有給休暇を利用して、働きながらの英語留学をオススメする本連載。1週間の短期から留学可能な学校は、ビジネスパーソンの強い味方。今回はフィリピン・ネグロス島の学園都市、バコロドからのレポートです。

フィリピン・バコロド市は、ネグロス島の北西に位置する島内最大の都市だ。といっても、有名な観光名所やビーチリゾートがあるわけではないので、旅行者の姿はほとんど見かけない。フィリピン留学について調べたことがある人以外で、日本人でその名を知っている人はほとんどいないに違いない。バコロド市のニックネーム「シティ・オブ・スマイル(微笑みの街)」が表すように、急成長する首都マニラのエネルギッシュな雰囲気とは全く異なり、地元の人々がのんびり暮らすのどかな地方都市だ。

街はマニラに比べれば治安がよく、都市としてのインフラは、ほどほどに整備されている。また、「教育都市宣言」をしている同市は、大学など教育機関の誘致に積極的で学生が多く、周辺には繁華街がない。つまり“学習に集中できる環境”というわけで、韓国系の英語学校が10校ほど集中している。その中の1校で、フィリピンでは有名なカトリック系の名門私立大学「セント・ラサール大学」の付属校、「セント・ラサール大学付属語学学校」に4週間滞在した。

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【写真上】多国籍の生徒が集まったグループレッスン。この日はフィリピン文化を体験するために、さまざまな民族衣装を着用した。【写真下】ラサール大学の授業を聴講できるのも付属語学学校のメリット。教授も学生も大歓迎してくれた。

日本の大学も提携しているが、韓国系の学校だけあって、生徒のほとんどは韓国人だ。韓国の大学ではカリキュラムの一環として、一般的に4カ月から半年ほど滞在するそうで、私が訪問した時には9割以上が韓国人の大学生だった。いくつかの大学から数十人ずつがグループで来ていて、彼らのほぼ全員が3人部屋で賑やかに学生生活を謳歌している。私が滞在した時期には、150人ほどが寮で共同生活をしていて、その中に10数人の日本人と台湾人が紛れているといった感じだった。夏休みなどピークシーズンは300人近くまで増えることもあるらしいが、このような受け入れ体制が整っている学校は、標準的な規模だという。

日本人が留学する場合、コーディネーターとして日本人の女性スタッフが1人常勤していて、彼女が日本語でケアをしてくれるので、英語が全く話せなくても問題なくスムーズに留学生活をスタートできる。とはいえ目新しい“新入生”を見つけると、授業の合間のちょっとした雑談タイムに、人なつこい韓国人学生やフィリピン人講師たちが、屈託なく英語で話しかけてくる。韓国語が話せなければ英語に頼るしかなく、否応なく英語オンリーの環境に放り込まれるわけだ。この“英語漬け”の環境を目的に、留学先として当校を選んだ日本人や台湾人もいた。

掃除&洗濯はハウスキーパーに任せて英語に集中!

生活の場となる寮は、学校から徒歩5分ほどのところにあり、寮生活も基本的に韓国人に合わせて構成されている。もっとも典型的なのが食事で、1日3回提供される食事は全て韓国料理だ。私自身は、これまで味わったことのないさまざまな韓国料理を楽しめて、全く食べ飽きることはなかったが、日本人や台湾人の中には、辛い味つけの料理が苦手という人もいた。

【写真上】ある日のランチ。3食全てが韓国料理だが、バリエーションが豊富だ。【写真下】筆者が滞在したツインルーム。ベッドにデスクと簡素な設えだが、清潔で快適に過ごすことができた。

また、海外経験のあまりない若い学生が集団で留学に来ることが前提になっているため、通学路にガードマンがいたり、門限が決まっていたり、男子寮と女子寮がしっかり区分されていたりといったように、連載第2回で紹介した日系の「QQ イングリッシュ」と比べると、より“集団生活の規律”を重視している印象だ。

学生の大半は相部屋を選ぶため、1人部屋は用意された数が少なく、仮に1人部屋が全て埋まっていても運がよければ2人部屋を1人で利用できる。私はツインルームに当たり、広々とした空間で生活できた。各部屋を担当するハウスキーパーが決まっていて、週3回の掃除と週2回の洗濯をやってくれる。“家事的”なことは一切する必要がなく快適だ。

授業は、私が選択した「通常コース」の場合、4時間のマンツーマンと2時間のグループレッスン、寮内での2時間のオプションクラスと、1日で最大8時間のクラスを受講できる。

いかにもアメリカ人らしいスラングやジョークを交えながらの「アメリカン・アクセント」の授業は、学生たちから大人気だった。

ところで、一般にフィリピン留学は英語の初心者に最適で、全く英語ができない人が初歩から学び、フィリピン留学後に英米への留学を目指すと言われる。しかし一方で、留学生の大多数を占める韓国の学生の中には、この逆パターン、つまり先に英米へ留学して文法などの基礎知識を1年ほどかけて身につけ、グループレッスンが中心の英米では機会が少ないスピーキングのレベルを向上するために、マンツーマンで思いっきり話せるフィリピンで英語を仕上げるという学生もいた。

ちなみに、語学学校の寮にはラサール大学で研究員を務めるネイティブのアメリカ人が生活していて、ネイティブ講師として生徒たちの発音を矯正するグループレッスン「アメリカン・アクセント」の授業を担当していた。

キャンパスの施設利用と授業聴講のサービスも新鮮

私が感じた日系の「QQ イングリッシュ」との大きな違いは、講師との距離感だ。日系の学校では、事前テストで振り分けられたレベルにより、あらかじめ使用するテキストや授業内容が決まり、何も準備をせずどの講師のレッスンを受けても、ある程度同じレベルの授業が行われ、戸惑うことはない。

【写真上】ある女性講師は「英語で短いコラムを書くのを目標に」と、文法と表現を丁寧に教えてくれた。【写真下】クラスメイトとジープニーを貸し切って出かけた観光スポット「ルーインズ」。

一方、「セント・ラサール大学付属語学学校」では、授業内容は講師に任される部分が大きい。どんな目的で留学し、何を学びたいのか。それをあらかじめ考えて行かないと、雑談で終わってしまう可能性も高いと思った。ただし、目標がはっきりしていれば、講師がそれに合った教材や資料を、時には休日を返上して用意してくれたりもするので、短期間でもピンポイントで習いたいことを教わることができる。

雑談と言っても、そこから広がる世界もある。雑談から会話が弾む分だけ講師との距離も縮まりやすく、授業後や休日に講師と出かける機会も増える。私も、講師の行きつけのカフェで、SNSで流行っている新しいフレーズを習ったり、フィリピン特有の「ジープニー」というローカルな乗り合いトラックに乗って郊外に出かけ、見聞きしたり食べたりしたものや感じたこと全てを英語で表現し、その都度添削してもらうという“1日課外授業”のような休日を過ごした。

ちなみに「セント・ラサール大学付属語学学校」の校舎はラサール大学の敷地内にあり、学生証が発行されるため大学の施設を利用できる。大きなプールがあるので、コーチについて英語で水泳を習う韓国人大学生もいた。語学学校の留学生は、滞在中に1度大学の授業を聴講できる。私は観光学科の授業を聴講した。

気になる留学費用は、驚きの320米ドル/週から!

掛かった費用は、私は、「通常コース」の1人部屋・4週間で、宿泊費と食費を含む授業料は1450ドル。これに登録料100ドル、空港からのピックアップ30ドル(片道・希望者のみ予約制)が掛かる。バコロド現地では、「SSP」申請費用が6200ペソ、寮保証金2500ペソ(施設の破損などがなければ卒業時に全額返却)、寮の電気代約700ペソ(メーター制で使用した分だけ)を支払った。(注・1ペソ=約2.6円。2015年11月現在)

ちなみに、3人部屋なら「通常コース」で1日8時間の授業を受けても授業料は320ドル。リゾート地のセブ島と比べると、物価も若干安く生活費も抑えられる。安い留学費用に加え、日本人の少なさゆえに英語力を駆使しなければならない環境は、短期留学での英語力アップにはうってつけだ。

「セント・ラサール大学付属語学学校」でうれしい、3つのポイント

【POINT1】
日本人が少ない環境に飛び込めるので、毎日英語漬けの生活を送ることができる。韓国人学生とコミュニケーションをとる機会が多いので、韓国文化に詳しくなれる、という副産物も。
【POINT2】
学生証を発行してもらえるので、図書館やプールなどセント・ラサール大学の施設を使える。留学中に1回、大学の授業も聴講できる。英語がペラペラの大学生が話すナマの英語に触れるチャンスだ。
【POINT3】
講師との交流が生まれやすい雰囲気。各講師がそれぞれお気に入りの勉強に役立つツールを教えてくれたり、帰国後の英語の勉強方法を提案してくれる。
■ラサール大学付属語学学校
http://lslc.jp
問い合わせはウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から。
LSLC日本事務局03-3804-8778にも電話で問い合わせられる。
江藤詩文/旅する文筆家
年間150日ほど海外に滞在し、その土地に根ざしたフードカルチャーをメインに、独自の視点からやわからな語り口で綴られる紀行文を雑誌やウェブサイトに寄稿。これまで訪ずれた国は50カ国ほど。女性を中心とした地元の人たちとの交流から生まれる“ものがたり”のあるレポートに定評がある。旅と食にまつわる本のコレクターでもある。現在、朝日新聞デジタル&Wで「世界美食紀行」、産経ニュースほかで「江藤詩文の世界鉄道旅」を連載中。著書に電子書籍『ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~』シリーズ全3巻(小学館)。
【世界美食紀行】http://www.asahi.com/and_w/sekaibisyoku_list.html
【江藤詩文の世界鉄道旅】http://www.sankei.com/premium/topics/premium-27164-t1.html