人口減少や東京一極集中の是正を目指す地方創生が大きな政策テーマになっています。さまざまな地方に住む働く女性たちに集まっていただき、地方移住や企業移転の促進、地方発の産業などの取り組みをどう感じているか議論しました。

島本さん/栃木県出身。宇都宮で中小企業診断士として半分フリーで活躍中。
岡村さん/看護師長として病院に勤務している。北海道札幌市出身。
清水さん/IT系企業を立ち上げ、経営に参画する。北海道の“ど田舎”出身。
横山さん/広告営業として活躍後、現在は転職活動中。神奈川県出身。
山田さん/広島県で老人ホームを経営。行政の至らなさに関して一家言あり。
中西さん/メーカー勤務。埼玉県出身。埼玉の中でも奥地のため、不便を感じる。
宮川さん/鉄道会社勤務。人事部で採用を担当している。神奈川県出身。
田中さん/製薬会社勤務。名古屋に赴任し、MRのマネジャーとして活躍中。

※日本初の女性限定ビジネススクール「日本女子経営大学院」の協力を得て8人の方にご参加いただきました。

「地方創生」の分野に、「ビジネスがわかる人」の登用をお願いします

【島本】私は栃木県宇都宮の中小企業診断士ですが、地方の人は地方創生に関心が薄い印象です。

【山田】私は広島で介護施設を家族で経営しているのですが、広島県も中国地方の軸になって動きたいという思いがあるのに、国の政策が広島の9割ぐらいの財政を握っていて、県は動きたくても動けない状況です。道州制に移行してほしいですね。

【清水】私は北海道のど田舎出身ですが、同感です。だいたい見てくださいよ。国が作った「まち・ひと・しごと創生総合戦略」というこの資料。「国と地方の取組体制とPDCAの整備」「成果(アウトカム)を重視した目標設定」「ビッグデータを活用した地域経済分析」なんて、カッコいい横文字ばかりが羅列していますが具体的な行動が見えてきません。

【横山】地方ではまず、PDCAのPもないってことが多い。

――優秀な人材が中央を目指してしまうからですか?

【宮川】いや、地方に産業がないからですよ。私は鉄道会社の人事をしていて、毎年九州にある工業高校に行って優秀な人材を採用しています。彼ら彼女らは、本当は地元にとどまりたい。でも彼らの技術を生かせる仕事がないから、やむなく東京に出てくるんです。

【島本】地方では既得権益で、もともと力を持っている人がのさばっているのも問題。たとえば、宇都宮駅周辺のシャッター通りに新しいテナントに入ってもらう動きがありますが、もともとの家主に力があり、年金暮らしでお金に困っていないだけに、新しい取り組みに手をかしてくれないんです。

【山田】広島では、介護施設を新たに立ち上げようとしても、土地がないんですよ。みんな細切れで売ってしまうため、施設に必要なまとまった土地がめったにない。整備された都市計画がないために、こういうことが起きる。

【中西】私は埼玉の奥地出身なのですが、地元の総合病院は、統合だとか建て替えだとかいって隣の市に行ってしまうなど、不便が多い。地方創生の基本として、医療や福祉は守ってほしいですよね。

【清水】地方交付税、補助金頼みの地方行政、産業も問題です。

【山田】確かに、最近、介護施設は畑違いの人が、補助金目的で始めることが多い。だから、結局、運営ができずにやめたり、質の悪いサービスしか提供できず、利用者が不利益を被るケースがあります。

【島本】地方には、補助金をいかにして受けるかを指導する補助金コンサルもいます。ああいう人は、補正予算がかかるたびに、潤う。

【横山】それでは結局バラマキと同じ。補助金により何人の雇用が増え、人口が増え、税収が増えたか、検証が必要だと思います。

【田中】あと地方発の企業が、元気になることが課題ですね。トヨタのお膝元の私が言うのも何ですけど、豊田市は地方交付税も貰っていませんし、公園も保育園の環境の整備も素晴らしい。

【山田】YKKが本社機能を一部地元に戻した話を聞きましたが、いい動きですよね。

【岡村】北海道には「セイコーマート」という自慢のコンビニがあるんです。PBを日本で最初に始めたり、過疎地にも採算度外視で店を出し続けるなど、顧客満足度ナンバーワンなんですよ。

【山田】国への要望としては、選挙の仕組みを変えること。若くて強いリーダーシップがなければ地方創生は難しいから。ウチの施設に入居するお年寄りは、介護タクシーを使ってでも「あの人を勝たせたい」と投票に行く。それはいいことなのですが、若い人が選挙に行かないとシルバーデモクラシーに偏りやすいですよね。

【清水】候補者がつじ立ちしているようでは、魅力的な仕事にならない。ネット選挙を解禁しては。

【島本】あとは規制緩和。建築のルールが厳しくてシャッター通りなどの再利用が進まない。こうした取り組みはぜひ、進めてほしい。

■「地方創生」に関する要望書

地方創生につきまして、下記により要望いたしますので、宜しくご配意賜りますよう、切にお願い申し上げます。

(1)「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を読んでも、具体的にどう動いていくのかが全く見えません。ビジネスがわかる有識者中心のメンバー構成にするといいのではないでしょうか。
(2)地方創生には、若くて強いリーダーが必要ですが、知事になりたい若者がいないので、年配の人が多くなっています。ネット選挙を解禁するなど、仕組みを変えてはどうでしょうか。

以上 第6回 座談会参加者 一同

提言:高齢な男性が占める政治行政に任せっぱなしではダメ!

●内閣官房 地域活性化伝道師 木下斉さんから

地方創生では、守りと攻めの2つのことが求められます。

一つは、人口は減るものだという前提をもとに、どう社会運営を続けるのか、という守り側の堅実な議論です。しかしながら一部の自治体では、従来どおりの自治体の規模・運営を抜本的に変えることなく、東京などからの移住優遇政策を行うことで人口増を目指したり、高齢者住宅の開発を進めています。

経営の基本は、限りある資源でゴーイング・コンサーンを目指すことにあります。集められない資金、手元にいない人材をアテにして事業計画を組み立てては、事業は破綻します。

地方創生で求められるのは、国の予算を使い一発逆転を目指す計画ではなく、人口が減っても一定の生産力と税収を確保し、破綻しない堅実な自治体経営計画です。人口増の効果で自治体破綻を回避しようというような無理な計画になっている地域を今からでも軌道修正することが求められています。

もう一つは、減少が決まっているわけですから、手元にある資源を無駄なくフル活用し、その収入で経営を成立させる社会への変化を促す攻めの行動です。

たとえばいまだ一部に根強く残る男女の労働分業構造、若者を下に取り扱う年功序列的な地域社会構造、子育てを家庭責任とする社会保障構造、限りある人材資源等が無駄に使われる仕組みが多数あります。これらを変えるための政策を地域ごとに考え、実行する必要があります。

しかし、高齢な男性が占める政治行政に任せ、制度変更を期待することは難しい。地方創生を役所の仕事だと考えず、女性、若者、経営人材自らが関心を持つ必要があります。政治行政に対しても積極的に提言をし、また自ら産業分野で新規事業の立ち上げなどで動くことが求められています。