2人で幸せに暮らした年月のぶん、財産も形成されている。愛破れ、離婚に至ったとき、築いた財産はどうなる? いざそのときに備え、知っておきたい「離婚のお金」を大検証!
「いくらもらえる?」期待とはほど遠い現実
“もう、この人とは一緒に暮らしていけない!”とブチ切れた瞬間、「離婚」の二文字が頭をよぎる。些細な言い合いからすれ違い、愛していたときには気にならなかったクセが鼻につきはじめ……極めつきは、夫の心ない言動や浮気。ついに耐えかねたとき、まず気になるのが「お金」。マネーセラピストの安田まゆみさんのもとにも、離婚後のお金の相談が数多く寄せられるという。
「心の中では離婚したいと思っていても、『私は一人で暮らしていけるかしら』と不安を感じていたり、突然、夫から離婚したいと言われてカッとなって相談に来る人もいます。そこで『相手からいくら取れますか?』と、若干期待を込めて聞かれることが多いのですが、現実は厳しいことを最初にお話ししますね」
離婚にまつわるお金で最も関心が高いのは「財産分与」。自宅の名義が夫だけになっている場合や、夫と妻の持ち分が均等でないケースもある。また、専業主婦の場合は銀行口座の名義が夫になっていることが多く、共働きの夫婦はそれぞれ自分名義の口座を持っていても、貯蓄額に差がある。夫に内緒の口座に、ひそかに「へそくり」を貯めこんでいる人もいるだろう。
「もちろん、お互いが納得したうえの協議離婚なら、どんな分け方をしても、それは2人の自由なのです。ただ、調停など裁判所の力を借りることになったら、基本的には『結婚後につくり上げた財産は、名義にかかわらず、すべて折半』の方向で話が進みます。民法上では、結婚してから別れるまでに2人で築き上げた財産が対象となるわけです」
へそくりも借金もすべて共有財産
夫婦の共同名義で購入した不動産、家財道具のほか、いずれかの名義になっている預貯金や車、有価証券、保険解約返戻金、退職金など、婚姻中に夫婦が協力して取得したものは「共有財産」として、原則的に2等分される。
ただし折半しなくていいのは、「結婚前から持っていた財産」と「相続などで個人が受け取った財産」。たとえば独身時代に貯めた預貯金や、婚姻中に親から相続した不動産や現金などだ。それ以外は、夫名義の財産であっても、法律上は「妻の内助の功もあって蓄えられたもの」という考え方に基づくため、財産分与は折半となる。これは妻名義の財産も同じで、結婚後にこっそりと貯めたへそくりはもちろん、夫に内緒で購入した高額な宝石類も財産分与の対象になりえるので要注意。
一方、「マイナスの財産」も基本的には分割されることを忘れてはいけない。車のローンなど、結婚生活を営むなかで生じた債務もあれば、住宅ローンの返済が残っている場合では多大な出費を伴うことにもなりかねない。
「住宅は2人の共有財産なので、売却し現金化してから折半するケースが多いです。離婚後にどちらか一方の財産とする場合は、住宅の価値を試算して、現金等で精算するなどの対応が必要になります。売却しても住宅ローンが残る場合は、その借金を折半することになりますね。ただし、個人的な借金は対象外です」
離婚に至るまでにローンを完済しておくに越したことはないが、そううまくはいかないのが現実だ。
夫の「年金」は期待ほどもらえない
さらに離婚後の生活で気がかりなのは、将来の年金はどうなるかということ。2007年から始まった「合意分割制度」によって、夫婦の合意のもとで「年金分割」が可能になった。これは結婚していた期間の年金保険料は夫婦が共同で支払ったものとして受け取る権利を分割するという考え方に基づき、共働きの場合はお互いの厚生年金の報酬比例部分を合計して、その分け方を決める。妻のほうが収入が多ければ、妻から夫へ年金を分割することもありえるのだ。
また08年からスタートしたのが「3号分割制度」。会社員や公務員家庭の専業主婦を対象に、婚姻期間中の夫の厚生年金については、夫婦間の合意なしでも離婚後2年以内に請求すれば2分の1ずつ分割できるようになった。その金額などは年金機構に問い合わせると離婚前でも教えてもらえるというから、離婚を現実的に考えている人は一度尋ねてみるといいだろう。ただし、年金をあてに熟年離婚を考えるほど、年金分割でもらえる額に期待を寄せるのは間違い。いざ算出された額を見て愕がく然ぜんとする妻も多いとキモに銘じたい。
不貞・DV離婚なら慰謝料を請求
実際に安田さんが受ける相談では、どのような離婚理由が多いのだろうか。
「性格の不一致やセックスレスなど夫婦関係の問題はさまざまありますが、子どもがいても離婚を考えるケースは圧倒的に不倫が多いですね。夫の暴力や家庭内でのドメスティックバイオレンス(DV)も深刻ですが、夫からのモラルハラスメントで精神的苦痛を抱える妻たちも増えています」
離婚にまつわるお金では「慰謝料」を請求できるケースがある。財産分与とは別に、離婚の原因をつくった「有責配偶者」に対し請求することができ、浮気や不倫といった不貞行為、モラハラやDVなども慰謝料の理由になる。また、離婚原因が不貞の場合、浮気相手にも慰謝料を請求できるが、相手と直接やり取りしたり弁護士を立てるなど、精神的にも金銭的にも負担がかかる。訴訟を起こすと、さらに費用がかかると心得ておきたい。
夫婦間に子どもがいる場合は「養育費」も発生する。一般に親権を取って扶養する側に、もう一方が支払うケースが多い。金額は裁判所が作成した「養育費算定表」を参考に算出され、子どもが成人するまでと決めることが多いがケースバイケース。調停では親の経済状況が加味されることも多い。
「とはいえ母子家庭の調査では、たいてい4年ほどで夫からの支払いが滞っているのが現状です。夫婦で話し合って協議離婚する場合、口約束ではなく書面に証拠を残すことが必要です。継続的に養育費を受け取るためにも、公正証書の作成をオススメしますね」
財産分与を請求できるのは離婚したときから2年以内とされるが、離婚後は精神的ダメージも重なり、互いに連絡も取りにくくなる。離婚する時点で、養育費も含めて、預貯金や住宅など財産の分け方などの取り決めを公的文書にしておくことが大事と、安田さんはアドバイスする。
マネーセラピスト。「元気が出るお金の相談所」代表。東京生まれ。著書に『月5万円ムリなく貯まるシンプルな生き方』(中経の文庫)など。今買いたいものは、「ONE OK ROCK」のライブDVD。