マーケットは流行り廃りがあるため、旬な“ベストセラー”よりも、普遍的なことが書かれている“ロングセラー”を押さえておきたい。経営アドバイザリーとして活躍する垣岡淳さんに、「マーケティング」のセンスが磨けるおすすめ本を初級・中級・上級と分けて教えてもらいました。

マーケティングのセンス
-ベストセラーよりも、ロングセラーがおすすめ!

マーケティングは文字通り「マーケット(市場)」を取り扱っているので、どうしても流行り廃りがあります。そのため、私はベストセラーよりもロングセラーをおすすめします。読み継がれている本は、激しい競争の中で生き残ってきたということです。つまり、普遍的なことが書かれている傾向があるのです。ビジネス書全体で言えば、ポーター、ドラッカー、といった知の巨人たちの著書をまず押さえておきたいですね。

その中でも、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント 第12版』(丸善出版)は、マーケティングの“鉄板”本としてぜひ手元に置いてほしい。グロービス経営大学院『グロービス MBAマーケティング 改訂3版』も鉄板本に入れたいですね(笑)。新しい本は常にこうした鉄板を押さえたうえで読めばいい。

流行りだけを押さえても使える知識や知恵にはなりません。基礎的な知識を土台に応用本に挑戦することで、批判的に読むこともできる。すると徐々にマーケティングの感覚が研ぎ澄まされていくはずです。それと、気に入った本ができたら、その著者の過去の作品や引用されているほかの本を数珠つなぎ的に追いかけるといい。私も今回取り上げた著者の作品はほとんど読んでいるんですよ。

マーケティング【初級編】
-マーケティングの入り口に立つ

【左から】『マーケット感覚を身につけよう』ちきりん(ダイヤモンド社)/『マーケティングを学ぶ』石井淳蔵(ちくま新書)/『明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法』佐藤尚之(アスキー新書)

『マーケット感覚を身につけよう』ちきりん(ダイヤモンド社)
人気ブロガーによるマーケットに関する本。マーケティングの概念を広く理解するうえで、入り口としておすすめ。暮らしの中、キャリア形成の中、恋愛で……。マーケティング感覚を研ぎ澄ますことは生きる武器になる。

『マーケティングを学ぶ』石井淳蔵(ちくま新書)
先進的な企業の取り組みを紹介しながら、基本的なマーケティング論を説く。著名研究者の著書だけに学術的な内容もしっかり押さえる。持っていて損はない一冊。難解そうだが一般的なビジネスリテラシーがあれば読める。

『明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法』佐藤尚之(アスキー新書)
マーケティングや広告・広報といった部門で初めて仕事をすることになった人に適した、初心者向けの一冊。それ以外の人にとっても、身近な事例を通じてマーケティングの本質を平易な言葉で教えてくれる良書。

マーケティング【中級編】
-すでにマーケティングを知っている人への変化球

【左から】『マーケティングの嘘 団塊シニアと子育てママの真実』辻中俊樹、櫻井光行(新潮新書)/『ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業』ヤンミ・ムン(ダイヤモンド社)/『価値創造の思考法』小阪裕司(東洋経済新報社)

『マーケティングの嘘 団塊シニアと子育てママの真実』辻中俊樹、櫻井光行(新潮新書)
「嘘」という挑戦的なタイトルながら、至極まっとうなマーケティング本。風説的な話に基づく思い込みやビッグデータに隠れがちな先入観などを、一人一人の暮らしに寄り添ったテーマを通じて覆していく。

『ビジネスで一番、大切なこと 消費者のこころを学ぶ授業』ヤンミ・ムン(ダイヤモンド社)
原題は「差別化」。他社と差別化を図ろうとマーケティングに真剣に取り組むほど、また、顧客の声を真剣に取り入れようとするほど、他社と同質化してしまう。多くの企業が陥りやすいジレンマをやさしい文体で語る。

『価値創造の思考法』小阪裕司(東洋経済新報社)
事例をふんだんに取り上げ、いつもわかりやすく商売の原点を説く著者の意欲作。「モノ」ではなく「ひと」を軸に商品の価値を掘り起こす方法について、独自の枠組みに沿って詳述。理論から実践・実行へ、使える一冊。

マーケティング【上級編】
-経営層やマーケティング上級者が読むべき本

【左から】『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』小林弘人、柳瀬博一(晶文社)/『社長、そのデザインでは売れません!』川島蓉子(日経BP社)/『T・レビット マーケティング論』セオドア・レビット(ダイヤモンド社)

『インターネットが普及したら、ぼくたちが原始人に戻っちゃったわけ』小林弘人、柳瀬博一(晶文社)
現在進行形のマーケティングや経営をつかめる旬な本。賞味期限があるテーマなので、いまこのタイミングで読んでほしい。メディアや世界がこれからどう変化していくのか、ヒントになることがいっぱい。

『社長、そのデザインでは売れません!』川島蓉子(日経BP社)
伊藤忠商事などの3人の経営者と佐藤可士和ら3人のデザイナーに、著者がインタビュー。経営的な観点から、今後マーケティングでキーとなるであろう「デザイン」と「編集」について、魅力たっぷりに語られている。

『T・レビット マーケティング論』セオドア・レビット(ダイヤモンド社)
コトラーと並ぶ知の巨人が、50年以上前に書いた名論文「マーケティング近視眼」を含んだ論文集。今なお色あせない論文も多く啓発書としての側面も。「マーケティング近視眼」だけは初級者もぜひ読んでほしい。

垣岡 淳
関西学院大学商学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科等を経て日本総合研究所。現在は企業の経営アドバイザリーとして活躍。グロービスにおいては経営大学院や企業研修で講師を務める。