誘惑上手なフランス女性。それは男性と愛し合うためだけの手段ではなく、「世の中を上手に生き抜くためのスキル」でもあるのです。フランス人を母方の祖母に持つアメリカ人女性、ジェイミー・キャット・キャランが、その理由と具体的なワザについて探ります。

「誘惑」とは世渡りのためのスキルである

フランス人にとっての〈誘惑〉という言葉は、誰かをベッドに誘うことだけを意味するのではありません。いえ、それどころか誘惑的、魅惑的であることは、世間と折り合いながら、上手に生きていく知恵のひとつなのです。魅惑的であるためには、知性、ウィット、そして相当チャーミングであることが必要とされます。

複雑な問題をロジックだけで解決しようとしていませんか。フランス女性は目的達成のために、「誘惑のスキル」を生かします。

あるフランス人男性は、それをつぎのように表現しています。

誘惑とは、最終的に誰かをベッドに引っぱりこむことじゃない(そういう場合もあるけど ……)。うまく言えないけど、誘惑というより“魅惑”と言ったほうが、フランス人の感覚に近いかもしれない。

誘惑とは、誰かに自分や自分の考えを好きになってもらうことなんだ。カサノヴァや教祖や外交官、それにセールスマンなんかにはぜひとも必要なスキルだと言える。

つまりこれは、国境を越えて必要とされるスキルなのです。

誘惑は、フランス女性が男性と愛し合うために使う手段でもありますが、同時に人生をうまくわたっていくためのスキルでもあります。市場でいちばん新鮮なポロねぎを手に入れ、駐車料金を負けてもらい(フランスではこれが可能なのです)、追加料金なしでメガネの修理をしてもらう。そのために彼女たちは自分のチャーミングな魅力をふりまくのです。

フランスは小さな国で、人々は複雑な社会構造の中、結束のかたいコミュニティに属して暮らしています。こみいった官僚制度も至るところにあります。さまざまなことが、アメリカのようにスピーディで簡単に進まないことが多い。このためフランス女性は、目的を達成するためには慎重であると同時にチャーミングでなければならないことを、小さい頃から学びます。

出会うすべての人を誘惑する

相手がパン屋の店主だろうと、近所のカフェのウェイターだろうと、ヨガのインストラクターだろうと、気軽におしゃべりをし、魅力的にふるまいます。ワイン1本買うのにも、大型スーパーに入ってひと言も発しないまま買い物をすませるようなことはしません。長年つき合いがある近所のワインショップに行き、オーナーと最近のボルドーの出来についておしゃべりしながらワインを選ぶのです。「みんなが言っているほどいいワインなの?」それからオーナーの子どもたちの話題を持ち出します。「ベルナールはバカロレアに向けてがんばっているのかしら?」

チャーミングでいるためには高度なスキルを要します。それは世渡りに役立つばかりでなく、彼女の恋愛関係にも必要不可欠です。どんなふうにって?

ミレイユ・ジュリアーノの本『フランス女性は太らない』(原題 French Women Don't Get Fat)にも書いてあるように、フランス女性は喜びのために生きています。オンかオフか、イエスかノーか、という考え方をしません。食事ひとつにしても、ごちそうを大量に食べるか、絶食するか、というような極端なことはしないのです。

恋愛についても同じ、極端に走るのでなく、どんなときも少しだけセクシーに見えるように気をくばります。それは際立つほどのセクシーさではありませんが、つねに自分が女性であること、そして女性らしさには素晴らしいパワーがあることを知っているのです。彼女たちはいつも誘惑的であることを心がけ、それがあまりにも自然で控えめなので、相手も彼女の魅力にまいってしまったことに気がつかないほどです。

「まなざし」で勝負を決める

フランス人は、意味ありげに、あるいは意味なさげに、横目でチラッと視線を送るのが得意です。パリ5区に住むジュリーに〈魅惑する〉方法についてきくと、こんな答えが返ってきました。

目力をつかうのよ! 意味ありげなまなざし、これがわたしの秘密兵器。男を振り向かせるには、嫉妬させるのがいちばん。

そう、必要なのはまなざしだけ。あとは感じのいい言葉と微笑み、そしてちょっとしたクールさです。道をきくとか、小さなお願いごとをするのも誘惑的なふるまいになります。ペンを借りるとか、近くのレストランの名前や、おすすめのワインの銘柄をきいてもいいですね。すると、その意図には気づかないまま、男性は彼女に関心をもちます。このやり方だと男性は、自分が好かれているのか判断できなくて迷うのです。

フランス女性はつねに誘惑的なワザをくりだし、スキルを磨いているのです。

わたしたちアメリカ人からすれば、まじめな意図のないこのような誘惑は、相手を煙にまく、ずるいやり方のように思えるかもしれませんが、そんなことはありません。誰もがウィットに富んだ軽い会話が大好きなのですから。これだけで、誰もが少しだけセクシーな気分になることができます。それに、いろいろな人からちょっとずつモテれば、寂しさのあまりその場限りの関係に走って、あとで余計に寂しく、満たされない思いをすることだって避けられます。

※本連載は書籍『セクシーに生きる ――年を重ねるほどに、フランス女性が輝きを増す秘密』(ジェイミー・キャット・キャラン著、プレジデント社刊)からの抜粋です。

ジェイミー・キャット・キャラン
アメリカ生まれ。フランス人である母方の祖母のもとで育ったアメリカ人女性。書籍『セクシーに生きる』(プレジデント社)(http://presidentstore.jp/books/products/detail.php?product_id=1067)は、リアルな告白エッセイとして高い評価を得、たちまちベストセラーとなり、10カ国以上で翻訳されている。ニューヨークタイムズ紙をはじめ多くの新聞雑誌に恋愛指南コラムを執筆するほか、ニューヨーク大学、エール大学、 UCLAでライティングの講座をもつなど、著作以外の活動も活発に行っている。マサチューセッツ在住、気象科学者の夫とともに暮らす。http://www.jamiecatcallan.com