学歴・経歴を詐称していると週刊文春に報じられたのがきっかけで、整形、ハーフではないなどさまざまな疑惑が噴出した「ショーンK」。しかしこの一件に関しては厳しい人と優しい人の両方がいるのが気になる、と河崎さん。この違いはどこからくるものなのだろうか?

学歴も名前も顔も身長も詐称。本当なのは低く響くいい声“だけ”だった……。

「ショーンK」(ショーン・マクアードル川上)こと、川上伸一郎氏の学歴詐称疑惑を週刊文春が報じて騒ぎになったが、その後の世間の反応が興味深い。次々と新情報が明らかにされ、さらには「私には2人の父がいます。実父はマクアードルさんで、育てたのは日本人義父」なる独占インタビューが続報として掲載される中、さまざまな人たちが彼について書いている。「完全にアウト。どうしてこんな胡散臭い人間を起用したのか」と原則論で切り捨てる人もいれば、「でも人柄は素晴らしい。彼が学歴を詐称するまでになったのは社会のせい」と茂木健一郎さんは情けをかける「彼はニュースやワイドショーという“枠組”の中で、振られた“役割”を上手に演じる、役者・ドラマ的才覚の持ち主だった」と“芸”を評価する人、「いやいや、“ショーンKいい人論”は結局、詐欺師の手の内にはまっているだけ」とそれが詐欺師の典型的な手口であることを指摘する人、「ショーンKは学位職位を万引きしたのと同じインチキ野郎。ヘラヘラ笑って擁護までしている人はやつに騙されつづけていることにいいかげん気付きなよ」と罵倒する勢いの人もいる。

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「ショーンKの嘘」と題した週刊文春3月24日号の記事で、世間は大騒ぎになった(左)。3月31号では続報として「ショーンK激白 本誌だけに語ったルーツ 結婚から整形疑惑まで」と独占インタビューを掲載(右)

なぜ今回に限り「擁護派」がいるのか?

この違いは何なのだろう。芸能人の不倫や、政治家の金銭授受問題、元野球選手の薬物問題、イクメン議員の不倫など、これまでの文春砲炸裂案件では、“擁護”や“情け”といった論調は起こりにくかった。明らかな犯罪である場合は、背景をおもんばかる人がいるくらいで世間は擁護しない。不倫などは本来は完全に当事者たちの間の問題なのだが、それが社会的に影響力のある人たちで商業的に巻き込まれた人々も多かったため、社会的道義や感情的な自己投影で逆なでされ、許せないと叩く向きのほうが多数派。「まあまあ」となだめる人はいても、“擁護派”はやはりいなかったと思う。

私は、ショーンKの件を知って「いやぁ、これはビョーキだよねぇ……」と精神的な問題を色濃く感じたクチである。コンプレックスの強さとサイコパスな行動と、どちらが鶏でどちらが卵なのかは分からないけれど、詐欺師とはサイコパスの一つであり、精神病というよりはパーソナリティー障害である。実際、社会的な成功者にサイコパスが多いのも有名な話だ。整形までして外国人をかたったと聞いて、とっさにクヒオ大佐の結婚詐欺事件を思い出したが、あまりに昭和すぎて「よくそんな古いの覚えてるなぁ。さすが本当は50代のくせにアラフォーと言い張る年齢詐称」と家族に笑われた。いや、ホントに40代だし、最近は分をわきまえてアラフォーって言い張ってないからほっとけ!

詐欺師はパーソナリティー障害

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クヒオ大佐結婚詐欺事件とは、1970年代から90年ごろにかけて「アメリカ空軍パイロットでカメハメハ大王やエリザベス女王の親類」と名乗り、結婚話を交際女性に持ちかけ、約1億円を騙し取ったというもの。堺雅人さん主演、松雪泰子さんや満島ひかりさん共演で映画化されている。

そう、クヒオ大佐も後年映画化されたほど荒唐無稽な事件だったが、詐欺師はパーソナリティー障害である。だから、ショーンKが身につけていたものを次々と剥がされて、真っ裸の“川上伸一郎”としての姿を晒されているのを見ると、憤りではなく哀れを感じてしまうのだ。「ありのままの自分を好きになれなかったんだなぁ、自信がなかったんだなぁ、そんな人生苦しいだろうなぁ、気の毒になぁ……」と。

しかもよくよく調べると、結構な努力家なのである。本物のハーフFMナビゲーターたちに肉薄するような流暢な英語の発音は、純日本人としてはかなりの努力の結晶だ。シリアスで精悍(せいかん)な印象を与える眉間の深いシワまでが、常に眉間に力を入れる彼の不断の努力の賜物と聞き、いつもギスギスと険のある表情をしているがゆえの自分の眉間の縦ジワを「これ以上私がシリアスで精悍そうになってしまう前にやめよう」と深く反省するのである。

イケメンには甘い……というわけではない

ショーンK、いや川上伸一郎という、一人の努力家の男の軌跡を思うと、怒りとか弾劾には意味がないのではないかという気がしてくる。だから、「今回のショーンKの件って、女性が責めないよな。イケメンには甘いんだな」と言われると、「いやそれ、イケメンだからなんじゃなくて、なんかもういろいろかわいそうだからなんですよ……」と言いたくなってしまう。だって“ハーフ”になるために学歴を詐称して、整形して、日焼けサロンに通って、実際はとっても華奢な体型でシークレットブーツを履いて身長をごまかして……って、イマドキのちょっと見る目がある女の子だったら、一発で見抜くであろう盛りまくりのルックス。ここまで来ると逆に「何か事情があるのかな」といたわってしまうレベルだ。

だから、かつてクヒオ大佐に騙された女たちも、本当はどこかで本能的に嘘と分かっているのに、だまされて“あげた”部分もあったのではないかな、などと思うのだ。まぁもちろん、そこが詐欺師の詐欺師たるゆえんなのだけれども。

現在、所属する事務所のサイトには「ショーンKからのお知らせ」として、すべてのメディア活動を自粛中であると書いてある。
河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。