プレゼンテーション用の資料作成で最もやってはいけないのが、いきなりパワーポイントに向かってスライドを作り始めることです。前回(気持ちに「化学変化」を起こすプレゼン・テクニック http://woman.president.jp/articles/-/754)で紹介したシナリオで狙った変化を確実に起こすには、その場の思いつきでの資料作成や、もともとある資料の切り貼りだけでは難しいからです。シナリオを形にするテクニックをご紹介します。

シナリオを形に~「ストーリーボード」を作成する

ストーリーボード

シナリオとは、「A地点からB地点へ聞き手を変化させる流れ」と前回でご紹介しましたね。そのシナリオを形にして実際に作成するスライド資料の下書きにしたものが「ストーリーボード」です。図のように全体の大きな流れを「章」にし、章の下にスライドを配置していきます。目安として、各章で一つは「変化」を起こすことを意識し、背景や前提となる理解のために必要な情報を盛り込んだスライドでつないでいきます。

ここで、ついついたくさんの情報を盛り込みたくなったら、ぐっとこらえてください。「その情報はこの変化を起こすために必要なのか?」という基準でふるい分けします。「これも知っておいてもらいたいな」「こんなにやったんだからこれも入れたい」「とりあえず入れておこう」的な情報はここでは涙をこらえて削るのが“パワポ死防止”の秘訣です。

ストーリーボードはタイトルだけでもよいですが、図のようにスライドのイメージまで考えておくと、実際に作成するときに手がとまってしまうことを防げます。また、何人かで分担して作成する場合などもイメージがあったほうが認識違いが少なくて効率的でしょう。

相手の変化は「山場」で起こす、を意識する

シナリオでは「変化」を意識してデザインしましたが、ストーリーボードではその変化をどこで起こすかを「山場」として決めます。例えば、「これだけ大きな削減メリットがあるとは驚きである」という気持ちの変化を相手に起こしたい場合、山場は「費用対効果」というスライドになります。ここで確実に相手が驚くレベルの削減メリットを表現するのです。

多くの方はこの「山場」を決めずにプレゼンテーション資料を作られているのではないでしょうか? 山場を決めずに資料作成を始めると、変化を与える情報が分散しがちです。映画を思い浮かべてもらうと分かりやすいでしょう。心を動かされる名画には必ず印象的なシーンがあります。プレゼンテーションスライドも同様に、相手の気持ちに変化を起こしたい時にはインパクトのある山場が必要なのです。

この山場スライドは、印象的なグラフや図解など、他のスライドよりもしっかりと作成しましょう。逆に言えば、他のスライドはそれほど凝った作りにする必要がありません。完璧主義な女性の方は全てのスライドを凝ったものにしがちですが、それは過剰品質とも言えます。

山場を設定しておくメリットとしては、プレゼンの時間が短くなってしまった時に必要な情報をしっかりと伝えることができることです。例えば、相手の方が遅刻してきて、1時間で準備していたプレゼンを「30分でやって」と言われた時に、山場が決まっていないと全体を駆け足で早口で説明、相手は消化不良……という状態になりがちです。山場が決まっていれば慌てることなく、「特にここはご理解いただきたいところです」「ここはお時間ある時に見てください」とメリハリの効いた説明ができます。

また、余談ですが、よく「A4一枚にまとめろと言われたのですが、どうしたらよいのでしょう?」という質問を受けます。これは「エグゼクティブサマリー」と呼ばれるもので、多忙なエグゼクティブが膨大な資料に目を通さずに理解するための資料です。たまにものすごく小さく縮小して本編の情報をできる限り盛り込んでしまっている資料も見かけますが、それでは逆効果です。

エグゼクティブサマリーは「映画の予告編」だと思ってください。映画の予告編は、印象的なシーンが続きつつも、大筋のストーリーが想像でき、本編を見たいという欲求をかきたてますね。つまり山場スライドをストーリーが分かるように配置していくと魅力的なエグゼクティブサマリーになります。

鉄則は「ツカミ」と「オチ」

最後に、プレゼン用資料作りの鉄則「ツカミ」と「オチ」をご紹介します。

まず「ツカミ」としては、自分の世界に引き込んで、相手の気持ちをぐっとつかむための冒頭の1枚をしっかりと作り込みましょう。冒頭の1枚は「タイトルページ」か、本編の「1枚目」だと思ってください。

まずタイトルですが、相手が話を聞きたいと思うようなものにします。よくある「~について」というタイトルはいただけません。見た瞬間に退屈を予感させます。話を聞きたくさせるには「問い」の形にしてみましょう。問いとは「~とは?」という形だと思ってください。

例として新人研修計画についてプレゼンする場合のタイトルを考えてみましょう。「新人研修について」では興味を引かれることはなさそうですが、「3カ月で新人を自立させる新人研修プログラム(とは?)」というタイトルだと効果も見えますし、その問いの答えを知りたいという欲求を抱かせます。「とは?」をつけると大げさになる場合もあるので、省いても構いませんが「とは?」とつけてもおかしくなければ問いかけになっています。

この問いかけ形式のタイトルは単に「釣り」のような効果を狙うわけではなく、その問いの答えが資料内にきちんと盛り込まれているかどうかのチェックにもなります。相手が興味を持つような、本質的な問いを考えてみましょう。

二つ目の鉄則「オチ」は最後に「アクションページ」をつけることを忘れないようにしてください。アクションページとは、文字通り相手のアクションにつながる情報が書かれているページです。例えば、スケジュールや問合せ先、具体的な手順などです。折角あなたのプレゼンテーションでやる気になった人が、「で、どうするんだっけ?」とならないために、相手にとってもらいたい行動は最後のページにまとめておきましょう。このアクションについては、プレゼンテーションの最後でも「X月X日までにXXしていだくとご理解いただけましたか?」など確実に念押しして「腹落ち」しているかを確認しましょう。

折角素晴らしいシナリオが描けても、資料が膨大な単なる読み物では、やはり「パワポ死」が起きてしまいます。映画を作るような気持ちも込めて、相手の変化を印象的な山場で起こす。このポイントを是非実践してくださいね。

清水久三子

お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティング
を設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。