103万円を超えると税金が引かれて損か

パート勤務の絵理子さん。12月のシフト表を見て、ちょっぴり不安になりました。「こんなに働いたら、103万円を超えちゃうんじゃないかしら……」

絵理子さんが気にしているのは、「年収103万円の壁」。年収が103万円を超えると税金がかかるので、103万円を超えない範囲で働く……、というものです。

そうしている方も少なくないと思いますが、どうして103万円なのか、ご存知ですか?

まずは税金がかかる仕組みについて整理してみましょう。

給与収入そのものに税金がかかるわけではなく、はじめに収入から必要経費を引いた「所得」を計算します。

商売をしているなら、材料費などが必要経費になりますが、お勤めの人は「給与所得控除」を必要経費として差し引くことになっています。給与所得控除は給与収入の額によって決まっており、給与収入が162万5000円までの場合、控除額は65万円です。

さらに、所得税には一律38万円の「基礎控除(非課税枠)」があります。所得から基礎控除を引いたものを「課税所得」といい、ここに税率をかけて税額が決まります。

たとえば給与収入が103万円の場合は……

●給与収入103万円-給与所得控除65万円=所得38万円
●所得38万円-基礎控除38万円=課税所得0

……です。

課税所得がゼロということは……? そうです。所得税はかかりません。

103万円を超えるとどうなる?

では、もしも給与収入が113万円になると……

●給与収入113万円-給与所得控除65万円=所得48万円
●所得48万円-基礎控除38万円=課税所得10万円

……となり、課税所得10万円が所得税の対象になります。

所得税の税率は課税所得の額によって異なり、課税所得が195万円以下なら5%。

したがって……

●10万円×税率5%=5000円

……で、所得税は5000円です。

ここでひとつポイント! 所得税として5000円引かれても、手取りは112万5000円。収入を103万円に抑えた場合より手取りは多いですよね。

絵理子さんは税金がかかるのが心配のようですが、「収入を増やしたい!」という場合は、103万円の壁を意識し過ぎない方がいいかもしれません。

ただし税金には所得税のほかに「住民税」もあります。

住民税の計算方法は所得税と異なるほか、自治体ごとに違いもありますが、給与収入が100万円を超えると5000円程度の住民税がかかるのが一般的です。

自治体によってはもっと低いところもあるようですので、自治体のホームページなどで確認してみるといいでしょう。

妻のパート収入が増えると夫の手取りが減る

もうひとつ知っておきたいのは、夫が負担する税金への影響です。

妻の所得が38万円(パート収入103万円)以下の場合、夫は「配偶者控除」が受けられ、その分、所得税が安くなります。控除額は38万円で、ざっくり言うと、この38万円にかかるはずの税金がかからずに済みます。

ところが、妻の所得が38万円を超えると夫は配偶者控除が受けられなくなり、所得税が高くなって、手取りが減ってしまうのです。これが、世間でよく言う、「扶養を外れる」ということです。

ただし、妻の所得が38万円を超えても、所得が76万円(パート収入141万円)まで、なおかつ、夫の所得が1000万円以下の場合には、「配偶者特別控除」が受けられます。

控除額は妻の所得が多いほど少なくなり、妻の所得が50万以上55万円未満では26万円、70万以上75万円未満では6万円などとなっています。

つまり、妻の収入が多いほど、夫の所得税が多くなり、手取りに影響する、というわけです。

もうひとつ、夫の会社から妻の「扶養手当」が支給されている場合は注意が必要です。

扶養手当の金額や支給の条件は会社によって異なりますが、妻の所得が増えると支給の対象から外れて扶養手当が出なくなる可能性もあります。扶養手当をたっぷり受け取っているという場合は、支給条件などを確認しておいた方がいいでしょう。

130万円を超えると社会保険料がかかる

実は103万円の壁より大事なのは、「年収130万円の壁」です。

年収130万円以下は夫の扶養の扱いであり、健康保険や厚生年金といった社会保険に加入する必要がありませんが、130万円を超えると、妻も自分の健康保険、厚生年金に加入することになり、保険料を支払うことになります。

また130万円以下でも、勤務時間が正社員の4分の3以上なら健康保険、厚生年金に加入する必要があり、保険料の負担が生じます。

その結果、130万円を超えると、手取りが減っていくことになり、給与収入が130万円以下のケースより手取りが少ない、という逆転現象が起きてしまいます。

逆転現象は給与収入が160万円程度まで続き、手取りを増やすには、160万円を超える収入を得る必要があります。

さらに次の4つの要件を満たす人は、2016年10月以降、社会保険に加入することになり、社会保険料を負担する必要が生じます(学生を除く)。

・勤務時間が週20時間以上
・年収106万円以上
・1年以上の勤務期間が見込まれる
・勤務先が従業員数501人以上の会社

「130万円の壁」でなく、「106万円の壁」になるのです。

適用から3年後には要件が見直される予定で、社会保険に入る人の範囲が拡大されると予想されます。

壁を意識すると稼げなくなる?

「税金がかかるのはいや」「社会保険の保険料を払うのは避けたい」という人も多いのですが、そのために収入をコントロールするのが得策かどうかは判断が分かれます。

厚生年金に加入すれば将来、年金の受取額は増え、老後の準備にもなります。

また、前述のように今後はより低い収入でも社会保険料を負担することになりそうですし、配偶者控除を廃止しようという動きもみられます。「税金や社会保険料がかからない範囲で働こう」と考えると、思うように稼げないということになるかもしれません。

子育て中で長時間働くのは難しいという方もいらっしゃると思いますが、「抑えて働く」から「たくさん稼ぐ」に、シフトチェンジを考えてみるのもよさそうです。

フリーライター 高橋晴美(たかはし・はるみ)
1989年よりライターとして活動。資産形成、投資信託、住宅ローン、保険、経済学などが主な執筆テーマ。