共働き子育てに関して、私は、「職・住・保の接近」ということをよく言ってきました。職場と自宅と保育園を結ぶ三角形はなるべく小さいほうがいい、共働きの収入があるのだから、住宅費が高くても職場の近くに住めば、保育園のお迎えに間に合うし、子どもとの時間も確保できるというわけです。今でもこれは正しいのですが、昨今の厳しい入園事情を見ていて、修正の必要性を感じています。

都内は激戦区だらけ

保育園を考える親の会では、東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県の主要市区と全国の政令指定都市を調査した『100都市保育力充実度チェック』を発行していますが、この調査結果で2015年4月の都市部の入園状況を見ると、認可保育園・認定こども園・小規模保育・家庭的保育などの認可の保育に申し込んで入れた人の割合(入園決定率)は、平均して74.3%でした(有効回答71市区)。

これをていねいに見ると、東京都内が特に厳しいことがわかります。

都内は、入れた人が7割を切る市区のほうが多数になっていて、中でも6割を切ったのは、大田区、渋谷区、杉並区、世田谷区、目黒区、狛江市、府中市などでした。このほかの市区も、6割以上7割未満が多数になっています。ちなみに、東京都を一歩出ると6割を切るのは神奈川県藤沢市のみという状況です。

もちろん、この調査に回答していない自治体(都内10、都外19)のほうに、最悪の数値が隠れている可能性も高いのですが、全体的に、都内の入園事情の悪さが際立っていると言ってよいと思います。

待機児童ゼロでも人気の街の入園事情は厳しい

川崎市は、2015年4月の待機児童数をゼロと発表しました。保育園を考える親の会調べの入園決定率は74.2%で71市区の平均に近く、認可に申込んだ人の4分の1は認可に入れなかったことになります。川崎市の場合は、おなかま保育室、川崎認定保育園など、市が助成する認可外に通う子どもが4228人に上っており、これらに在籍しながら認可保育園を待機していても待機児童数には含まれないことが、このような数字のギャップを作り出しています。

しかし、そのこと以上に注意が必要なのは、同じ川崎市内でも、地域によって入園事情は大きく違っているということです。たとえば、武蔵小杉駅の周辺は「住みたい街」として人気が高い地域ですが、実は保育園の入園事情は相当に悪いということが会員情報でわかっています。激戦区と言われる武蔵野市や目黒区でも、吉祥寺や恵比寿などの駅周辺が「住みたい街」に挙げられており、同様の状況があるものと思われます。人気があるということは、子育て世帯も集まってくるわけで、当然の結果と言えます。

ひとつの自治体の中でも、入りやすい地域と入りにくい地域があるということ、人気の駅周辺は極端に入園事情が悪い場合があるということも念頭におく必要があります。

待機児童対策の質にも注目

待機児童対策を頑張っていて、1年間にいくつもの認可保育園新設を発表しているような自治体は、入園決定率も改善傾向にあります。

ただし、気になるのはその中味です。保育園を考える親の会の前述の調査で、認可保育園のうち園庭がない施設が半分以上を占める自治体が、有効回答85市区のうち8市区ありました。品川区、台東区、中央区、千代田区、文京区、港区、船橋市、藤沢市です。これらの地域では、新しく整備される保育園の園庭保有率が低いため、園庭保有率が下がってしまいました。ある意味、自治体が待機児童対策を頑張っている証拠でもあるのですが、「認可保育園ならお庭があるはず」と思っていた保護者には残念な状況になっています。

これまでの「保活」では、0~1歳児期を園庭のない認可外で過ごし、入園選考の「認可外在籍」の加点をつけてもらって園庭のある認可に転園するというパターンが多かったのですが、園庭のない認可保育園がふえている現状では、それが望めないケースも多くなりそうです。3歳以降の時期にのびのびと外遊びができる環境を望むのであれば、住む場所も考えなくてはならないということです。

駅から遠い良質な保育園という穴場も

激戦区と言われる自治体で、駅からバスで十数分という認可保育園の1歳児クラスに4月時点で空きが出ていたことがありました。そこは、保育の研究に熱心な法人が運営する評価の高い園でした。

「バス便というのは、ちょっと……」と思うかもしれませんが、もしもその園のすぐ近くに住んだら、と考えると、ありえない選択肢でもないように思います。「保・住」を接近させれば、通勤は大人だけの問題になります。

家を買う前に

こうして具体的に見てくると、都心部や「住みたい街ランキング」等の上位を占めるような地域は、保育園に入りにくかったり、保育環境に恵まれなかったりする場合が多いことがわかります。

また、至便の立地の大規模マンション開発などでは、共働き世帯にうってつけの魅力的な機能がPRされることが多いと思いますが、大規模マンション開発というのは、入園事情が突然に悪くなるときの典型的な要因であることも知っておいてください。

子どもが生まれるから家を買おう、できれば新築がいい、そう考えるのは自然なことです。が、少し冷静になって情報を集めてみてください。便利さや効率性に目を奪われず、入園事情や子どもが育つ環境も視野に入れて考える必要があります。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(実務教育出版)ほか多数。