強みは「着る側目線」スマホが変えるおしゃれ消費

ファッション業界の常識を、スマートフォンが書き換えつつある。たとえば、「服は買うもの」「好きな服を買う」「着こなしは自分で考える」など、これまで当たり前だった約束事がスマホを入り口にした新サービスでがらがらと壊れ始めた。おしゃれとの新たな向き合い方を提案する冒険者たちのビジネスモデルは、目線が着る側と同じところに共通の強みがあるようだ。

シーズンごとにトレンドを打ち出し、消費者の購買欲を誘ってきたファッション業界だが、勃興するレンタルサービスは、「買わない」という否定形から入る「断捨離」志向で、着る側の目を見開かせた。「air Closet」は返却期限なしという、貸衣装のセオリーを覆すサービス。スタイリストが選んだ服3着が届き、着終わったら返却する。交換は何度でもできて税別6800円の月額料金制だ。

返却の際、感想を伝えれば、顧客の趣味をスタイリストが覚えてくれるので、回数を重ねるにつれて自分好みのセレクトに近づく仕組みだ。ここではもはや服を自分が主体的に選ぶのではなく、見立ててもらう格好。同じような服ばかり買ってしまいがちな人に「自分らしさ」をプロに見つけてもらうチャンスともなる。

バッグに特化した「ラクサス」ではシャネルやエルメスなどのブランドバッグを1000個も用意。月額6800円(税別)で個数制限・返却期限なしで好きなバッグを借りられる。ハイブランドのバッグは価格が高いので、取っ換え引っ換えできる点はそそられる。

スマホのアプリで着こなし体験を共有する、ルームシェアならぬ「おしゃれシェア」も広がってきた。通販サイト「ゾゾタウン」で知られるスタートトゥデイのアプリ「WEAR」はユーザーの自撮りコーディネートの投稿が200万件を突破。アプリ上では各着用アイテムが細かく紹介されていて、気に入ればそのまま購入もできる。アイテムを指定して参考コーデ例を探したりと、使い道は幅広い。

スマホのファッションサービスが続々!

登録者が250万人を超えた、GMOグループの「コーデスナップ」も勢いがある。モード誌や広告写真に比べ、体形や好みが自分に近いユーザー同士はコーデのリアルなお手本にしやすい。手持ちアイテムをベースに、何を足せば着回しが利くかをシミュレーションできる点でも着こなし体験シェアの価値は大きい。

スタイリスト気分で仮想コーデを組み上げられる「iQON」は着こなしのイメージをつかむうえで役立つ。リアル店舗での買い物では手持ちワードローブとの相性を思い浮かべるしかないが、ここでは何通りもの組み合わせを手軽に試せる。

他人とカブりたくない向きには欧米系サイトが役に立つ。ハイブランドに強い「YOOX」「ネッタポルテ」や、セレクトショップを束ねた「ファーフェッチ」、スタイリング提案が巧みな「STYLE BOP」などは日本にも発送してくれる。日本発の「waja」「BUYMA」は海外の現地バイヤーからレア物を日本語で購入できる。

インテリアや雑貨を含めたファッションEC市場の規模はすでに1兆円を超えたとされるが、今や最も身近な存在となったスマホが接点となるだけに、伸びしろはまだまだ大きいと言えそうだ。

宮田理江

ファッションジャーナリスト。海外・国内コレクションのリポートや次シーズンのトレンド予測、着こなしのアドバイスなどを多くのメディアで発信。