共働き世帯の増加で、子供たちの放課後の受け入れ方にも多様性が求められています。鉄道事業者や塾等を運営母体とする民間学童サービスは、この10年で1.6倍に増加したという統計も。みなさんは「小1の壁」をどう乗り越えますか?
保育所入所に関しての「待機児童」という用語の普及とともに、近年「小1の壁」も徐々に知られるようになり社会の関心を集めつつある。一般的に「小1の壁」とは、小学校入学の際に、放課後や夏休みをはじめとする長期休暇中の預け先が見つからないなど、保護者がそれまでの仕事(働き方を含めて)を諦めざるをえない状況に追い込まれることをいう。
親が就労している等の理由で、放課後や長期休暇中の子どもの生活の場となるのが、「学童保育」である。全国学童保育連絡協議会の独自調査によると、「潜在的な待機児童」は低学年に限っても40万人以上と算出されている(2015年5月1日現在)。高学年までならさらに膨らむに違いない。ちなみに、14年10月の保育所入所待機児童数が4万3184人(厚生労働省発表)であることを考えると、この学童保育待機児童の多さがわかる。
こうした「小1の壁」に悩む家庭を対象として、近年では、鉄道事業者、学習(英語)塾、スポーツクラブ等が運営している放課後保育サービス施設が急速に増加傾向にあるという。これらは厚生労働省の学童保育の対象とはされていないため、詳細な数は不明だ。
放課後保育サービスは、学校や自宅・習い事への送迎、あるいは施設内での習い事の提供などで、子どもの安全を確保しつつ保護者の時間節約にも一役買う。夜遅くまでの保育に加え、食事等の提供もあり、シフトの遅い勤務や残業にも対応するなど、従来の学童保育では対応できなかった部分もカバーする。そのぶん、利用料は高額で、公的補助ありの学童保育では、一般的に月額利用料が5千円~1万5千円であるのに対し、こうした施設では4万円~6万円は必要。この料金を払える家庭はおのずと限られてくるが、それでも利用したいという家庭は多く、利用待ちまで出る施設もある。
こうした人気施設が登場する一方で、小学生の放課後保育サービスは、民間企業の成功が難しい分野ともいわれている。小学生は保育園児より対応が容易だという安易な考え方があるためとみられ、サービスを始めたものの、実際に事業に失敗したケースも出てきている。
実は、小学生は心身ともに成長が著しい期間であるがゆえに、体力面でも精神面でも不安定になりやすい。こうした子ども自身へのサポートと同様にその子の保護者へのサポートも必要になってくる。
「子育て支援」というコンセプトを打ち出していくなら、利益重視の運営は、かえって企業のイメージダウンにつながりかねない。子育て支援をメイン事業の一つに打ち出すなら、ソーシャルビジネスとしての視点は切り離せないのだ。
成功例として挙がるのが、横浜市の「認定NPO法人あっとほーむ」。同法人が運営する学童保育は、民間企業のサービスのほかに、子どもや保護者自身の悩み事にも真剣に向き合うなど、利用者への姿勢が評価され、利用希望者が後を絶たないという。学童保育や放課後保育サービスの成功には、単なる「保育」支援だけではなく、子ども自身の「育ち」支援と保護者の生活と気持ちに寄り添う支援も必要だといえそうだ。
松蔭大学准教授。総合商社、コンサルティングファームを経た後、現職。キャリア発達をテーマにしつつ、女性の継続就業支援も行う。