起業を決めたのなら、資金調達、事業展開など、整理すべきことは山積みだ。女性起業サポートセンター創設者であり、日本政策投資銀行の栗原美津枝さんが、「説得力のある事業計画書」の作り方を教えてくれた。

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2.アイデアの具体化

●浮かんだアイデア……どうすれば実現できますか?

事業アイデアを持っているなら、適正度チェックを試してみて。事業アイデアが漠然としたものだったり、ビジョンのない単なる「思い」の状態なら、チェックすべてにYESと答えられるまで、計画を練り上げていきたい。

事業開始適正度check

その際、自分の中で考えているだけだと行き詰まってしまうので、インターネットで情報収集したり、起業相談窓口で相談を。事業アイデアを言葉にして人に説明していく中で、新たに気付くことや欠点を指摘してもらうこともできる。事業のアウトラインができ上がったら、事業計画書をつくってみる。頭の中にある夢やアイデアを文字や数字で可視化していくと、事業内容そのものを客観的に見つめることができる。そして、何をしなければならないかが明確になってくる。

「日本政策投資銀行で行うコンペの募集対象は“商品やサービス等が革新的で社会性やインパクトがあり、事業として成り立つもの”なので、生業的なものは除外されます。その中で、魅力ある事業計画書というのは先に話したように、『将来性を感じさせる』もの。実績で証明する必要はありません。それはやってみなければわからないこと。ただ、いいアイデアだから必ず理解してもらえるというものでもありません。論拠に基づいて説明することが重要。事業を成功に導く具体的な方法や採算目標など、経営者として事業見通しを立てることができるかどうかも事業計画書から読めてきます。

【起業応援相談窓口】
●各地域の商工会議所(http://www.jcci.or.jp/
●各地域の中小企業支援センター(中小企業庁)(http://www.chusho.meti.go.jp/index.html
・ex/女性起業家支援チーム(公益財団法人横浜起業経営支援財団)(http://www.idec.or.jp/index.php
●独立行政法人 中小企業基盤整備機構(http://www.smrj.go.jp/
●各地方自治体の相談窓口
・ex/創業・ベンチャー支援センター埼玉内 女性起業支援ルーム(公益財団法人埼玉県産業振興公社)(http://www.saitama-j.or.jp/sogyo/
●日本政策金融公庫内 創業ホットライン(http://www.jfc.go.jp/

【女性起業家向け情報収集サイト】
●女性社長.net(http://joseishacho.net/
●女性起業塾(http://www.w-e.jp/
●女性のための起業塾(http://www.wis-women.net/index.html
●プチ起業したい女性のための情報サイト(http://www.saitama-j.or.jp/sogyo/puti/

“熱い思い”だけではダメ、“説得力”が大事

多くの計画書を見てきて、熱い思いは理解できるのですが、論証が上手にできない方が大変多い。第3回コンペ大賞受賞者は、ニューヨーク在住の日本人女性。その方はハーバード大学での学びや現地での就業経験を活かし、テストマーケティングを繰り返して事業計画を見直しています。約3カ月ごとに課題に対し行動し、その結果から事業計画を見直すことを繰り返しており、強い説得力がありました。小規模でもいいから市場マーケティングを行い、分析結果に基づき事業計画をつくるだけで説得力はグンと増します。こうした活動は他人に説明するためではなく、事業の精度を高めるために必要なこと。身近でできることから躊躇(ちゅうちょ)せず進めてほしいですね。

資金援助が受けられるだけでなく、事業支援や専門家のアドバイスを受けることができるものも。受賞することで新規事業のよい宣伝活動にもなる。

また、経営者としては、アイデアに絶対の自信があってもうまくいった場合の想定だけではダメ。うまくいかない場合も想定し、備えることこそ経営者にしかできないこと。アップサイドを目指しつつ、ダウンサイドの事業計画もつくってください」

個人事業主としてスタートする人や融資を受けない場合は事業計画書をつくらない傾向に。日本政策金融公庫総合研究所のデータにも男女起業家の25.4%しか事業計画書を作成していないとあり、作成した48.4%が開業費用500万円以上だったよう。しかし、「事業計画書を作成してよかったことは?」という調査では、資金調達や販売先確保に役立ったという回答より「事業の内容や特徴を整理できた」「自社の取り組み・弱みを整理できた」ことを挙げている。自分の考えをまとめ、実現するためにも、事業計画書をつくることをおすすめしたい。

●事業のアウトラインができたら、事業計画書をつくってみよう

【1.事業の背景と目的】
▼ビジョンを明確に

※いちばん大切な部分。ここを軽んじては、気持ちは伝わらない

【2.ビジネスモデル】
▼事業環境を研究し、運営をシミュレーション
・提供するサービス/製品
・ターゲットとする顧客、市場ニーズ、市場規模、市場の成長性など
※計画の段階でできる調査は綿密に行い、細かく分析する
・差別化計画(保有技術・サービスの優位性、他社との差別化ポイント)
・マーケティング方法
※事業開始後、スムーズな運営を行うべく、どのようなマーケティングを行うか考えておく
・営業戦略、広告、プロモーション方法
・販売チャンネル、流通
※その販売チャンネルだけで大丈夫? あらゆる可能性を探って

【3.事業スケジュール】
▼時間を有効に使うスケジュール
・中長期の事業展開
※許認可が必要なものは早めに対処
・足元1年程度の具体的な活動計画

【4.収支計画】
▼資金繰りで行き詰まらないために
・ 売り上げ/費用/利益計画、投資計画と資金調達
※収支計画の詰めの甘さが事業計画全体の甘さに。市場動向などの分析結果を基に論理的な収支計画を

【5.陣容】
▼事業主やスタッフの魅力をアピール
・経営者およびスタッフのキャリア、職歴
・組織体制
・協力者(企業)や人脈、取引先、連携先などをリストアップ

協力依頼や融資依頼など、人に見せ、プレゼンするたびに欠点を指摘してもらい、ブラッシュアップする
栗原美津枝
日本政策投資銀行 常勤監査役。一橋大学卒業。M&Aや財務、ヘルスケアファイナンス等を経て、同行初の女性役員に。赴任先のスタンフォード大学でベンチャーファイナンスを研究。女性起業サポートセンター創設者。