかもしれません。

しかしなぜ、企業は急に従業員の成長を意識しだしたのでしょうか。前振りが長くなってしまいましたが、今日はその辺りの話と、皆さんが成長という言葉に焦りを覚えなくて済む、ちょっとした日々の行動について、書いてみたいと思います。

必要な人が採用できないのなら、いまいる人を育てるしかない

なぜいきなり、企業が従業員の成長に興味を持つようになったのか。そもそも国内の企業の多くは、それこそ真っ白なキャンバスのような新入社員を採って、一から丁寧に教え込み、企業の成長とともに、彼らが戦力になっていくというプロセスが大好きです。

最近は随分変わってきたという人も少なくありませんし、実際そういう変化はありますが、一方で、未だに昔ながらの人の育て方をするのが好きという企業も多いものです。しかし、ビジネスの流れが以前よりも何倍も早くなった昨今、たくさんの(ポテンシャルがあると思われる)人を採用して、ゆっくりと時間をかけて育てて、そのうち数人が戦力になるかもしれないという方針では、人が足りなくなってきたのです。

「だったら他所から採用すればいい」という声が聞こえてきそうですが、それもなかなか難しい。転職市場と呼ばれるマーケットは仕事を求めている人で溢れかえっていますが、企業が求める能力を持ち合わせているいう人は意外に少ない。採りたい人が採れないのです。

結果として、ある程度「できそうだ、成長しそうだ」という人を自社の中から見つけ出し、必要なスペックやスキルをなるだけ早く身に付けさせて、とりあえず戦力化させないことには、ビジネスが大きくならないという状態に追い込まれている企業が多い、というのが現状です。多くの企業は、人の問題でほとほと頭を抱えているのです。

さまざまな手段を使って育成することによって、企業は現状の従業員の成長に期待するしかない。厄介なのは、冒頭でも書いた通り、「成長することで、その人の人生も素敵なものになる(だから頑張れ)」というモチベーションの持たせ方をすることが多いという点です。これ以上深くは追求しませんが、仕事とそれ以外のこと(私生活など)のバランスや価値は、それぞれ人によって考え方が異なるので。ただし、企業は“とても巧妙に”やる気を持たせる術を知っており、それは皆さんの身近にも普通にあるということだけ、ここでは指摘しておきます。

「成長」という言葉の怖さは、それを自分で実感できない点にある

さて、冒頭のお題に戻ります。「成長せよ」と言われるとなぜ焦りを覚えるのか? 原因はいくつか考えられますが、最も大きいのは「成長そのものは、目に見えないことが多い」ことに尽きる気がします。

例えば、語学力のテストなど、スコアがはっきりしていて、いつも目に見えているものなら、成長が実感しやすいはずです。頑張った、できた、スコアが上がった、というシンプルな図式。しかし、業務において身についたスキルで成長を実感しろといわれても、それはなかなか難しい。そうなると、やることは1つ。自分で実感できる仕組みを作ってみることです。

まずは、日々の業務の“日記”をつけることをお勧めします。日報ではなく、日記です。毎日どんなことをやったのか、何が足りなくて、どんなことをすればより仕事ができるようになるのか……面倒だとは思うのですが、日々書き連ねてみてください。丁寧に一カ月も書けば、読み返すのに十分な量の日記がたまっているはずです。そこで一気に読んでみてください。

日々の気づきの中で、気付くポイントの変化。周囲からの評価の違い、必要だと思っているスキルやノウハウのズレやブレ。自分で書いた日記のいろいろを読むうちに、それに気がつくはずです。そう、そのズレやブレ、1カ月前と今のあなたとの違いそのものが、あなたの成長なのです。

成長を自分で見るためには、自分自身で自分の日々のことをより正確に知り、現在の場所との差を理解するより他ありません。わからないことはとても怖い、だから焦ってしまう。だとしたら、あなたがやるべきことはシンプルですよね。自分を安心させられるのは、自分自身だけなのです。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。