SMAPが解散、ジャニーズ事務所を離れるのでは……という話題で世間は大騒ぎだ。1人、木村拓哉さんだけが事務所残留を決めたのは、妻・工藤静香さんが原因だという話も出ている。最近話題の“嫁ブロック”芸能界版という趣だが、そもそも嫁ブロックとは見栄っ張りな女の理不尽なたわごとなのだろうか?

SMAPが解散の危機にあるとか、事務所を移籍するとか、いや1人だけ残留するとかで、かまびすしい。日本だけではなく、海を超えたアジアの国々でも「スマロス」の悲嘆にくれる海外ファンが続出というから、その影響力の大きさを改めて感じるのだけれど、思い返せばそりゃ90年代からソリッドなキャリアを築き、今や20年選手として活躍し続けるスーパースターたちだもの。日本国内やアジアにおいての衝撃は、最近のワン・ダイレクションの解散話や、かつてのバックストリート・ボーイズの……と書きかけて検索したら、バックスはまだ解散していなかったので焦る。いや、彼らとは活動と活躍の密度が全然違うものね。

ちょっと志向が異なるためにこれまでの人生でジャニーズに入れあげたことはない私でも、なんだかんだ言って同世代のSMAPの歩みはほぼ全員大まかに知っている。中でも、キムタクは私世代(団塊ジュニア世代)の「抱かれたい男」の筆頭としてメディアを席巻してきたから、主体的に情報を取りにいかずともその活躍や私生活のあれこれが否応なしに飛び込んできた。トップアイドル同士で電撃結婚とか、子どもの名前とか、インターナショナルスクールに送り迎えする様子とか。子育て系雑誌で書いていた頃は、よく女性ゴシップ誌などからキムタクと工藤静香夫妻の記事にコメントを求められて、「そんなプライベートをカメラマンに嗅ぎ回られるスター同士の子育ては情報管理が大変だな」と同情した。つまりそれだけ彼らが世間の関心の的だったことの裏返し、そんな時代だった。

そう、グループの5人の中でキムタクだけが既婚者なのだ。結婚の事実も、配偶者の動向も、子どもたちの名前や年齢も、どこの学校に行って学校行事の時は親がどんな格好で参加しているかだって、世間はみんな知っているというのに、それでもキムタクが持つ男としての格好よさは低減しないどころか、株も上がり活躍の範囲も広がるばかりだった。そしてその背景には、年上の妻である工藤静香の夫プロデュース力があるのだろうなということは、素人の私でも強く感じていた。明確なビジョンのある家庭経営と、徹底した情報管理、自己を含めた全方位のプロデュース力。アイドル時代の工藤静香にはあまり関心がなかったけれど、結婚してからの工藤静香のあり方には、彼女があえて世間から身を引いていたからこそむしろ強く「賢くて、いい女なんだなぁ」と思えた。

さて、2016年の年明けからちらほらとメディアで取り上げられていたのが「嫁ブロック」という言葉である。転職活動をする男性が、内定を手にしたあとに妻の反対を受けて辞退する現象を呼び、拡大が加速する転職市場での業界用語だった。

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元日に“嫁ブロック”について報じた産経新聞。タイトルは『男の挑戦くじく「嫁ブロック」とは 「妻の反対で内定辞退…」 業界用語からみる夫婦の新たな関係』

それが年初の新聞で「嫁ブロックで男の挑戦がくじかれる」といったような報道がされ、「嫁ブロックとはなんぞや」「妻たちが夫の転職を反対する理由がふざけている」「年収ダウンや東京からの都落ちがイヤだとか、大手有名企業の名を失うのがイヤだとか、結局見栄でしかない」とネット界隈が湧いた。そんな文脈では、夫の転職に異を唱えて内定を辞退させる妻は「浅薄な考えの見栄っ張り女」と反感いっぱいにラベリングされ、そんな女たちと結婚している男たちは「妻を説得することもできず、内定辞退を先方に伝える時にも妻の反対を理由に挙げるような、情けない男」であると断じられることも多かったようだ。

「男たるもの、自分の行く道を自分で決められないとは情けない。妻ごときに意見されて泣きつくなどケシカラン!」というような昭和の日本男児思考かどうか知らないが、妻が夫の転職に意見や希望を述べること自体は生計や活動を一にする夫婦として当たり前のことだ。その理由が本当に単純な見栄でどうこうなのなら、そういう妻を選択してつがった夫もどこか似たもの夫婦であるはずで、彼もまた外側の条件が気になる、そういう男なのである。だが、妻の側から発される年収ダウンや勤務地変更への抵抗、勤務先企業のネームバリューというよりも異なる組織に移籍することへの反対は、必ずしも「女の浅はかな見栄」を原因に起こることばかりではない。

連れ添っている妻だからこそ分かる夫の適性や、そもそも転職を志した原因となる葛藤、その転職は本当に「挑戦」なのかそれとも「逃げ」なのか、妻の仕事や子どもの教育と友人関係、実家や義両親や親戚との距離など、妻の方が周りが見えていることは大いに考えられる。

なぜなら、周りが見えていることこそが女性の特徴であり、女性のアドバンテージでもあるからだ。家庭を持つとは、家族が同じチームとなって一つのゴール、「幸せ」を今後の人生を共にして実現しにいくことであり、みながステークホルダーになることであり、だからチーム内の意向調整が必須なのだ。もし、「嫁ブロック」を受けた夫がそれを恥ずかしく思ったり、不満を膨らませたりしているとすれば、その夫と妻が見ている方向はバラバラだ。すなわち、調整が失敗しているということであり、家庭内チームワークの危機なのである。

妻には妻の、夫には夫の意向や言い分があり、それを話し合い調整して初めて、夫婦として機能する。だから、工藤静香の「嫁ブロック」をのんで(もちろんそれだけが理由ではないと思うけれど)事務所残留を決め、あとはじっと口をつぐむキムタクは、仕事人としても家庭人としてもさすが一流。その男前ぶりにあらためて惚れる。

SMAP解散と事務所移籍という、まさにこれまでの「夫プロデュース」における最大の危機を前にして、自分たちトップアイドル同士が結婚する時に守ってくれた事務所への恩義を第一の理由にしたと報道されている工藤静香の心意気にも、あらためてシビれる。そう、この夫婦は、ジャニーズ残留を「2人で決めた」のだ。

河崎環(かわさき・たまき)
フリーライター/コラムニスト。1973年京都生まれ、神奈川育ち。乙女座B型。執筆歴15年。分野は教育・子育て、グローバル政治経済、デザインその他の雑食性。 Webメディア、新聞雑誌、テレビ・ラジオなどにて執筆・出演多数、政府広報誌や行政白書にも参加する。好物は美味いものと美しいもの、刺さる言葉の数々。悩みは加齢に伴うオッサン化問題。