メルマガで「A4・1枚」の資料作りにこだわりがある人の座談会参加を呼び掛けたところ、達人たちが自信作を持って集まってくれました。世の中のトレンドは、「スマートな人ほど『1枚シフト』している」だそうです!
不動産会社勤務 吉井亜衣さん/印刷関連企業勤務 古澤万里子さん/フリーのプランナー 深田鏡子さん
なぜ、A4・A3の1枚なのか?
【POINT】初めての商談に使う、名刺代わりの一枚
投資用マンションの営業は、毎回が新規顧客開拓。「一度、お話だけでも!」と取りつけた初めてのアポイントの場で活躍するのが、この一枚。「大家さん募集」「安心してください!『 家賃』が入ります!!」といったキャッチーな言葉で興味をかきたて、裏面で商品の魅力を端的に説明。身構えるお客さまの心理的ハードルをぐっと下げてくれる。
【古澤】「大家さん募集」っていう吉井さんの資料は、ファーストコンタクトにすごい威力を発揮しそう!
【吉井】これ、実はあるお客さまからのアドバイスで生まれた一枚なんです。不動産の営業では説明しないといけない項目がたくさんあって、資料も分厚いファイルになっています。あるとき、お客さまに「まず資料をメールで送ってほしい」と言われて、気合を入れてそれを全部パワポで起こしてお送りしたんですけど。
【古澤】おっと……!
【吉井】いきなり膨大な添付ファイルを送りつけられたら、げんなりしちゃいますよね。「読むほうの気持ちになって考えて! A4・1枚にまとめなさい」ってお叱りを受けました。
【古澤】なんていいお客さま!
【吉井】はい。まずはなんとか手探りで作って、本を読んだりしながら自分なりに試行錯誤。今も少しずつブラッシュアップしながら、使っています。
【深田】メリットがわかりやすくまとまっていますよね。光沢紙にプリントすれば、そのままパンフレットとして置かれていてもおかしくないくらい。
【古澤】企画書は簡潔に、不要な情報はそぎ落として作るのがいいと思うんです。会議や商談で決定権を持つ人たち、とくに年配のおじさまは細かい字を読むのが苦手(笑)。文字はなるべく少なく、そして大きく!
【深田】ふふ、それはありますね。長い文章を入れると、ペンをトントンたたいて、イライラしだしちゃったりする。
【古澤】私も、内容をていねいに説明する文章を入れていた時期があったんだけど、「結局、どういうこと?」って聞かれちゃったりしてガックリ。書いてあるよーって思うんだけど、読んでもらえないんじゃしょうがない。今は、ビジュアル化したり、パッと見てすぐわかる資料作りを心がけています。
【深田】私が携わっている広告業界では複数枚にわたる企画書が多いのですが、それだと1枚ずつめくって、説明してと、プレゼンにすごく時間がかかる。ビッグプロジェクトの場合は、こうした紙芝居式の分厚い企画書がいいとは思うんです。ストーリーや世界観までも含めて表現しやすいから。ただ、もっとライトな企画のときには、断然1枚の企画書がおすすめ!
【古澤】企画書を1枚にすることで、スピード感をもって進められますよね。
【深田】スピード、違いますよね。資料を作る時間もそうだけど、プレゼンや会議の時間効率もよくなる。
【古澤】1枚のいいところは、なんといっても全体をズバッと俯瞰(ふかん)してみられるところ。「ここはこうしたい」「課題はここだね」など、クライアントからの意見も引き出しやすい。
【深田】まさにそう! コミュニケーションが広がっていくのは、圧倒的に1枚の資料のほうですね。分厚いパワポの企画書よりも、フィードバックされる情報量が格段に多いんです。
【吉井】会話がはずむというのは、営業ツールとしても大事なポイントです。
【古澤】立て板に水のように、とうとうとしゃべり続ける営業マンって、ちょっと怖いもんね(笑)。
【深田】プレゼンが苦手、お客さまとの会話が盛り上がらない、っていう人ほど、1枚にシフトしたらいいと思います。読み上げるだけでは間がもたないから、絶対に補足情報をしゃべることになるし、相手も「これはどういうこと?」って聞いてくれます。
【吉井】そうした会話のなかで深いニーズを聞き出せたら、次回の商談にはよりよい提案ができますね。
【古澤】分厚い企画書を否定する気持ちはないけれど、1枚のほうが自分らしさが出るな、という気もしています。それはやっぱり資料や企画書のなかだけで完結せずに、コミュニケーションができるからなんでしょうね。
私のとっておき! 1枚ワザ
【POINT】継続して取引があるクライアントへの報告書は、要点を簡潔に
ビジネスプロダクトアウトソーシングに関わる報告書の一例。継続して取引があるため、すでに共通認識ができている部分は報告書に入れる必要はなし。「従来と比べて何が変わるのか」に絞って、ポイントをビジュアル化。「あれもこれもと情報を入れると、かえってわかりづらい。無駄を省き、パッと見てすぐわかることを重視しています」
【吉井】1枚の企画書を作るのにかかる時間って、どのくらいですか? 私は、セールスするもの自体は変わらないので、この1枚を修正、上書きしているんですが、皆さんは案件ごとに違う企画書、資料を作成するんですよね?
【古澤】確かに10ページの資料を作るより、1ページの資料を作るほうが作業時間は短い。でも、実はかけている時間ってそこまで変わらないかもしれません。というのは、内容を構築したり、入れるべき要素を精査したりするのは、どちらにしても必要だから。
【深田】「質を落としていいから、1枚でサクッと作って」って言われることがありますけれど、それは絶対にできない。手抜きをしたら、企画として成り立たなくなっちゃう。
【古澤】抜けているところがないか、矛盾がないか、そもそも何のためにこの企画書を作るのか。目的をしっかりさせておかないと、作りながら「あれ?」って混乱しちゃうことも。私は、まず頭の中にあるものをスケッチブックなどに書き出して、マインドマップを作るところから始めます。
【深田】私もホワイトボードにアイデアをいろいろ書き出しては写真に撮って、整理がつきそうだなと思った段階で、ようやくパソコンへ。私の場合は、20ページの企画書で3日ほど。1ページの企画書でも丸1日はかかります。
【吉井】企画書作りって、パソコンに向かう前から始まっているんですね!
【古澤】そう、いきなりパソコンの前に座っても、全然やる気がでない(笑)。
【深田】手を動かすと、脳が活性化するっていいますよね。本当にそうだなと思います。一回、構想を目に見える形で書き出してみて、全体像を把握することって大切ですね。
【古澤】そうそう。妄想しながら書く。たとえばどんな人がターゲットかな、何が好きな人かな、どんなことに困っているのかな、など。
【深田】妄想、大事です! 想像力を働かせないと、いい提案にはならない。
【吉井】なるほど。それって営業にも通じることかも。
【古澤】吉井さんの営業資料も、もしかしたら30代男性バージョン、40代女性バージョンなど、ご案内する人の世代や趣味にあわせて、いくつかパターンを作ってみると、さらに使いやすくなるかもしれませんね。
【吉井】確かに……! 私も妄想活動してみます!
【深田】企画書や資料って、すごく深いもの。この1枚をどう見せるか、それが企業にとっての営業戦略になることもあるんです。だから大事に作っていかなきゃいけないし、1枚だからといってバカにできない。
スマートな人ほど1枚シフト!
【POINT】なぜ必要なのか、施策の背景を1枚でもれなく語る
今回の座談会用に深田さんがダミーで作成した、「プレジデント ウーマン」のオンライン施策の企画書。企画背景に関する要素が1ページにまとまっている。通常は、裏面に「具体的施策案」を盛り込む。読者像と求められている課題、そこから導きだされるキーワードが有機的なつながりを持って頭に入ってくる一枚。
【古澤】でも、男性役員の方々、まだまだ分厚いものがお好きですね。
【深田】そうなの。企画書の厚みに、そのプロジェクトの重み、重要性があらわれる、という考えは根強い……。
【古澤】ご提案する担当の方によっても、よしとするものが違う。スマートで決断力のある人は、「1枚でいいよ」っておっしゃる。そしてその場で、ポイントをつかまえて話し合えるんです。
【深田】うん、新しいトレンドをつかもうとしている人は、どんどん1枚にシフトしてきている。かなり大きなプロジェクトでも「1枚でいこう」と進められるものが出てきました。時代は動いている、と感じますね。
【吉井】それってここ最近のトレンドでしょうか?
【深田】結構前から「企画書は1枚でいい」っていう雑誌の特集があったり、書籍が出たりはしていたんですよね。でも、なかなか現場はそうならなかった。それが、ここ最近、大手企業でも取り入れるところがでてきました。大手企業がけん引し始めると、ここから先の変化は早いんじゃないでしょうか。
【吉井】1枚のスタイルが浸透してきたら、いろいろな部分で業務効率は格段によくなりそうですね。
【深田】ほんと! あとは戦略によって、どう使い分けていくか。
【古澤】臨機応変にできると、無駄がなくなりますね。私、無理、無駄、ムラって大っ嫌い(笑)。企画書や資料作りでも、シチュエーションに合わせた最適なスタイルでいけたらいいですね。
【深田】そうそう。分厚いパワポ資料がいけないというわけではなくて、きちんと役割があります。すべてを網羅して説明しているから、書いた人の手を離れて独り歩きをしても心配ない。企画書は分厚いほうがいい、ペライチがいい、っていう二極化ではなくて、相手やプロジェクトの規模、スケジュール、そういった状況にあわせて使い分けていけたらいいなと思いますね。