念願の人材開発部門に配置転換。極めたいと思った世界は英語が必須……大手システムインテグレーター会社の勤務歴12年になる女性はその時どう動いたのでしょう? フィリピンへの短期英語留学をお伝えしている本連載、今回はセブ島の英語学校で会ったその女性に話を聞きました。

時差がほぼなく、欧米に比べ距離が近く、安い予算で英語を学べる留学先として、フィリピンへの短期英語留学をレポートしている本連載。

前回「英語公用語化で苦戦の社員。4週間フィリピン留学した結果は?」に続いてお伝えするのは、旅の英語には不自由がなかったものの、TOEIC300点台、英語は苦手と勉強を敬遠していた女性の奮闘記。思い描くキャリアの前に立ちはだかる「英語」という壁。彼女はその壁をどう克服しようとしているのでしょうか?

「QQ イングリッシュ」 シーフロント校に4週間留学
■大手システムインテグレーター企業勤務 (東京)35歳・既婚・子なし、 山本紀子さん(仮名)の場合

都内の大手システムインテグレーター企業に勤務する山本紀子さん(仮名・35歳)は、DINKSで働く活動的な女性だ。 4年制女子大に在学中は、夏休み期間を利用して、NPOが企画したプログラムでブルガリアに6週間滞在し、孤児院でボランティア活動に従事するなど、早くから世界に目が向いていた。学生時代にはアジア、新卒で現在の会社に入社してからはグアムや台湾といった近場、結婚後はパートナーとの共通の趣味である“ワイン”をテーマにフランスやイタリア、ドイツ、マルタなどヨーロッパを旅してきた。

朝日を浴びてアクティビティで体を動かした後、ビーチを眺めながらとる食事は最高の贅沢。“バッチメイト”と呼ばれる同期入学の留学生仲間との情報交換も欠かせない。

旅好きで英語に触れる機会は数あれど、入社時に受験したTOEICは300点台。そのため、「自分は英語が苦手」と思い込んでいた。「旅先ではある程度柔軟に会話できたし、ワイナリー巡りでは専門用語が多いので通訳さんをお願いしています。旅行では困らないから英語の勉強はいいや、と思っていました」

2012年、そんな山本さんの人生を変える転機が訪れた。システム・エンジニアとして8年間勤務した後、念願だった人材開発部への異動が叶い人材開発を担当することになったのだ。「SEとして働いていた時、システム開発が過去の成功に縛られていて、世界に遅れをとっていると感じていました。また、人材開発においても欧米に多くの最新の論文、理論、実践例があり、それらは全て英語で発表されているんです」

希望職種での再スタートだったが、じわじわと焦りも募る。そんな中、新人研修に取り入れた、複雑性に対応するためのリーダーシップアプローチであるデンマーク発祥の「Art of Hosting」や、日本でも翻訳されてヒットした『ザ・ゴール――企業の究極の目的とは何か』の著者、イスラエルのエルヤフ・ゴールドラット博士による「TOC(theory of constrains:制約理論)」を学び、学会やワークショップなどに参加するたび、「この分野の知見をもっと深めたい」という学習欲が高まった。

「勉強会や異業種交流会で人脈が広がり、例えば東京大学の中原淳准教授のような、人材育成分野の第一人者の話を伺う機会にも恵まれました。けれども『女性向けのセミナーが英語で開催される』とか『最新の英語の論文を読んで討論する』といったお誘いをいくつも頂くようになったにも関わらず、英語がネックになって参加できなかったのです」

キャリア設計には英語が不可欠! で留学を決心
1年をかけて勝ち取った4週間留学

英語ができれば、尊敬する日本人の先人たちに近づくことができ、その先には世界が広がっている。「将来、私が行きたい世界に英語は不可欠だと確信しました」

同じ頃、継続して英語の勉強をしていたパ-トナーのTOEICスコアが700点台から880点まで上がった。さらに、社内に英語留学システムを取り入れた企業の人事部長とも知り合った。

【写真上】山本さんが帰国後も継続して学習を続けているのが、本連載第2回でも紹介した全文反復学習法「カランメソッド」。【写真下】肉・魚から野菜サラダまで、食事メニューはバリエーション豊富。フィリピン特産のマンゴーが出る日も!

「まるで導かれるように、自然に機が熟しました」。そこで山本さんは、会社を辞めるのではなく、習得した英語を使って現在の人材開発業務に役立てるために、上司を前述した人事部長と引き合わせるなど、根回しを含めて約1年がかりで準備したそうだ。「会社の有給休暇の限界に挑戦です(笑)」

積み立てた休暇をフルに使い、仕事の調整をつけ、半年前から予定表を提出。最終的に、留学費用は自己負担で、会社には成果をリポートするという条件で、会社に在籍しながら4週間の留学が実現。「英語ができないことのコンプレックスを自分で払拭することが難しく、英語を学ぼうとしてもネガティブな気持ちになるばかり。マインドの転換は自力だけでは難しいと判断しました。逆にここさえ越えられれば英語学習にも慣れ、独学でも成長できるはず」と、まずは留学後のTOEICで600点以上という目標を設定した。

英語学習に積極的なパートナーは、基本的には山本さんを応援してくれたものの、4週間という長期不在にはさすがに不満をもらしたそうだ。「フィリピンと日本には時差が1時間しかないので、毎日スカイプで連絡を取り合いました。交渉時の最後には『今行かせてくれるのと、行かせてくれなかったと一生言われ続けるのと、どっちがいい?』と、たたみかけました(笑)」

寝・食・学ぶ、オールインワンの環境で英語漬け

【写真上】生徒から人気抜群の男性講師を中心に、毎日朝と夕、講師と生徒が20人ほども集まりズンバを踊ってリフレッシュ。【写真中】日本から持ち込んだお気に入りの参考書とフットケアグッズが山本さんの留学生活をサポート。【写真下】「元SEなのでパソコン作業は得意です」。パソコンやスマホを使いこなし、すき間時間を活用して効果的に学習していた。

治安の心配をしたり、通学に時間を取られるのが惜しくて、留学先には学校と寮が一体となった「QQ イングリッシュ」シーフロント校を選択した。「シーフロント校は生活のために学校の外に出る必要がありませんし、英語だけにこれほど集中できる環境はないと思います。私は思い出づくりに来たわけではなく、英語を学びに来たのだから、週末もアクティビティーには一切参加しませんでした。だいぶストイックですが(笑)」

0時就寝、5時起床という規則正しい生活を徹底し、平日は授業の予習と復習、週末は持参した参考書で文法や単語の勉強。パソコンやiPhoneのアプリを使い、すきま時間を活用した勉強法も試した。「学校はビーチに面しているので、気分転換に海や星空を眺めたり、学校内でも十分気分転換できました。海を眺めながら食べる食事も、特にパンがおいしくて! ちょっと太ってしまいました(笑)」

フィリピン人講師からアドバイスをもらいつつ、留学中に今後の学習継続方法までプランニングして帰国したという山本さん。今も熱心に英語の習得に励み、帰国2カ月後には、英語で実施された人材開発関連のワークショップにも参加した。「英語が苦手、と敬遠していて出遅れた分を取り戻したい」と、将来的にはTOEICで900点台を目指しつつ、ただ単に海外の知見を入れ込むのでなく、丁寧に対話をしながらみんながハッピーになる人材開発をしていこうと邁進している。

江藤詩文/旅する文筆家
年間150日ほど海外に滞在し、その土地に根ざしたフードカルチャーをメインに、独自の視点からやわからな語り口で綴られる紀行文を雑誌やウェブサイトに寄稿。これまで訪ずれた国は50カ国ほど。女性を中心とした地元の人たちとの交流から生まれる“ものがたり”のあるレポートに定評がある。旅と食にまつわる本のコレクターでもある。現在、朝日新聞デジタル&Wで「世界美食紀行」、産経ニュースほかで「江藤詩文の世界鉄道旅」を連載中。著書に電子書籍『ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~』シリーズ全3巻(小学館)。
【世界美食紀行】http://www.asahi.com/and_w/sekaibisyoku_list.html
【江藤詩文の世界鉄道旅】http://www.sankei.com/premium/topics/premium-27164-t1.html