押しつけがましく自己満足で終わらないためのプレゼンには、相手の気持ちを変化させる、ポイントをついたシナリオ作りが肝心だった!? 外資系コンサルはプレゼンに臨む際、その全体演出の根幹を成すシナリオから練っていました。清水さん、その心とはなんでしょう? 

聞き手ありきのコンテンツを作るには?

本連載の冒頭でもお話ししましたが、プレゼンでよくやりがちな失敗に、資料作成に99%の労力を注いでしまい、聞き手置き去りのプレゼンになってしまうというパターンがあります(参考:プレゼンの盲点! 「3つの失敗パターン」にハマっていませんか? http://woman.president.jp/articles/-/551)。そうならないためには、聞き手ありきでコンテンツを作っていく必要があります。コンテンツは、次の3つの要素で構成されます。

コンテンツの3つの要素
(1)シナリオ
(2)資料
(3)Q&A(質疑応答)

この3要素のうち、最も重要なのがシナリオです。しかし多くの人はシナリオなきまま、資料作成に突入して本番で撃沈してしまう、こういう失敗をよく見かけます。シナリオというと聞きなれない言葉ですが、やるべきことはとてもシンプルです。シナリオをどう組み立てるのか、具体的に見ていきましょう。

シナリオとは「A地点」から「B地点」へ、気持ちの変化をデザインすること

シナリオとは? A地点から段階的に気持ちの変化を促して、B地点に着地させる。シナリオ作りには、相手のニーズをくみ取っていることが不可欠だ。

シナリオとは、「A地点からB地点へ聞き手を変化させる流れ」のことです。A地点というのは、プレゼンテーションを聞く前の状態。B地点というのは、プレゼンテーションを聞いた後の状態を指しています。プレゼンを聞く前から聞き終わるまでに、聞き手がどのように気持ちが動いていくかを考え、その変化を起こすメッセージや情報を組み立てていきます。

例えば、最初の無関心である状態がA地点だとしたら、一つ目の「○○を知っていますか?」というメッセージを投げかけることによって、「あ、これはちょっと面白そうかも」というように変化を起こしていきます。同様に、さらにメッセージをつなげて「すごそうだな、でもちょっと難しいんじゃないかな」……さらにメッセージを加えて、「それならできそうだ!」と変化を起こしていきます。最終的には「やってみよう」というB地点までいけば、シナリオは完成です。

カメラを勧めるシナリオを考えてみよう

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カメラを勧める場合の二つのシナリオ

例をあげてみます。一眼レフカメラを誰かに勧める場合のシナリオを考えてみてください。相手がカメラ好きな人の場合とカメラに詳しくない初心者ではシナリオが変わってきます。図は両者のA地点とB地点、そしてその間に起こる気持ちの変化を表しています。

このように同じものを勧めるプレゼンテーションでも相手に起こす変化は違います。A地点とB地点が異なるからです。特に重要なのはA地点です。A地点が外れている場合、つまり相手が今どんな心境にいるかを見誤っている場合、ほとんどのメッセージや情報が変化を起こせず、空振りに終わることもあり得ます。

多くのプレゼンテーションが、「この商品はすごいです。あんなことも、こんなこともできます」、もしくは「あれも重要です。これも重要です」と情報過多に陥っている原因は、ひと言で言えばシナリオがないからです。シナリオが描けていれば、相手の気持ちに変化を与えるために必要な情報やメッセージに絞られていきます。

プレゼンテーションは「メッセージありき」ではない

この“変化のシナリオ”を考えるにあたり、注意したほうがよいことは2つあります。一つ目は、「メッセージありきで考え始めないこと」。あくまでも相手の気持ちに変化を起こすことを先に考えます。メッセージとは「△△だから○○すべきです」という「主張と根拠」が揃ったもので、プレゼンテーションの根幹を成す伝えるべきことです。しかしながら、このメッセージから考え始めてしまうと、自分本位のシナリオになってしまい、相手の変化が起こせないのです。

例えば相手のA地点が「全く興味なし」の場合と、「興味あり」の場合と、「そういうのは嫌い」という場合では、メッセージが同じだとしても変化の起こし方が違います。メッセージを考えることはとても重要なのですが、それを伝える時には相手の変化に意識を向けましょう。

二つ目は、「相手の熱意をあてにしない」ということ。プレゼンテーションなど話を聞いている時に集中力が持つのは5分程度と言われています。つまり、3~5分に1回変化を起こさないと集中力が途切れ、「パワポ死」の状態に陥ってしまうのです。相手が熱意を持って辛抱強く話を聞いてくれると思っていると、肝心のところで集中力が切れてしまっているかもしれません。

私がコンサルタントの駆け出しだった頃によく言われたのは「経営層の集中力はとても短い。テンポよくプレゼンしろ」ということ。多忙を極める経営層はそれだけ考えることも多く、もたもたしていては他のことを考え始めてしまう訳です。つまり、3~5分おきに相手の気持ちに変化を起こさないと、最後まで聞いてもらうことができないのです。

鉄則は「ツカミ」と「オチ」

では、シナリオ作りの鉄則「ツカミ」と「オチ」を紹介します。まずツカミとしては、冒頭のA地点で自分の世界に引き込んで相手の気持ちをぐっとつかみましょう。変化を起こすには出だしが肝心です。出だしが上手くいくと、その後の変化も格段に起きやすくなりますが、出だしでつかめないとその後狙っていた変化も起きなくなってくる訳です。

「あなたの困っていることや考えていることは分かります」という共感でいくのか、逆に「あなたはこんな事実を知っていますか?」という衝撃的なニュースのどちらでつかむのかを相手のA地点によって決めましょう。

二つ目の鉄則「オチ」は最後にまとめて落とすのではなく、一つひとつの変化が起きているか、相手が納得=「腹オチ」しているかを考えてください。相手の興味は5分も持たないのです。最後に大きなオチを持ってきても、その前に離脱されていては元も子もありません。

シナリオからプレゼンテーションを考える方法を一度身につけると、資料作成や文章の作り方も変わってきます。A地点からB地点の変化を考えるのはとても楽しいこと。あなたのメッセージが確実に変化を起こせることをお約束します。

清水久三子

お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティング
を設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。