2020年の東京オリンピックに向け、マンション建設や再開発など、不動産業界が活況を呈しています。バブルの再来はないものの、投資目的で不動産を購入するとしたら、何に気をつけるべきか? 物件を「貸す」「売る」の2つの観点から探ります。

住宅購入時によくあるアドバイスのひとつに住宅ローンを払えなくなるなど不測の事態に備え、「貸せる物件、売れる物件」を選びましょうといった文言がある。私も何度か、こうした言葉を書いたことがある。投資目的で物件を購入する場合は、なおさらだ。ローンを下回る利回りでしか運用できないのでは話にならない。単に貸せる物件、売れる物件はあるとしても、ローンのリスクを軽減したり、大幅な利益を出せるほどの額で貸せる物件、売れる物件があるのかというと、あったとしても、かなりレアなケースである。【前編】ではまず、「貸せる物件」について見ていこう。

不動産投資。貸して損しない新築物件はあり得るか?

貸して損しない物件を考える場合、参考になるのは不動産投資を行う際の利回りの計算である。買った家が投資した額よりも収益を上げてくれるのであれば、不測の事態何するものぞ、だからである。さて、その計算だが、簡単なのは「表面利回り」と呼ばれるもので、我が家を貸した際の年間賃料を不動産の価格で割った数字である。

一般に投資家はまずこの数字を見て、その後、さらに詳細な利回りを試算、投資の検討をする。表面利回りは投資の入り口となる指標と言うわけだ。計算式は次の通り。

表面利回り(*)の算出法

表面利回り=年間賃料(毎月の賃料×12カ月)÷物件価格

(*)実際にはマンションのような区分所有物件であれば、年間賃料のうちから管理費、修繕積立金、固定資産税その他の支払いが必要だ。また購入時にはそもそも、手数料その他も掛かっている。そのため、不動産投資の際には表面利回りからさらに厳密な利回りを何種類か試算し、その結果、購入を決めることが多い。

5000万のマンション物件を利回り7%で運用する場合

さて、一般に65平方メートル前後、3LDKの新築マンションを、それなりの立地の場所に買うとすると、数千万円はかかるだろう。ここでは仮に、価格を5000万円として考えてみる。以前は理想的な表面利回りは10%以上とされたが、最近では物件価格上昇もあり、首都圏では表面利回り7~8%の投資物件でも売れるという。そこで今回は、前ページの表面利回りの算出法をベースに、5000万円の物件で7%の利回りを上げるための、逆の計算をしてみる。

5000万円の物件で7%の利回りを上げるには、年間賃料は350万円ないといけない計算となり、月額にすると29万円ちょっと。毎月30万円ほどで貸さないと、7%では回らないという結果になる。当然だが、この額が現実的でないのは言うまでもない。いわゆる都心の高額賃貸物件サイトを見れば分かるが、5000万円の新築分譲マンションは家賃30万円の質にはないのである。

賃貸料をローン返済に充当する場合

では、利益は出ないまでもローン返済額、管理費、修繕積立金、固定資産税・都市計画税が賄える程度に貸すことはできないか。これも検証してみよう。

5000万円の新築マンションを1000万円の頭金で購入、住宅ローンが4000万円、30年返済、変動金利で金利1%という想定で試算すると、毎月の返済額は12万9000円。ここに管理費、修繕積立金を合計で2万円、税金を月平均8000円加えると15万7000円。これなら、立地によっては借りてもらえるかもしれないが、実際に貸すとなると仲介手数料や退去時の原状回復費用などもかかるし、空室時は当然だが、自分でローンを払わなくてはいけない。幾分かの持ち出しはあると想定するのが現実的で、返済が厳しくなった場合にその余裕があるかどうか、際どいところだろう。

これが中古マンションになり、価格自体が3000万円台などに落ちてくれば借入額も減り、払えなくなるリスクも、貸した時に持ち出しが出るリスクも少なくなる。一方で築年数によっては、賃料が安く設定されてしまうこともある。

貸すことがリスク回避になるかどうかを知るためには、購入後の毎月支払額を住宅ローン以外も含めて把握し、地域の賃料相場と付き合わせてみる必要がある。よく、新築マンションモデルルームでは「いくらで貸せます」といった資料を用意していることがあるが、本当にリスクを軽減したいのであれば自分で調べてみること。不動産ポータルサイトの相場情報をチェックしたり、地元の不動産会社を訪ねてみるなどすれば容易に分かる。

マンション購入希望者向けの情報サイト「住まいサーフィン」には「沿線・駅別マンション新築価格・賃料・利回り相場」なるコンテンツがあり、沿線、駅ごとに75平方メートルあたりの分譲価格、坪単価、賃貸価格がまとめられている。これも参考にしてほしい。ただし、沿線、駅によってはそもそも75平方メートルの賃貸にニーズがないこともある。必ず、現実と突き合わせる必要があるわけだ。

住まいサーフィン 沿線・駅別マンション新築価格・賃料・利回り相場
https://www.sumai-surfin.com/price/market/

家賃15万の壁。一戸建ての賃貸市場を検証する

前ページまでマンションの話をしてきたが、一戸建てはどうだろう。率直にいってマンションより厄介である。というのは、賃貸市場では一戸建ては全体に非常に少なく、相場が成立していない地域があるためだ。

例外もあるにはある。ファミリーの場合、一戸建てを借りたいというニーズは確実にあり、不動産投資の世界では最近、地方の一戸建て投資が盛り上がっているほどなのだ。だが、それは指値(買い主が希望する購入価格のこと)を入れて買った数百万円から1000万円しない中古を自分でリノベーションして貸すというようなやり方に限られ、普通に消費者として一般的な住宅、特に建売新築一戸建てを購入した場合に、そのローン支払い額を賄えるような貸し方は、マンション同様、非常に難しい。

一戸建て、マンションともに賃貸市場では賃料が15万円を超すと貸しにくくなり、20万円を超すと非常に難しくなってくる。立地が良く、建物のグレードが高ければ貸せないこともないが、そうした物件は5000万円前後の予算では購入できない。つまり、「貸せる物件」は実現できないことはないが、その道のりはかなり厳しいということである。

都市部ならではの賃貸方法でチャンスも!

ところで、ここまで住宅として貸すという話をしてきたが、それ以外の用途で貸すという手もある。オフィスや店舗、併用住宅などとして貸すという手である。たとえば都心近くのマンション、一戸建てであれば、個人オフィスとしてのニーズがあるし、住宅街の中の一戸建てであればサロン兼住居という借り方を望む人もいる。

賃料としては住宅以外の用途のほうが高く設定できるため、もし、貸せるのであれば住宅以外の貸し方も選択肢のひとつ。ただし、サロンであれば玄関や水回りを住居と店舗で分ける必要があるなど、業種によって制約があるのでなんでも可というわけではない。用途地域の制限から開業できない業種がある場合もある。

中川寛子
東京情報堂代表、住まいと街の解説者、日本地理学会会員、日本地形学連合会員。
住まいの雑誌編集に長年従事。2011年の震災以降は、取材されることが多くなった地盤、街選びに関してセミナーを行なっている。著書に『キレイになる部屋、ブスになる部屋。ずっと美人でいたい女のためのおウチ選び』『住まいのプロが鳴らす30の警鐘「こんな家」に住んではいけない』『住まいのプロが教える家を買いたい人の本』など。2015年11月には『解決!空き家問題』(ちくま新書刊)が発売されたばかり。