真剣にキャリアアップを考えて「将来のために私は何を勉強すべきだろうか」と考えたことはありませんか。その問いに対する答えはベテランと若手で異なるとサカタさんは言います。ある程度のキャリアを積んだ女性が将来のために勉強すべきこととは、何なのでしょうか?
今後のキャリアのために、私は何を勉強すべき?
「自分の今後のキャリアを考える上で、どのような勉強をすればいいのでしょうか。例えば、終業後の時間に開催されている社会人向けのセミナーなどに参加すれば、少しはプラスになりますか?」
仕事柄、この類の質問を毎週のように受けます。キャリアを積み、ある程度の年齢に達した人に対しては、私はいつも「プラスになる場合もあるけど、プラスにならない場合もある。ケースバイケース」という、半ばテンプレート化した返答をしています。
誰かに教えを受けるその内容によっては、まったく新しい人生が開けるかもしれない。そこまで大げさではなくても、仕事のやり方が劇的に改善されるというケースも少なくありません。一方で、高いお金を払い、時間を費やして勉強したのに、まるで仕事には役立たないという場合も多い。そう、私は、誰もが分かっていることを、ただ言葉にして返答しているだけなのです。
ただし、このテンプレ的な回答は“ある程度の年齢に達した人に対して”という但し書きがつきます。もう少し若い年次の人ならば、今の仕事の内容や、先輩と自分のギャップなどについて丁寧に質問し、身につけておくべき能力と、それを取得するために必要な勉強法を一緒に考えます。
しかし、ある程度の年齢に達しているにも関わらず、それが分からないとなると、厳しい言い方になりますが、分からないことそれ自体が問題です。
仕事に必要とされる能力を理解していない上司は困りもの
入社して間もない、若手と呼ばれる年齢ならば、仕事そのものがまだよく分かっていませんから、まずはその仕事を覚えることが勉強です。仕事を覚えていく途中で、その仕事にとって必要だと思われる能力に気づき、自分にそれが備わっていないとしたら、身に付ける勉強をするというのがごく一般的な流れ。
ちょっと先走ってしまい、いきなり経営のことをびっしりと学ぶ、という人も少なくありませんが、それはご愛嬌。
逆に言うと、この時期に「仕事に必要な能力を理解し、勉強をする」というプロセスを経ていない人の多くは、冒頭で紹介したような「何か勉強しなければならない、でも、何をしていいのか分からない」状態になってしまいがちです。
さらに厄介なのは、この手の人が先輩や上司になったときです。後輩や部下が仕事で頭打ちになってしまった場合に、上手く打開策を提示できないことが多いのです。仕事に必要な能力を理解し、それを身に付けるために何をすればいいのかと自分で考えたことがない人が、頭打ちになっている人を指導できないことは、容易に想像がつきます。
分からないから「頑張れ」と意味のない励ましをする、という程度ならまだしも、「そういうことは自分で考えろ」と、さも自分は答えを知っているかのように振る舞ったり、どこかのビジネス誌で読んだ知識を受け売りして、若手を混乱に陥れる、という惨事もしばしば見かけます。
いまからでも間に合う「ビジネスパーソンの正しい勉強法」
「そんなことを言われても困る。何か良い勉強法を教えてくれ」とお叱りの声が聞こえてきそうです。大丈夫です、まだ間に合います。
上述の通り、ビジネスパーソンが「仕事に役立つ」勉強をするために重要なことは、仕事を十分に理解すること。なんだか禅問答みたいになってしまいましたが、結果的にこれが一番早道なのです。
まずは、自分の今の仕事に求められる能力を整理してみましょう。紙とペンを用意して、書き出してみるといいでしょう。次にそれを「経験によって得ることができる」ものと「知識によって身につけられる」ものとに分けていきます。前者は日々仕事に取り組むことで身につく能力なので、基本的には勉強で補うことはできません。逆に、後者は勉強すれば即、身につく能力。ですからまずはここから勉強をすべきなのです。時間に余裕があれば、過去の仕事も整理してみるといいでしょう。
後輩や部下の仕事も同じように整理しておくと、彼らがどこに行き詰まりを感じていて、何が頭打ちの原因になっているのかがクリアになるはずです。それが分かれば、今までよりもより正確にアドバイスができるようになります。
さらに、上司たちの仕事ぶりを改めてよく見てみましょう。もちろん、そのポジションについていないので詳細は分からないでしょうが、ある程度の推測はできるはずです。そして、必要そうな能力を把握し、今から準備できそうなものは先に手をつけておく。これが、今後のキャリアを考える上で、とても大事なことになるのです。
「やりたいことを実現するため」という学びの指針もある
ここまでは今の会社にいて、ポジションをアップしていくという前提で、そのために必要な能力を身につける方法を書いてきました。しかし「そうじゃない、自分はもっと別にやりたいことがある」と考えている読者もたくさんいるでしょう。例えば、独立して起業したいとか、今までの延長線上にない仕事で身を立てたいとか、そういう感じでしょうか。そういう場合でも、学びの方法は基本的には同じです。
やりたいこと、就きたい仕事、起こしたい事業……それぞれに求められる能力は違っていますが、逆にいうと、何らかの能力を必要とされるのも事実です。「必要とされる能力を身に付けるために勉強する」というシンプルな構造は変わりません。ただし、その能力を可視化すること、さらには、身につけるための良い学習法を見つけ出すのが難しいことも事実なのですが。それでも、それを丁寧に整理して、慎重に考えて学ぶことは、みなさんの成長に大きく寄与するはずです。
漠然とした焦りのせいで見当違いの努力をして、結果的に時間とお金を無駄にしたということがないよう、くれぐれも気をつけて。
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。