父の書斎にはたくさんの本があったと話すISAK 代表理事の小林りんさんは、悩んだときに本を読む習慣が身に付いたという。挑戦を続ける小林さんを後押ししてくれていたのは、本の中から学んだ「アランの教え」だった。

母の読み聞かせと父の書斎

幼児期に好きだった本は『ぶんぶくちゃがま』。毎晩母が寝る前に1冊絵本を読んでくれて、その中でもこの本は暗記するほど好きだったそうです。仕事で疲れていても、母は自分がウトウトしながら必ず1冊ずつ毎晩読んでくれました。

父の書斎には小説から外交史まで多くの本がありました。私が人間関係や進路で悩むと、ヒントをくれる本がポンっとテーブルに載っているんです。母か父が置いてくれたのでしょうが、いつも本が悩みに答えてくれました。読む習慣が身に付いたのは、こうした両親のおかげで、本がいつも身近な存在だったからでしょう。

小学生から伝記が好きになり、小6の感想文は、『ゴルバチョフ 鉄の歯をもつ男は何をめざすか』を選択。ベルリンの壁崩壊をもたらし、冷戦を終結させたゴルバチョフの行動力に強い感銘をうけたのを覚えています。

『自助論』

その後、中高時代も偉人伝や外交の裏側の話などを好んで読んでいましたが、「どうしたら私も彼らのように世界を変えるために行動できるのだろう」と考えるようになりました。

行動力の後押しをしてくれたのは、大学に入る前に読んだ『自助論』。「不満なことがあったときは、文句を言うんじゃなくて自分で変えていく」という考え方は、いまも私の生き方の指針となっています。

ユニセフの職員としてフィリピンに駐在し、圧倒的な格差と渦巻く汚職を目の当たりにして、貧困層の教育と同じくらいチェンジメーカー育成の必要性を痛感しました。でも具体的に自分に何ができるのかと考えていた頃にいただいたのが、ISAK(International School of Asia, Karuizawa)の話でした。

「何かおかしい」と思ったらすぐ行動

教育業界の経験はなく、引き受けるべきか悩んだとき、「人生は一度しかないから、好きに生きたほうがいい」という父の言葉を思い出しました。5回の転職(うち2回は起業)をした父は、永年勤続が当たり前の当時にしてはリベラルで挑戦者。自分の納得のいくように動く人なのです。

小林りんさん「楽観というのは、自分で意志を持って楽観的に未来を切り開いていく人にのみ許されること。」

私も父に学び、「何かおかしい」「変えたい」と思ったら、すぐに自分でアクションを取るタイプ。ISAK設立準備も手探りで行動あるのみでした。実際には、トライ&エラーの繰り返し。それでも続けていくと、行動することに抵抗が減っていき、世界がどんどん広がっていくのを感じるのです。

アランの『幸福論』は、7年間に及ぶISAKの準備期間の途中で出会い、救われた本。本の中にある「期待とか楽観主義は、平和と正義と同じように人が自分で欲するときに築かれ、意志によってのみ保たれる」という楽観主義の考え方に背中を押されてきました。

このプロジェクトは、本当に予期せぬチャレンジの連続。決まりかけていた土地を諦めることになり計画が白紙に戻ったり、震災で開校が1年延びたり、そんなことが繰り返し起きました。設立のための膨大な寄付金集めに奔走する中でも断られるのは日常茶飯事。周囲は「大丈夫?」と心配そうでしたが、私はいつも楽観的だったんです。

『幸福論』

実は、幼い頃から楽観的。遠足の日に雨が降っても、「遠足に行ってたらけがをしてたかもしれない。雨ありがとう!」って思う子でした。客観的に見たら悪いかもしれないことでも、「それでいいんだ。天がそういうふうに仕向けたんだ。ありがとう」と自然と思うようにしていたんですね。

でも、この本を読んで、それはただの性格なのではなく、意志なんだと確信を持てたのです。悲観にとらわれると、ずっと悲観的な人生になってしまう。でも、楽観っていうのは、自分で意志を持って楽観的に未来を切り開いていく人にのみ許されることなんだ、私はそう解釈しています。そして、これはこれからアジアのリーダーとして育っていくISAKの生徒たちやスタッフ、読者の女性たちにもぜひ伝えたいメッセージです。

信じていれば人は裏切らない

アランの言葉でもう1つ指針にしているのが、「疑ったら人は悪いことをする。信じていればその人は君を裏切らない」というもの。このプロジェクトは限られたリソースの中で始まり、たくさんのボランティアやスタッフの皆に支えてもらってきました。彼らの無限大の可能性を信じて仕事を託し、それぞれが実力を最大限に発揮して思ってもみなかったような大活躍をする様を見るにつけ、この言葉を思い出します。

想像できないほどのスピードで職業も会社も変わり、新しいものが生まれていくこれからの時代、仕事に就くのではなく、仕事を自分でつくっていく力が必要です。『自助論』と『幸福論』は、そんな時代にも軸となる精神を教えてくれる本だと思います。

●好きな書店
代官山 蔦屋書店

●好きな読書の場所
新幹線の中

●好きな作家
特になし

小林りん(こばやし・りん)
1974年東京都生まれ。カナダの全寮制インターナショナルスクールに留学。帰国後は東京大学経済学部で開発経済を学ぶ。ベンチャー企業経営などを経て2003年、国際協力銀行へ。05年スタンフォード大学教育学部修士課程修了。国連児童基金(UNICEF)勤務の後、09年4月からISAK 代表理事。