源泉徴収票は1年間の努力を示す証明書

正月休みもあっという間に終わってしまい、再び仕事の始まりです。そんな慌ただしい季節のなかで配られるのが源泉徴収票。皆さんはもう受け取ったでしょうか?

「源泉徴収票ってなに?」――そんなことを言わないで。12月の給与明細を受け取ったとき、手のひらサイズの薄い紙が入っていませんでしたか? あの小さな紙が源泉徴収票です(会社によっては1月に配られることもあります)。源泉徴収票は、私たちが1年間に働いて得た収入と、それに対して支払った所得税を証明する大切な書類です。いくら忙しくても引き出しに放り込んだままにしないで、じっくり眺めて、2015年の努力の成果を噛みしめてほしいと思います。

といっても、源泉徴収票って、意味不明の言葉が並んでいて本当にわかりにくいもの。そこで、ここでは源泉徴収票を見るときのポイントを説明しましょう。

重要な数字は上段の4つだけ

チマチマと小さな文字が書かれている源泉徴収票ですが、大きな意味のある数字は、上段に並んだ4つだけ。それ以下の細かい欄は、いわば明細のようなものと考えましょう。この4つの数字の意味がわかれば、会社員の税金はほぼ理解したも同然! 一つずつ見ていきましょう。

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源泉徴収票はここをチェック

[1]支払金額

毎月の給料とボーナスをすべて合わせて、会社から1年間に受け取った総額です。ただし、税金のかからない交通費は含みません。この数字はわかりやすいですね。

[2]給与所得控除後の金額

源泉徴収票の中で、もっともわかりにくい部分かもしれません……。ここに書かれているのは、左の欄の[1]「支払金額」から“給与所得控除”という一定額を差し引いた金額で、これが所得税の課税対象になる金額です。“給与所得控除”とは、いわば会社員の必要経費のようなもので、その金額は年収(支払金額)に応じて決まります。たとえば上の源泉徴収票では、年収500万円に対して給与所得控除は154万円です。源泉徴収票には“給与所得控除”の額が書かれていないのが難ですが、国税庁のHPを見れば確認できます。

[3]所得控除の額の合計額

所得税を計算するときは、[2]の課税対象額からさらに、その人の状況に応じてさまざまな「所得控除」を引くことができます。たとえば、扶養している配偶者がいれば「配偶者控除」を38万円、地震保険の保険料を払っていれば「地震保険料控除」を最大5万円まで差し引ける、といったぐあいです。また、厚生年金や健康保険の保険料は全額が「社会保険料控除」になるほか、1人一律38万円の「基礎控除」もあります。源泉徴収票の中段以下にはこうした所得控除の内訳が記載されていて、これらは12月ごろに提出した年末調整書類のとおりになっているはずです。そして、これらの所得控除をを合計した額が、[3]「所得控除の額の合計額」です。

[4]源泉徴収税額

2015年に支払った所得税の金額です。この金額は下のように計算します。

[2]「給与所得控除後の金額」-[3]「所得控除の額の合計額」=課税所得額
課税所得額×所得税率=所得税額([4]「源泉徴収税額」)

所得税率は、課税所得額によって決まります。この所得税率や、それぞれの所得控除の金額も源泉徴収票には載っていないので、確認するときは国税庁HPで調べます。

会社員は、毎月の給料から所得税を天引き(源泉徴収)されていますが、毎月の天引き額は概算で、12月になってからその年の正確な所得税額を計算し、年末調整で帳尻を合わせます。年末調整で戻ってくるのは、天引きしすぎた金額、ということですね。そして、源泉徴収票に載っている[4]「源泉徴収税額」は、年末調整が済んだ後の正しい所得税額です。これで、会社員の1年間の所得税は、ひとまず完結です。

「額面年収」と「手取り年収」はどこを見る?

さて、“会社員の年収”というときには「額面年収」と「手取り年収」の2種類があります。これらは、源泉徴収票のどこを見ればわかるでしょうか?

まず、額面年収は、[1]「支払金額」にあたります。ただ、ここには支給された交通費が含まれていないので、交通費を足した額を額面年収ということもあります。

一方、手取り年収は、「年収」から「所得税・住民税」と「社会保険料」を引いたものです。でも、源泉徴収票には住民税が書かれていないので、これだけでは正確な手取り額がわかりません。そこで、手取り額を計算するときは、まず源泉徴収票[1]「支払金額」から[4]「源泉徴収税額」を引き、さらに一つ下の段の[A]「社会保険料等の金額」を引きます。住民税については、給与明細に載っている住民税の源泉徴収額の12倍を年額として、さらに差し引きます。住民税は前年の年収にかかるものなので、正確ではありませんが、これで大体の手取り額がわかります。

●額面年収=[1]「支払金額」
●手取り年収=[1]「支払金額」-[4]「源泉徴収税額」

-[A]「社会保険料等の金額」-住民税額(給与明細から計算)

源泉徴収票を使って確定申告すれば税金が戻る可能性も

源泉徴収票には控除の内訳が記載されていますが、実は、ここに載っている以外にも、控除にはさまざまな種類があります。たとえば、医療費を10万円以上使ったら「医療費控除」、火事や盗難の被害にあったら「雑損控除」が受けられる、といったぐあいです。あてはまる人は、確定申告をすれば所得税が戻ってくるし、今年6月から支払う住民税も安くなるので、面倒がらずにぜひ申告しましょう。詳しいことは、このコーナーでまた紹介する予定です。

確定申告をするときは、源泉徴収票が必須です。源泉徴収票を手元に置いて、確定申告書の該当欄を埋めていけば、思ったよりずっと簡単。なお、確定申告の際は源泉徴収票そのものを提出しなくてはなりません。

今年から源泉徴収票が大きく変わる

長年、親しまれてきた(?)A6版・手のひらサイズの源泉徴収票ですが、2016年分から2倍サイズのA5版に変更されることが決まっています。

それは、マイナンバー制度がスタートしたから。新しい源泉徴収票には、本人と扶養家族、さらに会社のマイナンバーを記載する欄が新設されます。近いうちに、勤務先から「届いたマイナンバーを教えてください」という要請があるでしょう。

もっとも、源泉徴収票の基本部分はこれまで通り、変わりません。新しい制度に戸惑わないためにも、今回で最後の小さな源泉徴収票を取り出してみて、税金のしくみを頭に入れてほしいと思います。

マネージャーナリスト 有山典子(ありやま・みちこ)
証券系シンクタンク勤務後、専業主婦を経て出版社に再就職。ビジネス書籍や経済誌の編集に携わる。マネー誌「マネープラス」「マネージャパン」編集長を経て独立、フリーでビジネス誌や単行本の編集・執筆を行っている。ファイナンシャルプランナーの資格も持つ。