来年4月の入園申込みが真っ盛りの今、認可の申込書に書く希望順位や認可と認可外の選択に迷っている人もいるかもしれません。
保育園選びでは、以前に本連載で書いたポイントを参考に、ママ&パパが納得できる園を選ぶことが重要ですが、今回は、特にうわさや園のPRにまどわされやすい点について、詳しく解説します。
玄関で子どもと荷物を受け渡しする園は便利?
朝夕の忙しい時間、保育園への送り迎えにあまり時間を使いたくないというママ・パパは多いでしょう。そのため、朝も夕方も、子どもと荷物を玄関で受け渡ししてくれる園が便利だという話を聞くことがあります。
多くの保育園では、朝は親が保育室に入り個人の引き出しやロッカーに子どもの着替えやオムツなどを補充するというお約束になっています。帰りも、保育室に入って親が帰り支度をする園、合同保育の部屋に荷物をまとめておいてくれる園などさまざまですが、園舎の中には入るのが普通です。金曜日にお昼寝の布団のシーツをはがして持って帰り、月曜日には洗濯したシーツを持ってきて布団にかけるという習慣も、特に公立保育園などで多いようです。
そんな手間がなくて玄関で子どもと荷物を受渡しできたら、5分くらいは時間が節約できますね。
でも、それにはメリット・デメリットがあります。実は、送迎で園の中に入る時間が親にもたらしてくれるものは大きいからです。子どもが一日生活する保育室は、重要な情報源です。置いてあるおもちゃや絵本、少し大きくなると、描いた絵や工作物、拾ってきた木の実、つくりかけのブロックなどがあって、日中の子どもの生活が想像できます。保育室の中で見たものが、子どもとの会話の話題になります。お友だちのママ・パパと会うこともできます。日々、保育室に出入りしていることで、親が得ている安心感は、実は大きいのではないかと思っています。
保育室でのしたくは、子どもが成長すると、どんどん軽減されます。そのうち、子ども自身がやるようにもなり、その成長を感じるのもうれしいものです。
毎日お散歩に連れて行くのがよい保育園?
乳幼児期の子どもにとって戸外活動は、心や体がぐんぐん育つための必須の栄養素と言えます。体を思いっきり動かし、五感で自然を感じ、動植物にふれることは、健やかな体、運動神経、豊かな感性、知的な興味・関心の基礎を育みます。
お散歩の必要性は、園庭のある園とない園ではまったく違います。園庭がない園では、お日さまが照っていたら、とにかくお散歩に連れていく必要があります。特に、2歳を過ぎたら、室内だけでは十分な運動ができません。ある研究者によれば、2歳児で電車の1駅分くらいを歩くほどの運動量を必要としているといいます。
園庭がある園の場合は、少し事情が違います。運動量ということだけなら、園庭をフル活用すればなんとかなるので、園外に出かけるお散歩が毎日必要とは言えません。それでも園外にお散歩に行く園が多いのは、園庭にはない「何か」を求めているからです。遊具や広さなどの遊びの環境、自然がお目当てだったりするでしょう。保育のプログラムや子どもの意見で決めている園もあります。
お散歩の回数で比べるのではなく、戸外活動をどのように確保しているのかが大切です。単に体を動かすというだけでなく、遊びの内容が充実しているかどうかも重要。その意味では、園庭があっても、子どもが十分に遊び込んでいるようすがなければ、園庭の価値は低いと言えます。私はたくさんの保育施設を視察する機会がありますが、狭くても使い込まれた砂場や築山などのある園庭を見ると、子どもの遊びが充実していることを感じてほっとします。園庭のない施設なら、一番よく利用している公園がどんなところかによるでしょう。
英語や体操をやる園は「教育的」?
結論から言えば、これらはあまり重要ではないし、やり過ぎていると「楽しくない園」になっている恐れもあります。
先生から何かを教えてもらうのが「教育」だと考えているママ・パパは多いと思います。でも、乳幼児に対して「教える」教育の効果は高くありません。なぜなら、乳幼児期の学びは、母国語の習得をはじめ、何もかもが子ども自身の「見たい」「さわりたい」「知りたい」「伝えたい」「遊びたい」という欲求によって促されるからです。そんな子どもの自発的な欲求に応える遊びの環境や、保育者や子ども同士のかかわりが、就学前教育の最重要部分とされているのです。
幼稚園・保育園の保育内容について調査した研究では、一斉保育(みんなで一斉に同じことに取り組む保育)が中心で体育指導の頻度が多い園と、自由保育(一人ひとりが自分のやりたいことに取り組む保育)が中心で体育指導が皆無か頻度の低い園では、後者のほうが運動能力測定の値が高かったという結果もありました。つまり、大人の指示を待って停滞している時間が長い保育よりも、子ども自身が夢中で遊び体を動かしている保育のほうが、運動能力が育ちやすいというわけです。このことは、ほかの面の育ちにも言えるでしょう。
英語や体操が子どもの楽しめる遊びのひとつとして行われているのであればマイナスではないと思いますが、英語や体操の指導に熱心な園と、自由な遊びが充実している園が天秤にかかっているなら、私は後者のほうをお勧めします。
特に英語は、少しばかりネイティブな英語を聞く時間があっても、異文化体験としてはよいかもしれませんが、将来の英語力にはほぼ関係がありません。特に0・1歳児は「アポー」などと聞かせるよりも、親や保育者が「りんごだね」「真っ赤だね」とたくさん話しかけてあげるほうが、よほど将来の学力のためになります。
ぴっかぴかに整理整頓された保育室
美しいフローリングの床が磨きあげられた衛生的な保育室を見ると、安心感が広がりますね。衛生的であることは絶対に必要ですし、整理整頓は安全確保の基本です。
でも、ときどき、きれいに片付いていて、小さな体育館のように何もない保育室に出会うと、ここで一日過ごす子どもの気持ちはどうなんだろうと思うことがあります。
保育室の環境に求められることは、年齢によっても違います。
0・1歳児なら、まず、保育士のあたたかいケアを受け、安心できることが重要です。安心できる適度な広さに区切られた空間の中で、「探索活動」――興味・関心を旺盛にし、行きたいところに行こうとし、さわりたいものにさわろうとし、気に入ったおもちゃ(それぞれの発達に合ったおもちゃ)で夢中で遊ぶこと(手を使う)――が十分に保障される必要があります。
3歳以上児なら、積み木やブロックはもちろん、ごっこ遊びなどの集団遊びのための空間やおもちゃがいつでも使えるように置かれていたり、絵を描いたり工作をつくったりする表現活動のための素材が用意されていたり、物語絵本なども多様に提供されていることが教育の質として求められます。
施設の広さや園庭の有無によっても室内環境の工夫のしかたは違ってくるとは思いますが、保育室を見るときは、衛生や安全だけでなく、そこでほっと安心できるか、自分なりに楽しく遊べそうか、ママやパパも子どもになったつもりで眺めてみるとよいと思います。
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(実務教育出版)ほか多数。