経済とは「世の中の流れ」。知れば、転職・独立など新しいことを始めるときに力となる。そして、大半の日本人が詳しくない国際情勢は、基礎から学び直すことが大事――。「経済・国際情勢」に精通するプロに、本選びのポイントやおすすめ本を、初級・中級・上級と分けて教えてもらった。(教えてくれる人:【経済】経済ジャーナリスト 木暮太一さん【国際情勢】作家、元外務省主任分析官 佐藤 優さん)

経済の基礎をたたき込む
-女性の「キャリア」と「やりたいこと」を後押ししてくれるはず

経済というと、指標や専門用語の羅列だと敬遠する人がいますが、経済で数字が必要なのは人前で発表するような人だけ。経済とは、世の中の流れを知ることなのです。

あなたが働く会社が船だとすれば、経済はその船が浮かんでいる大きな海。多くの人は船をうまくこいで目的地に行こうとしますが、船の中のことしか見ていません。本当に大事なのは、潮の流れや風の動き、そして船を着けやすい目的地を見つけること。そうした外的要因を調べ、把握することで、船は目的地により確実に着くことができます。

経済を理解することで、船である会社やこぎ手である自分たちが、これからやろうとしていることが、世の中の流れに沿っているのか、その中で成功しそうなのか、先が読めるようになるのです。

経営者はもちろんのこと、女性が転職したい、独立したい、新しいことを始めたいというときにも非常に大事な力。世の中の流れがわかれば、希望の転職先が、長期的に安泰か判断できますよね。

まずは、いきなり日経新聞を読むより、今回薦める初級本3冊を3回ずつ読んでください。身近な経済の話が、丁寧に説明してあります。3人の著者の視点から見ることで多面的に理解でき、3回繰り返せば着実に身につきます。

経済の本【初級】
-3回繰り返し読めば、新聞がわかるようになる

【左から】『経済のこと よくわからないまま社会人になってしまった人へ』池上 彰(海竜社)/『今までで一番やさしい経済の教科書』木暮太一(ダイヤモンド社)/『NO.1エコノミストが書いた世界一わかりやすい経済の本』上野泰也(かんき出版)

『経済のこと よくわからないまま社会人になってしまった人へ』池上 彰(海竜社)
経済事情の基本を、やさしく丁寧な解説で定評のある池上氏が解説する。アンダーラインくらいは引いてもいいが、とにかくどんどん読み進めること。テレビや新聞のニュースが、身近な出来事として理解できるようになる。

『今までで一番やさしい経済の教科書』木暮太一(ダイヤモンド社)
読者の疑問や間違えやすいポイントを、キャラクターとの対話形式で整理し解説。新聞等のデータの仕組みが理解できる「目からうろこ」の入門書。外的要素との掛け合わせでなければ、経済学ではないとわかるはず。

『NO.1エコノミストが書いた世界一わかりやすい経済の本』上野泰也(かんき出版)
エコノミストが解説する経済の基本書。データなどの数字が多めで、銀行のアナリストだった著者ならではの分析的切り口で、経済の幹が学べる。新聞報道は「葉先」、幹が育てば、必ずや世の中の流れが見えてくる。

経済の本【中級】
-実生活で使える「先読み」の視点が身につく

【左から】『その問題、経済学で解決できます。』ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト(東洋経済新報社)/『機械との競争』エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー(日経BP社)/『出社が楽しい経済学』吉本佳生、NHK「出社が楽しい経済学」制作班(NHK出版)

『その問題、経済学で解決できます。』ウリ・ニーズィー、ジョン・A・リスト(東洋経済新報社)
アメリカの事例を基に経済学理論で解決を目指すケーススタディー型の一冊。身近なテーマから難易度を上げた事例まで、興味に沿って拾い読みするとよい。経済学的に実生活をみる「先読み」の視点が身につく一冊。

『機械との競争』エリック・ブリニョルフソン、アンドリュー・マカフィー(日経BP社)
IT化が進む資本主義社会で、人は機械に仕事をとられていく。競争相手は人ではない。消えていく会社、残っていく会社とは? マルクスの『資本論』をベースに、これから生き延びる人材や仕事を解き明かした一冊。

『出社が楽しい経済学』吉本佳生、NHK「出社が楽しい経済学」制作班(NHK出版)
現実にありそうなテーマを例に、経済学の理論を応用して解説している。レベルの高いものもあるが、会社ですぐに応用できそうな例は必読。読みたい項目、自分や周囲に起こりそうな項目を拾い読みするのもよい。

経済の本【上級】
-「人類の欲求」とは。心の深海に潜っていく

【左から】『競争と公平感 市場経済の本当のメリット』大竹文雄(中公新書)/『アダム・スミス「道徳感情論」と「国富論」の世界』堂目卓生(中公新書)/『入門経済思想史 世俗の思想家たち』ロバート・L・ハイルブローナー(ちくま学芸文庫)

『競争と公平感 市場経済の本当のメリット』大竹文雄(中公新書)
経営レベルの判断を求められる人には必読の一冊。国内外の学者やシンクタンクの研究成果を引用しながら、日本人は市場経済の中で競争や公平をどうとらえているのか、労働者に望ましい環境や条件とは何かを論じている。

『アダム・スミス「道徳感情論」と「国富論」の世界』堂目卓生(中公新書)
『国富論』以前に、アダム・スミスは『道徳感情論』で人間の内面的幸福を語っている。内面的幸福と経済成長の関係、それらがもたらす人間の幸せを解説。「なぜ経済成長が必要か?」その問いに答えてくれる経済哲学書。

『入門経済思想史 世俗の思想家たち』ロバート・L・ハイルブローナー(ちくま学芸文庫)
「供給」が経済をけん引するとした新古典派、「いや需要である」と説いたケインズ派、資本主義は終わりを迎えると説いたマルクス……経済学の巨匠がどんな時代に、何を考えたのか、経済理論の原点に触れられる一冊。

国際情勢をつかむ
-詳しくない=知らない自分を認め、教科書で弱点を洗い出そう

ビジネスウーマンに限らず、大半の日本人は国際情勢に詳しくありません。そこでまずは高校の教科書に戻り、基礎から学び直すことをおすすめします。

ただし、学生時代にトップ集団にいた優秀なビジネスウーマンは、自分がナンバーワンであることを疑わない「1番病」にかかっている可能性が高く、「知らない自分」を認めたがりません。「今さら教科書なんて」と思ったら1番病の証拠。まずは自分の弱点に向き合うことから始めてください。

もし教科書に抵抗感があるようなら、書き込み式の問題集などで手を動かしながら勉強する方法もあります。

最新の国際情勢は、アメリカの動向を追いかけるだけで十分。新聞を読んでいれば、間違った理解にはなりません。

ただし、国内の新聞やネットニュースだけでは情報量が限られます。「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版(有料)」で補っておきましょう。

国際情勢に関する書籍は、総論的な良書は少なく、専門書に当たることになります。探し方がわからなかったら、書店の専門書コーナーへ。今は大学でもシラバスを一般公開しているので、授業で取り上げている参考書の中から選ぶのもよいでしょう。

国際情勢の本【初級】
-日米和親条約以降の近現代史で基礎を固める

【左から】『知らないと恥をかく世界の大問題6』池上 彰(角川新書)/『外交』ハロルド・ニコルソン(東京大学出版会)/『要説世界史 世界史A』木村靖二ほか(山川出版社)

『知らないと恥をかく世界の大問題6』池上 彰(角川新書)
世界で起きている問題をわかりやすく読み解く人気シリーズ。その最新刊ではアメリカ、ロシア、そしてイスラム国の問題を取り上げ、戦後70年を迎える東アジアの未来に言及。初心者が知るべきことを網羅しています。

『外交』ハロルド・ニコルソン(東京大学出版会)
著者は1900年代前半から中盤に活躍したイギリスの外交官で、本書は「政治」として外交に携わる人向けに書かれた外交論の古典的な教科書。ビジネスパーソンが海外のパートナーとシビアな交渉をする際にも役立ちます。

『要説世界史 世界史A』木村靖二ほか(山川出版社)
国際情勢の理解には、日米和親条約以降の世界と日本の近現代史の知識が必須。そのためには高校の教科書(実業高校向けの「A」)が最適です。リクルートのインターネット予備校「受験アプリ」もおすすめです。

国際情勢の本【中級】
-アメリカの理解を深めつつ世界の民族問題を分析

【左から】『外交 上下』ヘンリー・A・キッシンジャー(日本経済新聞出版社)/『宗教からよむ「アメリカ」』森 孝一(講談社選書メチエ)/『移民の運命 同化か隔離か』エマニュエル・トッド(藤原書店)

『外交 上下』ヘンリー・A・キッシンジャー(日本経済新聞出版社)
国際情勢を理解することは、アメリカを理解することと同等ですから、本書は中級の入り口に最適。著者は1970年代のアメリカで外交担当大統領補佐官、国務長官を務めた人物。外交の基本的な考え方が書かれています。

『宗教からよむ「アメリカ」』森 孝一(講談社選書メチエ)
多様な民族で社会を形成するアメリカは一種の民族共同体ですが、彼らの行動様式の基底のひとつにある宗教はキリスト教とイコールではありません。彼らは一神教であるユダヤ教やイスラム教を意識しているからです。

『移民の運命 同化か隔離か』エマニュエル・トッド(藤原書店)
著者はフランスの人口学者。「民主主義は家族制度に左右され、長男だけが相続できる国は不平等の国である」と言い、フランスとイギリスの移民政策とその課題を指摘。世界の民族問題を理解する一助となる本です。

国際情勢の本【上級】
-世界の法と条約を知り、外交の基本スキルを習得

【左から】『新版 国際法』山本草二(有斐閣)/『国際条約集 2015年版』奥脇直也ほか(有斐閣)/『戦争論 上下』カール・フォン・クラウゼヴィッツ(中公文庫)

『新版 国際法』山本草二(有斐閣)
上級者なら、国際法や国際条約の背景を理解し、国家がいかに生き残りを図っているかを理解すべき。本書は国際法の教科書で、キャリア、ノンキャリアを問わず、内容をすべて理解することが外交官になる必要条件です。

『国際条約集 2015年版』奥脇直也ほか(有斐閣)
世界のルールブックですから、辞書のように手元に置き、国際関連で疑問に思ったことを調べましょう。たとえば「集団的自衛権」の由来に疑問を持ったら、「国連憲章」を見れば戦争違法化から出てきたものとわかります。

『戦争論 上下』カール・フォン・クラウゼヴィッツ(中公文庫)
国際情勢を語るうえで避けられない「戦争」。国際社会では軍事力が圧倒的にものをいいますが、アメリカでさえ小国のイラクやアフガニスタンを思い通りにできない。こうした基本の理解が、国際情勢を読むのに役立ちます。

木暮太一
経済ジャーナリスト。慶應大学在学中に自作した経済学解説本は、いまも国内外の大学等で指定教科書に。伝える力を育てる「説明力養成講座」を東京・大阪・福岡・名古屋で開催。
 
佐藤 優
作家、元外務省主任分析官。『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『交渉術』『外務省に告ぐ』『国家の「罪と罰」』など著書多数。