『トップセールスには、なぜ「いいお客さま」が集まってくるのか?』の著者であり、営業を知り尽くした横田雅俊さんに、トップセールスの資質を学びます。

1.聞くことに時間をかけて、全体像を把握する

営業のファーストステップにして最大のポイントは、相手を知ること。トップセールスは「聞く」ことに多くの時間をかけます。何を大事にしているのか、どんな問題を抱えているのか、その課題は相手にとってどのくらい重要なのか、いつまでに解決したいのか。相手を知れば知るほど的確な提案ができるのは明らかです。じっくり時間をかけてヒアリングをするほうが、ダイレクトに商品を売り込むよりも効率がよいのです。

相手の話に耳を傾け、さまざまな角度から問いを投げかけることで、顧客の全体像をつかんでいきます。たとえば、顧客から「これ、いいね」というひと言が出たとき、「これはですね!」と勢い込んで説明を始めると、顧客の全体像は把握できません。トップセールスなら、そこで「なぜそう思われますか?」と聞くでしょう。提案のゴールは、「売る」ことだけではないからです。顧客はこの提案にどんな価値を見いだしてくれたのか、どうしたらもっと満足してもらえるか。買った後の姿を考えるので、「なぜ?」という問いが生まれます。そうした問いかけの積み重ねで得た深い情報が、リピート客や紹介客へとつながり、“売れる営業”へと押し上げていくのです。

●沈黙に耐える力も持っている!

沈黙は悪である、と考えている人が多いようです。相手が黙ると、「何か話さなければ」とあわててしまう。しかし、しゃべりすぎる人は機を逃します。会話の中で人が沈黙するのは、真剣に考えているからです。むしろ、考えさせることを言えた、というのは大きな成果と捉えることができます。次に発せられる言葉には、相手の本心が表れるのです。トップセールスは沈黙に耐える力を持っているので、会話で得られる情報量が格段に多くなります。

黙っていると「つまらない人」と思われそう……。そんな不安もあるかもしれません。ポイントとなるのは、会話中のリアクションです。相手の言葉にはしっかり反応する。さらに質問で返すので、会話が盛り上がります。たとえ沈黙があっても、決してマイナスな印象は残りません。

2.相手を受け入れて、会話の土台をつくる

心地よく話せる雰囲気をつくることも大切です。本題に入る前のちょっとしたトークは、「この人なら話してもいいな」と思ってもらう、いわば会話の土台となるもの。このとき「良い印象を与えよう」「私のことを覚えてもらいたい」と、自分を前面に出そうとすると、相手は引いてしまいます。トップセールスはここで、相手と自分をうまく調和させる「クラッチ」のような作業をしています。雑談であっても「この人はなにを考えているのだろう」と、相手を知ることを前提としているのです。

相手に会う前の下準備にも余念がありません。たとえば、会社のホームページや担当者のフェイスブックをチェックしたり、顧客の商品が売られている市場を観察したりするのはもちろん、現地に行っても、事業所の壁に張られている標語、内線表などからも情報を読み取っています。こうして観察をすれば、必ず「なぜだろう?」と思う項目が出てくるからです。

「入り口に段ボールが積まれているのはなぜだろう?」「平日の昼間なのに社用車が多いけれど、理由は?」など。これらの疑問なら、相手も自社のことだから答えやすいでしょう。会話がはずみ、どんな相手とでもすんなりコミュニケーションの入り口に立てるのです。

3.箇条書きで資料を準備し、論理的にしゃべる

ビジネスシーンでは、論理的に伝える力がものをいいます。こまやかな気配りでよい関係を築くのは得意なのに、説明するとなると的確に伝えることができず、結果的にうまくいかない。こんな悩みを抱える女性も少なくないでしょう。トップセールスは必ず論理的な話し方を身に付けています。

まずは内容を「箇条書き」で整理することから始めます。方法は人それぞれですが、ポイントを書き出したり、図にしてみたり、伝えるべき優先順位をはっきりさせるための準備は欠かしません。そうすることで、「この提案をお持ちした理由は3つあります」といった具合に、最初に要点を提示し、後から情報を付け足していくことができるからです。相手も一つひとつの項目について感想や意見を言いやすい。一方通行ではなく、双方向のコミュニケーションになるという利点もあります。

さらに一歩進めて、どう伝えるかも考えています。「あの顧客はこういう性格だから、こんな言葉でこの順番でお伝えしよう」といったふうに、相手を起点に伝え方を工夫することで、同じ内容でも心に残る強さが変わります。

トップセールスの「伝える力」は、どんな仕事にでも応用できます。ぜひ参考にしてみてください。

横田雅俊
外資系ISO審査機関の営業職として、最年少、最短、最高記録を更新し、世界2300人のトップセールスとして、東京本社マネージャーに就任。独立後、カーナープロダクトを設立し、代表取締役に。数多くの企業の営業力強化に携わる。実践重視の営業力分析、営業戦略構築、営業トレーニングに定評がある。著書に『トップセールスには、なぜ「いいお客さま」が集まってくるのか?』(ダイヤモンド社)。