頭打ちの日本経済。市場がよりグローバルへ動いている今、「英語」は身につけておきたい大切なツールです。ではビジネスパーソンが短期集中で英語力を上げる方法とは? フード&トラベルジャーナリスト・江藤詩文さんが、オトナの海外留学体験をレポートします。

 2016年、日本と国交正常化60周年を迎えるフィリピン。この1月には天皇皇后両陛下もフィリピンを親善訪問される予定で、日本人にとってますます身近な国になりつつあるフィリピンだが、「英語を習得するために“フィリピ ン”へ行く」――そう言うと多くの人が驚いた。なぜなら、現在アラサー以上の世代が学生の頃、「フィリピン英語留学」は、ほとんど選択肢になり得なかったのだ。そんな「フィリピン留学」が、ここ10年ほどで勢いを増し、注目を浴びている。フィリピンは留学市場で「英語」をキーワードに急成長を遂げていて、フィリピン政府観光省によると、2010年から2015年の間に、英語留学をする日本人の数が8倍以上に増えているという。

ところで、なぜフィリピンで「英語」なのだろうか。あまり知られていないが、7107もの島からなる国・フィリピンには、80以上の言語が存在する。そのため国は、タガログ語(フィリピン語)の他「英語」を公用語に制定し、小学校から国民への英語教育を始めている。小学校卒業後は授業の大半が英語で、大学ともなるとほぼ100%の講義が英語で行われる。

そんな英語力を生かして、政府が力を入れている「英語」ビジネスが2つある。1つはアメリカを中心とした外資系企業のコールセンターの誘致、もう1つがESL(English as Second Language)としての、非ネイティブへの英語教育だ。

今、フィリピンには500以上の英会話学校があり、留学先としては首都圏の「マニラ」とマニラ近郊の「クラーク」、リゾート島として日本人にもおなじみの「セブ」のほか、学園都市「バコロド」や高原地帯で比較的涼しい「バギオ」が挙げられる。フィリピンの英語留学は、韓国がパイオニアとして開発してきたため、現在も韓国資本の学校が多いが、日系の学校も増えつつある。

盛り上がりをみせるフィリピンの英語留学事情を“オトナ女子”の目線から体験するために、私はフィリピンへ飛んだ。フード&トラベルジャーナリストとして年15~20回ほど海外取材に出掛けるワークスタイルは、「ノマド」と言えば聞こえがよいが、実際はよりどころのないフリーランスの身の上。英語圏以外に出かけることも多く、旅先では非ネイティブの英語スピーカーとコミュニケーションをとることになる。

【写真上】セブ島にある日系の学校「QQ イングリッシュ」の教室フロア。ブース内でプライベートレッスンを受けられる。【写真下】同校では英語でITを学ぶプログラムもある。

英語力をブラッシュアップしたいのはやまやまだが、留学などして仕事にブランクをつくったら、帰国後にはもはや仕事がないに違いない。そんな思い込みもあり、英語留学は非現実的だった。

今回ようやく機会を得て、セブ島にある日系の学校と、ネグロス島バコロド市にある韓国系の学校に、それぞれ4週間ずつ滞在することに決めた。「東京でレストランめぐりを仕事にしているアラフォー女性が、寮暮らしや学校生活に耐えられるのか」「学生は若者ばかりで、浮きまくるのではないか」。一抹の不安を抱えつつ、私は飛行機に乗り込んだ。

フィリピン留学3つのメリット

さて、フィリピン留学にはどんなメリットがあるだろうか。私の考えでは、働きウーマンにとってのメリットは、次の3つに大きく集約できる。

【メリット1】低コスト

食事は1日3回ブッフェスタイルで提供される。フィリピン特産のマンゴーがまるごと1個提供されるのもうれしい。学校内では基本的に飲酒は禁止されている。

まず、物価の違いからくるコストの安さが挙げられる。学校にもよるが、1週間のプランで留学し、月曜日から金曜日まで1日8時間程度の授業を受け、プライバシーを確保できる1人部屋に滞在した場合でも10万円はかからない。この費用の内訳には、1日3食の食事(お酒なし)と寮での宿泊費が含まれる。ちなみに留学期間は、韓国系の学校では1週間程から、日系の学校では最短で1日だけの留学希望者も受け入れていた。

【メリット2】プライベートスタイルの授業

「QQ イングリッシュ」の講師・イシャーニ先生。

授業はプライベートスタイルが中心で、講師とマンツーマンで行われる。そのため授業内容は応用が利き、学びたい内容を自分に合ったレベルで受けられるので、ストレスが少ない。実際に同じ日に入学した生徒でも、ある人はI am ,You areといった中学校レベルのbe動詞を学び、ある人はCNNを題材に世界情勢について討論を、私は仕事につながりのある女の子のトレンドや、世界のフード事情についてリサーチしていた。また、日本人は他の日本人の前で英語を話すのに照れる人もいるが、マンツーマンなら他人の目が気にならず、どんどん発言できる。

【メリット3】近距離ゆえのフレキシブルな時間設計

授業で疲れたアタマはリゾートの風でリフレッシュ。校内のWiFi環境も整いつつある。

フィリピンは日本との時差が1時間しかなく、飛行時間は4時間ちょっとと近い。入学にあたっては、日曜日に寮へ到着、月曜日にレベル分け試験や諸手続きを行い、月曜日の午後または火曜日から授業を受け、金曜日の夜に卒業して土曜日に帰国するパターンが多い。日本で仕事を持つ生徒の多くが、土曜日に帰国して日曜日を休養にあて、月曜日から出社するそうだ。つまり、移動に負荷がかからないため、有給休暇をフルに英語学習に充てることができる。

柔軟性のある受け入れ体制も魅力

【写真上】セブ島には高級リゾートホテルが軒を連ねている。【写真中】フィリピンの名物デザート“ハロハロ”は、滞在中1度は食べたい。【写真下】ローカル御用達の安食堂に講師と出かける著者。

その他「物価が安いのでショッピングが楽しい」とか「スパ&マッサージが格安」「週末にはビーチリゾートをエンジョイできる」といった女子目線のポイントも見逃せないが、主に前ページで述べた3点の理由により、フィリピン留学は門戸が広く開かれている。そのため、留学といっても10代・20代の若者に限定されず、生徒の年齢が幅広いのも特徴だ。私の滞在時には、下はティーンエージャーから上は80歳代まで、さまざまな年齢の日本人が在籍していた。

留学目的もまたいろいろ。キャリアアップのために自己投資している働きウーマンや、学校と会社が契約して派遣されたビジネスパーソンのほか、アメリカ留学を目指す親子、ワーキングホリデーの準備、中には「1度外国に住んでみたかった」というおばあちゃんも。当然、英語力にはバラつきがあるが、講師は日本人の扱いに慣れていて、実に根気強く指導してくれる。そうそう、フィリピン人には親日家が多く、ホスピタリティが高い国民性も隠れたメリットのひとつなのだ。

※次回の「オトナの海外留学 第2回」は1月13日の配信予定です。

江藤詩文/旅する文筆家
年間150日ほど海外に滞在し、その土地に根ざしたフードカルチャーをメインに、独自の視点からやわからな語り口で綴られる紀行文を雑誌やウェブサイトに寄稿。これまで訪ずれた国は50カ国ほど。女性を中心とした地元の人たちとの交流から生まれる“ものがたり”のあるレポートに定評がある。旅と食にまつわる本のコレクターでもある。現在、朝日新聞デジタル&Wで「世界美食紀行」、産経ニュースほかで「江藤詩文の世界鉄道旅」を連載中。著書に電子書籍『ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~』シリーズ全3巻(小学館)。
【世界美食紀行】http://www.asahi.com/and_w/sekaibisyoku_list.html
【江藤詩文の世界鉄道旅】http://www.sankei.com/premium/topics/premium-27164-t1.html