おおらかな母性と、成熟した美しさ。私たちがイメージするミラノマダムとは、そういう女性だろうか。ドラマティックな容姿の高級ブティック経営者はまさにそんな女性だ。経営と美と健康について、彼女の心の持ちようを聞いてみた。

世界中のセレブが訪れるセレクトショップを経営するルクレチュア・デジョバンニーニさん。経営者として、母として、美と健康の維持に余念がない。

ミラノきっての高級ショッピング街、モンテ・ナポリオーネの程近く、瀟洒な石畳の道からふっと開いた小広場のような空間に、その店はある。ルクレチュア・デジョバンニーニさんが営むセレクトショップ「ヌーメロ トレンタ ミラノ」。最新デザイナーたちの洋服が揃う、知る人ぞ知る一軒だ。

「大ブランドに飽きたような人たちが見に来るお店なんです。お客様は、イタリア、イギリス、フランスはもちろん、中東、旧ロシア、中国、日本など世界中から。ちょっと珍しい1点ものや、パーティー用のイブニングドレスを探しているような方々ですね」

そんな超がつくアッパークラス、世界のセレブ御用達のこの店がオープンしたのは2008年、ルクレチュアさんが45歳の時のこと。元々はバイヤーとして、ミラノのバッグを扱っており、日本にも7年半ほど住んでいたことがある。パートナーが日本人ということもあり、ルクレチュアさんも日本語が上手だ。9歳になる娘さんもいる。

世界のVIPを相手に接客を努め、めまぐるしく変わるファッションの最先端に常にキャッチアップ、さらには経営者として店の運営にも目を光らせる。同時に妻でもあり母でもある……。どんな切れ者のスーパーウーマンなのかと読者は思うだろう。が、しかし、目の前にいるルクレチュアさんにそんな気負いは一切見られない。女性的で柔らかな雰囲気を醸し出しながらも、口元の真っ赤なリップ使いは、大人の女性ならではのシックな色香が漂う。

現在53歳。黒のパンツでマニッシュに決めているが、彼女に似合う言葉は圧倒的に“フェミニン”のほうだ。どうしたら、忙しい毎日を送りながら、ルクレチュアさんのように女性としても輝いていられるのだろう。

「私は店から歩いて10分くらいのところに住んでいます。通勤はもちろん、普段から車を使わず、なるべく歩いて過ごすようにしているんですよ。いっぱい動くようにいつも心がけていますね。加えて、週に2回はヨガやピラティスをしています」この店に並ぶようなスタイリッシュでモードな服は、スリムな体のラインをキープしなければ着こなすことができない。体形維持は彼女の大切な仕事の一つなのだろう。

「食べ物にも気をつけています。最近のミラネーゼはバターではなく、なんでもオリーブオイルを使う人がとても多いのですが、私もその1人。そういうヘルスコンシャスなレストランやカフェも増えて、外食のランチもそういう店がとても賑わっています。ミラノでも、ここ10年のトレンドですね」

今ではスイーツでもバターの代わりにオリーブオイルを使ったものが売られているのだという。もちろん、自宅でも料理はほとんどオリーブオイルのみを使い、2週間で750mlのボトルが空いてしまうそうだ。

美の秘訣は女性としての心持ちから

各国のアッパークラスを顧客に持つだけに、店の品揃えはラグジュアリー感漂うものばかり。パーティーを彩る小物や、着る人を引き立てるドレスは、見ているだけでもうっとりする。

体形キープのために運動と食に気を使っている他に、ルクレチュアさんの美しさの秘密はどこにあるのだろう。たとえばワーク・ライフ・バランスはどのように保たれているのだろう。

「実は、秋冬、春夏と年に2回あるミラノのファッションウィークともなれば、休みは一切なくなるほど忙しいんです。でも、8月には必ず、2週間のバカンスを取りますね」。さすが、イタリアはフランスに勝るバカンス王国と言われる土地だ。

「でも、一番大切なのは普段の過ごし方。私も東京にいた頃は、家に帰るだけで疲れてしまう毎日でした。今は、週に2回、少なくとも週に1回は絶対に、ベビーシッターさんを頼んで夫と2人だけの時間を楽しむんですよ」

「だいたいおしゃれなレストランに行きますね、私たちは他のものにお金を使わず、食事にお金を使うことにしているんです」とうれしそうに教えてくれた。ヨーロッパの人々にとっては、バカンスも夫婦でのデートも、平坦な日常にリズムを付け、人生を楽しむための極意なのだろう。

さて最後に、日本の女性に合うように、シーン別にオススメのコーディネートを教えてくださいとお願いしたところ、胸元がつまった襟付きの真っ白なトップス、そして同じく真っ白の膝丈のスカートを選んでくれた。可憐なという形容詞が似合うような美しいセットアップだ。それは、パートナーとのデートにもいいですねと水を向けると、「これはダメ!」ときっぱり。

「夫と出かける時は、もっとセクシーなものを着なきゃダメ。胸元がもっと開いたものでなければ」

なるほど、忙しく働いていても美しくセクシーな女性でいる最大の秘訣は、きっとこんなメンタリティにこそあり! パートナーとデートなんて絶対にありえないとぼやく前に、デートに連れ出したくなる女性でいることも必要なのだろう。ミラネーゼの美しさの秘密は、その艶やかなデコルテに宿っているのだ。