離別や死別による「ひとり親世帯」は、今や146万世帯。その貧困率は54.6%と、OECD(経済協力開発機構)調査でも世界最悪国のひとつです。経済大国である日本になぜ貧困があるのでしょう? 第2子「児童扶養手当」が月額5000円という現実、その増額を巡る署名活動と政府の動きをレポートします。
2010年の法改正で、母子家庭だけではなく、父子家庭も受給の対象となった「児童扶養手当」。支払い対象の所得制限があるものの、現在、児童扶養手当は1人目に月額最高4万2000円、2人目に5000円、3人目以降は3000円ずつ支払われている。
1人目の支給金額はたびたび見直されてきたが、2人目の金額は35年、3人目以降の金額は21年据え置かれてきた。食事や学用品、衣類など、子供の生活に掛かる費用を5000円や3000円で賄えないのはもちろんだが、育ち盛りの子供を抱える児童扶養手当受給世帯が、食べるにことかく生活であることは想像に難くない。みなさんはこの受給額が、こんなにも低い現実をご存じだろうか?
この秋、ひとり親家庭に支給される児童扶養手当のうち2人目以降の受給額の引き上げを求め、子育て支援団体やジャーナリスト、有志の呼びかけで、政府に提出する署名を集める活動がネット上で始まっている。(「ひとり親を救え!プロジェクト」Change.orgホームページ http://save-singleparent.jp/)
署名活動では、2人目以降の支給額を1万円に引き上げることを目的に、賛同者を募っている。署名は既に多くの賛同を得て3万を超えているが、11月末まで署名活動は継続される予定だ。
本記事では、プロジェクト発足と署名活動キャンペーンのため、10月に厚生労働省で行われた共同記者会見の様子と共に、ひとり親世帯の現状をレポートする。
支給額引き上げを求める理由を、有志の一人、作家の乙武洋匡さんは「3年間の教職経験から、子供たちが経済的困窮からスポーツや勉強にチャレンジできない現状を実感していました。どんな境遇にあっても、子供たちにチャンスが与えられる社会を」と述べた。
また、都内で学習支援活動を行うNPO法人「キッズドア」理事長の渡辺由美子さんは、“支援”でなく“手当”を増額する必要性として「子供の人数が増えると家事・育児に割く時間が増え、結果、就労時間と就労所得が圧迫されます。我々が無料学習会を通して支援をし、学力が伸びた子供たちが、学資に回すお金のないことで結局進学をあきらめなければならない。これでは貧困の連鎖は断ち切れない」と語り、時間的な貧困に加え、経済的貧困に陥るひとり親世帯の窮状を訴えた。
さらに少子化ジャーナリストの白河桃子さんは「フランスでは、複数の子供がいても政府から支給される手当だけで暮らしていける。結婚、出産を控える女性たちにとっても、安心できる社会の仕組みが必要」と、出生率を増加させているフランスの取材例を紹介した。
活動の背景にある、ひとり親世帯の現状をみてみよう。ひとり親の世帯数は、母子家庭123.8万、父子家庭が22.3万と推定され、それぞれの平均年間就労収入は、母子家庭が181万円、父子家庭が360万円となっている。子供のいる世帯の平均年収658万円と比較すると、母子家庭の就労収入がその約3分の1と、極めて低い(平成23年度全国母子世帯等調査)。
ひとり親家庭の子供の貧困率は54.6%と、先進国で群を抜いて高く、生活意識状況をみても、「生活が苦しい」と答えた児童のいる世帯65.9%に比べ、母子世帯では84.8%と20ポイントも高い結果となっている(平成25年 国民生活基礎調査の概況)。
経済先進国の日本で、なぜこのような貧困があるのだろうか。
母子、父子家庭の就労率はそれぞれ80.6%と91.3%。OECDの「海外のひとり親家庭の就業率」平均の70.6%よりも高く、世界でもトップクラスの就労率だ。非就業が貧困の原因でないとすると、何によるものだろう。就労形態をみるとその理由の一端が分かる。
働いている母子家庭の就労形態は、正規雇用39%に対し、パート・アルバイト等の非正規雇用が47%。平均年間就労収入は正規雇用が270万円、非正規雇用は125万円だ。子供が増えるほど子育てにかかる時間が増え、時間的貧困と経済的貧困とが比例するという統計もある。子育てにかかる時間を捻出するのに、時間的制約の多い正規雇用より、非正規労働を選択せざるを得ない母親が多いのだ。
会見に同席した子供4人を育てている母親は言う。「子供の一人が発達障害で、働きたいがそうできない事情がある。せめて子供たちにお腹いっぱいご飯を食べさせたい」
このほか、認定NPO法人「フローレンス」代表理事の駒崎弘樹さん、特定非営利活動法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」理事長の赤石千衣子さん、NPO法人「タイガーマスク基金」代表理事の安藤哲也さんが登壇し、署名への賛同を呼びかけた。
政府も同様に動きを見せている。11月10日の衆院予算委員会で、塩崎恭久厚生労働相は、年末までに児童扶養手当の第2子以降の加算額拡充を含め検討したいと述べ、長年据え置かれてきた現行の支給額に着手する可能性を示した。
貧困のスパイラルを断ち切るためには、子供が生活を脅かされることなく、学ぶチャンスを失わない、教育からのアプローチが不可欠だ。その子供たちを育てる困窮する子育て世帯を救うことができれば、社会に将来還元されるものは少なくないだろう。一億総活躍を標榜する安倍政権が何に予算を投下するのか、行方を見ていきたい。
http://save-singleparent.jp/