建物は必ず朽ちていきます。古い空き家を放っておけば、倒壊や火災、不法侵入などが起きて、地域に悪影響が出る危険があります。行政が空き家を強制的に撤去する、その対象が自分の実家だったとしたら? 誰も住まなくなった実家をどうするか。できる備えはあるのか。2本に分けて考えていきます。
親が元気なうちにやっておきべきこと【1】
~親と関係者の意向確認
生活拠点が首都圏なので、地方にある実家には住めない。読者の中には、自分は住まないであろう「親の家」を相続する可能性がある人も少なくないはずだ。
具体的な「実家の畳み方」、その対処法以前にやっておきたいのは、親はもちろん、相続に関係する人たちの意向を確認しておくこと。親や兄弟姉妹がどうしたいと考えているのか、その辺りを互いにすり合わせておくことである。
親が残したいと考え、子供が継ぎたければ万々歳。誰も悩まなくて済むが、実際にはそういうケースは少ない。互いの考えに齟齬(そご)があるほうが一般的だが、早めに話し合いを始めていれば、実際のその時までに懐柔を考えるなり、兄弟姉妹で話し合いをするなり、Uターンを検討するなり、何かしらの手は打てる。そうした意思の疎通がないまま、兄弟姉妹で遺産を共同相続したケースでは意見がまとまらず、実家は長年空き家になったままという例が少なくない。
もし、実家の近隣に親族がいる、親の意思決定に親族の意見が強く反映されることがあるなどの場合にはそうした人たちの意見も聞いておく。地方での不動産売買では半径1~2キロ圏など近隣に住む人が買い手になることが多いので、相続後売却するつもりがあるなら、事前の声掛けは有用だ。
また、地域によってはいわゆる本家の意見が強く、分家の去就に口を挟むことがあったり、逆に本家だからと売却に反対されることなどもある。次第にそうした親族間のしがらみは消えつつはあるが、親の世代であれば気になることもあろう。そうした点も意識した上で話し合うようにしておきたい。
親が元気なうちにやっておきべきこと【2】
~所有財産の把握
不動産だけでなく、親の老いや相続を意識するようになったら、親所有のその他の財産も確認しておく必要がある。ご存じのように相続税の申告、納税は被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10カ月以内と決められている。相続放棄、限定承認をする場合には3カ月以内(家庭裁判所への申し立てにより3カ月の期間延長は可能)なので、意外と期間が短いのである。
この期間中に全ての財産を把握し、相続する場合は納税しなくてはいけないが、若いうちに親元を離れていた場合など、親の財産の詳細を把握していないことが多い。故に決められた期間で全てを処理するのが難しいことがある。
もし、住宅以外に財産がなく、かつその住宅に居住、あるいは維持管理し続けていくのが難しい場合には「相続放棄」という手があるが、財産の全貌が分からないと、その判断もできない。それを考えると、早めに親の財産を把握しておくことは空き家発生を防ぐ手でもあるのだ。ただし、兄弟姉妹がいる場合には全員でやること。要らぬもめ事のタネになりかねないので用心が必要だ。
ちなみに我が家では母が財産の管理をしており、父は全く何も分からない状態で母に認知症の疑いが出たため、姉妹で親の資産を棚卸しした経験がある。親たちの年齢を考えて長期の金融商品は短期に組み替えるなどの手を打った。空き家問題以外にも親が高齢になってくればこうした懸念も出てくる。実家の資産については親がある程度の年齢になったら関心を持っておきたいところだ。
一戸建ての実家を畳む、その前に
~どう活用できるかを分析しよう
ここからは主に一戸建てを中心に、実家の畳み方・その対処法を見ていこう。
住む人がいなくなった住宅を考える際に大事なのは、不動産は非常に個別性の高いものであるという点。隣り合って建っていても建物の状態によっては貸せたり、貸せなかったりする。また、同じ区画内に立地していても接道の有無で売れなかったり、建て替えられないこともある。そのため、自分の実家がどういう状態にあるのかを把握することが最初にやるべきことである。
■現状把握その1~立地
最初のポイントは立地。一般に首都圏などの三大都市圏、政令指定都市レベルの街や地方都市でも中心部近くであれば売買、賃貸のニーズが高く、対処方法も多く考えられる。だが、首都圏でも駅から遠い場所であれば賃貸は難しいし、ましてや地方都市の中心部以外や農村・山村のように、不動産の取引自体があまり活発ではない場所では売買、賃貸ともに通常のやり方では難しく、そもそも売れない、貸せないことすらある。それを知るためには周囲の不動産取引の状況、不動産情報などをチェックし、どのような立地であるかを知ることである。
■現状把握その2~建物の状態
同時にチェックしたいのは建物の状態だ。物理的に建物として人が住める、貸せるかということに加え、建築物として適法であるかどうかもポイントだ。これは主に都市部での問題で、農山村部ではあまり気にしなくてもよい。注意すべきは4メートル以下の道路に面している、周囲の建物に比して家が大きく、購入後に増築されたなどの物件だ。
違法、既存不適格の建物にはローンが下りないため、建物があるままでは売ることができない。取り壊しても、接道面の条件を満たしていない場合には新築できない、あるいは容積率などがオーバーだった場合には既存建物より小さな建物しか建たない、となると売れなくなってしまう。
このあたりは素人では分かりにくいので、購入時、建築時に受領したはずの確認申請兼確認済証および検査済証などを用意した上で、不動産会社に相談してみるのが現実的だ。建物の状況をホームインスペクター(主に建物の住宅診断をしてくれる専門職)に調査してもらい、合わせて法令上の瑕疵(かし)がないかについても意見をもらうという手も考えられる。ただし、こうした書類が残されていない、そもそも申請しなかったという例も多いので、早い時期に親に聞いておくことが大事だ。
内閣府認証NPO法人 ホームインスペクターズ協会
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。新著に『解決!空き家問題』(ちくま新書刊)がある。