こんにちは。中小企業診断士の小紫恵美子です。PRESIDENT WOMAN Onlineの連載「働き続けることを決めたあなたへ【マインド編】」では、働き方について皆さんに伝えたいことを書いてきました。「もし妊娠したとし“たら”、今の会社では仕事を続けられないかも……」といった“たら・れば”な妄想を振り払い、働き続ける覚悟はできましたか? 女性の方がいったん決めたら前に突き進む力が強いことは、私が40数年を生き、そして仕事をしてきた経験に照らし合わせると、間違いありません。
決断したら、次は行動です。日々、職場で降りかかってくる課題を解決しながら、前進するのみ。“会社”という男性社会を進んでいくには、身に付けておいて損はない知恵という名の武器がたくさんあります。新連載「会社で生き残るための会計財務[超]基本講座」では、こうした武器をひとつひとつ、皆さんに伝えしていきたいと思います。第1回は、会社の仕組みの中でも、経営の土台となる「会計」の話から。
なぜ会計を知っておいた方がよいのでしょう? スキルだから必要、ではないのです。結論からお伝えすると、自分の仕事がどんなところで会社の利益につながっているのか、その位置づけを把握し、会社への責任と担当業務への誇りを持って仕事に臨んでほしいからです。このように経営的な視点をもって主体的に仕事を行う人と、担当業務だけを見て言われた通りの仕事を行う人とでは、仕事に対するモチベーションとその成果に大きな差がつくこととなります。
こうした皆さんの日々の業務による「売上」アップや、また「コスト」の削減が、会社の「利益」を生み出しています。その利益を基にして会社が継続するからこそ、毎月のお給料が出ているのです。自分のお給料の出所を知っていますか? 経費はなぜ使っていいのでしょうか? 理由を説明できますか?
事業部やプロジェクトは“小さな会社”
「経営」なんて大きい話は自分には関係ないと思い込んではいませんか? 皆さんが属する事業部やプロジェクトは、“小さな会社”のようなものです。事業部単位、プロジェクト単位で利益を積み上げるからこそ、会社全体で見たときに利益が出る、黒字となるのです。“小さな会社”ですから、そこでは「経営」の観点も、「会計」の知識も必要となります。
「私は事業部長でもプロジェクトリーダーでもないし、会計の知識は必要ないのでは……」と思っている方、その発想はとてももったいないです! 自分の担当業務が、会社全体で「利益を得る」ためどのように役に立っているかを知れば、「今ここで、何のために、目の前の仕事をしているのか」をきちんと理解することにつながり、仕事への誇りが湧いてきます。例えば営業部門なら、もちろん売上を上げることで利益に貢献しています。総務部で業務効率化を進めているのなら、コストを減らすことが利益を増やすことになります。どんな仕事であっても直接的、間接的に、会社の利益に貢献しているのです。
また、あなたが管理職になったときのことを考えてみましょう。「自分の部署が果たす役割について、経営数値を用いて会社に報告、部下に説明する力」は、最低限持っておくべき武器となります。この武器を使いこなすことで、説得力を持って部下のモチベーションを上げ、仕事に向かわせることができます。
会計や利益について正しく理解しておくことは、今の自分の仕事を楽しくするためにも、将来のためにも役に立ちます。では、次から順に見ていきましょう!
もうけることは悪いこと?
前置きが長くなりましたが、改めまして。「数字は苦手」「会計の話はよく分からないので、できれば避けたい」……、そんな声を、私が講師を行う企業研修でよく耳にします。でも、大丈夫。会社の会計は、全然難しくありません。先にも述べましたが、
売上-コスト=利益
会社の会計とは、実にシンプルなこの式で表されます。「こんなの当たり前!」、ですよね。
でも、この当たり前をいかに守っていくか、そのために大企業も中小企業も、すべての会社が日々腐心し、活動しています。企業に勤める皆さんの日々の業務もすべて、この式に集約されていくのです。
まずはこんな話から始めましょう。「もうける」という言葉から、皆さんは何を思い浮かべますか? なんとなく悪いことというイメージを持つ人や、金銭に関することを人前で口に出すのははばかられるという人もいるかもしれません。
しかし、会社の場合には、「もうける=利益を出し続けること」は、その責任を果たすことを意味します。なぜなら、利益を出し続けなければ、会社はどんどん縮小して、継続できなくなってしまうからです。
「継続できない=倒産する」ということは具体的にはどういった事態を引き起こすでしょうか? 倒産した会社に対して、消費者として関係していたならば、製品やサービスを購入したり利用したりできなくなります。その会社で働いていたならば、職を失うこととなり、次の勤め先を探さなくてはなりません。また取引先、金融機関、投資家など、さまざまな関係者が影響を被ります。場合によっては、取引先も倒産してしまうかもしれません。
会社を起こしたからには、企業体として存続させることが責任となります。そして利益とは企業が存続するための必須条件であるのです。
では、「会社が利益をどれくらい出しているか」はどうしたら分かるのでしょうか。
会社の成績表「損益計算書」に計上される5つの利益
皆さんは自分の勤め先の「損益計算書」を見たことがあるでしょうか。会社であれば、公表の有無にかかわらず必ず作っているはずですので、見たことがない人はぜひ確認してみてください。そこには、会社がどのような「コスト」をかけて「売上」を上げ、その結果、どれだけの「利益」を獲得したか、という会社の1年の活動成績が記されています。
会社の経営成績や財政状態を示す財務諸表は大きく分けて3つの決算書、「貸借対照表」「損益計算書」「キャッシュフロー計算書」なら成ります。財務諸表には各企業を示す「個別」と、企業グループ全体を示す「連結」がありますが、ここでは説明を分かりやすくするために「個別」の財務諸表の「損益計算書」を使用します。
「損益計算書のフォーム(報告式)」をご覧ください。
専門用語がずらり、ですね。「利益」と名の付くものが5つもあります。でも、安心してください。ここでは名前は覚えることが目的ではありません。それよりも「会社の利益って、5つあるんだ」と、損益計算書の構造を押さえること。そして、その構造や項目の意味を知ることで、会社がなぜ利益を出す必要があるのかを考えていくことが大切です。
今回は5つの利益のうち、まずは2つの利益に注目して、その意味を押さえます。
【本業のもうけを表す「営業利益」】
会社では社員が活動し、設備や備品、車を使ったり、必要なコストをかけたりした上で、お客様と取引を成立させて売上を獲得しますよね。「損益計算書のフォーム(報告式)」にある「利益」のうち、上から2つ目に出てくる「営業利益」は、この売上高から売上原価を差し引いた「売上総利益」から、さらに「販売費および一般管理費(販管費)」を差し引いて計算されます。今回は細かい項目や計算方法は置いておいて、営業利益が何を意味するかに注目します。
営業利益とは、その会社の主目的たる事業、すなわち本業による利益を指します。ここで利益が出ていない、ということは、本業で利益を出せていないということ。厳しい言い方をすれば、営業利益赤字が出続ける場合には、企業を存続させるかどうかを検討しなくてはならない、そんな項目です。
【最終的なもうけを表す「当期純利益」】
「損益計算書のフォーム(報告式)」の一番下に出てくる「当期純利益」は、「すべての売上」から、「すべての費用」を差し引いて計算される利益で、会社が最終的にどれだけもうけたか、を表します。この「すべての費用」には、会社が稼いだ利益に対してかかる法人税などの税金が含まれています。「当期純利益」とは、税金も除いた純粋な利益ということですね。
新聞などで「ROE」(アールオーイー。自己資本利益率)という言葉を見かけることはありませんか。これは、株主が会社に拠出した金額(=自己資本または株主資本、といいます)に対して、どれだけ会社がもうけたか、という指標です。「どれだけもうけたか」に当たるのが当期純利益です。ROEの数値が大きければ、株主が喜び、それにより株価が、また会社の価値が上がるのです。
会社はもうけることで初めて責任を果たす
事業に投じたお金が商品やサービスに変わり、それがお客様の購買によって売上となり、さらにかかったコストを差し引いたときに利益が出る。その状態で初めて、新たに事業に投じられるお金が手元に残るのです。
損益計算書で導き出された利益は、次の年度に、会社が事業へ投資するための原資の一部になります。つまり、利益が出れば、次の年度に前期以上の事業投資を行える可能性が高まります。しかし、利益を出せず損失が続く場合は、すぐに会社が倒産するようなことはありませんが、次の年度に事業投資できる原資が減っていきますから、事業を縮小せざるを得なくなります。
よりよいサービス、商品をお客様に提供し続けることで、会社の利益を上げること。そして事業を、会社をよりよい形で継続させること。これこそ会社が果たすべき責任であり、経営者に求められる姿勢です。もちろん、お客様だけではなく、取引先や株主など、関係するすべての人に対する責任でもあります。
お客様をだましたり、嘘をついたりして莫大な利益を得ようとするのは論外ですが、きちんと利益を得てサービス向上に努めることはむしろ重要なことであることがお分かりいただけたかと思います。では次回は、「キャッシュ」についてお話しましょう。
株式会社チャレンジ&グロー代表取締役、経営コンサルタント事務所Office COM代表。2児の母。東京大学経済学部卒業後、大手通信会社にて主に法人営業に従事。1998年中小企業診断士取得後、のちに退職。10年間の“ブランク”を経て、独立開業。現在は企業研修講師や中小企業への経営支援、執筆活動を行う。企業研修では会計、ロジカルシンキング等ビジネススキルを伝えるとともに、女性経営者を中心に数値とロジックに基づいた経営の重要性を伝える自主セミナーを展開。
最近は、これまでの実績と、自身の大企業勤務→専業主婦→子育てしながら独立開業、という経験を踏まえ、女性の働き方についての執筆や講演に力を入れている。「活き活きと働くオトナが増える社会」を目指して日々活動中。