日曜の朝、働く男女がカフェに集う。和気あいあいと盛り上がる彼らの手には、ドラッガーに関する書籍が……。ビジネス書好きが集まる読書会に、女子が参加するケースが増加中だ。ドラッカーや松下幸之助にハマる彼女たちの素顔に迫ってみた。

【写真左】当たり前を言葉で定義するすごさがあります(南田さん)【写真右】基本に立ち返るモチベーションをくれる本(三五さん)

ビジネス書が男性の読み物だった時代は今は昔。書店に足を運ぶと、熱心にビジネス書を選ぶ女性も多く見かける。そんな、仕事にも人生にも一途な女性たちは一体どんなことを読書に求めているのか。ビジネス書の代名詞として有名なピーター・ドラッカー作品と松下幸之助作品を読む2つの読書会に潜入! そこに集まる女性たちのビジネスや人生への読書の生かし方を探ってみた。

ドラッカーで「当たり前」を言語化する

まずはドラッカー女子が集まる読書会。日曜の朝にもかかわらず参加者は働く若手男女を中心に合計20人ほど。好きなドラッカー作品を持参し、仕事の悩みや書籍の感想などを話していく。ドラッカーの著作は多岐にわたるが、経営やマネジメントなど、実務に直結した書籍を持参する参加者が多い。

ドラッカーの会/主催:朝、カフェで読書会 https://www.facebook.com/dokushokai

管理職として働く南田さんがドラッカーを読み始めたキッカケは、MBAの課題図書。しかし最後まで読んでも印象は薄く、その数年後に『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称「もしドラ」)を読んだことでドラッカー作品を再読。現在はドラッカーをはじめとした、実務にも直結するマネジメント関連の書籍を多く読むという。

南田さんいわく、その魅力は“当たり前を言葉で定義するすごさ”だという。「ドラッカーの著書の中に、『人は仕事に誇りを持つときに成長する(ピーター・ドラッカー『企業とは何か』より)』という言葉があるのですが、言葉にすると当たり前でも普段の生活ではなかなか意識できないものです。今はドラッカーの言葉を頭に焼きつけ、会社の中で一人一人が存在意義を高められるように、部下に対してどんな課題を与えられるか日々考えています」

アメリカ駐在経験を持つ三五(さんご)さんは、最近部署異動があり、毎日新たな経験と勉強に奮闘中だ。「ドラッカーを読んでいると、まだまだビジネスに可能性はある。そんなモチベーションアップにつながりますね」

そう言う彼女は今回『現代の経営』を持参。「顧客の創造」というフレーズに、自身が勤める業界発展の可能性を感じつつ、今後のキャリアともクロスさせていた。

彼女たちは日常的にビジネス書を多く読んでいるため、好きな著者のことになると一家言ある人ばかり。最近ではアドラーブームの発端となった『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え 』を2人はすでに読了。同書に登場する「課題の分離」をめぐり、「この本を読んでから他人との距離の取り方が変わった!」と盛り上がるシーンもあった。

「経営の神様」の人間性に共感

一方で、いくつになっても向上心を持ち、仕事や人生を豊かにしようと学び続ける女性たちもいる。PHP友の会が主催する40代以上の女性向け「松下幸之助オトナ女子会」。経営の神様といわれる松下幸之助の魅力を、彼女たちはどう感じているのだろうか。

第2回 松下幸之助女子会in東京/主催:全国PHP友の会(今後の活動に関するお問い合わせはこちら→syakai@php.co.jp)

40代以上のオトナ女子向けという名目通り、参加者は40代から80代までと幅広く、復職を考える主婦から経営者の妻まで立場はさまざま。しかし共通しているのは「もっと学び、豊かに生きたい、そして語りたい」という並々ならぬエネルギーだ。

自己紹介から始まった会は、ミニセミナーを挟みつつ、500万部を超える松下幸之助の代表作『道をひらく』から「道」「縁あって」の2編のうち、どちらが今の自分に響いたかを語る読書会に。ある女性は、公私ともに人との関わりで生かされているとの思いが年々強くなっているため「縁」を選択。またある女性は、家族の都合で自分の長年の仕事を辞めた経緯から「道」を選択。「くやしい思いが湧いたとき、自分に与えられたものなのだからと気持ちを切り替え、今まさに新たな道を進み始めている」と語った。

参加者の一人に松下幸之助の魅力について聞いてみると、「経営者としてのすごさだけでなく、人を大切にし、社会に還元しようとする姿勢に、人格者としての素晴らしさを感じます」と教えてくれた。利益だけを追うのではなく、その先の人や社会など“他者”を忘れない経営論は、仕事だけにとどまりたくない彼女たちの価値観に合致しているのだといえよう。

そして、松下電気器具(現・パナソニック)のもう一人の創業者といえる妻・むめのさんの話になると、「どの書籍に詳しく書かれているのか?」

「実際どんな人だったのか?」などと質問が飛び交い、偉大な経営者を支えた女性に、同じ女性として強い関心があることがうかがえた。

年を重ねるとともに、自身の生き方について深く語る機会は少なくなっていく。だからこそ、松下幸之助を通じて、時間めいっぱい自分の考えを語り、そして周りの人の話から刺激をもらおうという意欲的な幸之助女子たち。解散後はその日知り合ったにもかかわらず、「話し足りない!」と笑顔でお茶会になだれ込む人もいるほどだった。

ドラッカーも松下幸之助も、ビジネス書でありながら「人間がどうあるべきか」ということを重要視している。松下幸之助女子会に参加した女性は「結局自分が変わらないと、周りの人も変わらないし、立ち止まると自分の世界が煮詰まってしまう」と、生涯現役で学び続ける大切さを語ってくれた。

ビジネス書は目の前の仕事のためだけに読むわけではない。周囲の人との接点も楽しみつつ自分の人生を豊かに生きていきたいと考える女性にとって、ビジネス書やこうした読書会が自分の殻を破るきっかけになりそうだ。