保育園を考える親の会は、10月15日に「2015年度版 100都市保育力充実度チェック」を発行しました。この調査冊子は、毎年、100の市区(首都圏の主要都市と全国の政令指定都市)にアンケートをとってまとめているものですが、収録データの中でも特に、各自治体の入園の難易度を表した「入園決定率」が注目されています。今回は、その平均が今年、改善したというお話。

「入園決定率」は改善した!

「入園決定率」は、各自治体に新規に入園申込みをした子どもの数と、新規に入園した子どもの数を回答してもらい、申込みをした子どものうち何パーセントが入園できたかを算出するものです。図を見てください。残念ながら、必要な数字を教えてくれない自治体もあるため、回答数は71市区になっています。

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入園決定率の推移(%)

この「入園決定率」の平均が2015年度(4月1日現在)は、昨年度よりも約6%上昇して、74.3%になりました。

ちなみに、東京23区で「入園決定率」が50%前後に低迷し「認可に入りにくい」と推定される区は、は杉並区、渋谷区、大田区、世田谷区、目黒区でした。港区は必要な数字の回答がないものの、「認可に入りにくい」区であることが他の数字からわかります。

子ども・子育て支援新制度のおかげ?

「入園決定率」の平均が高くなった背景には、子ども・子育て支援新制度の開始があります。

従来、「入園決定率」は、認可保育所(=認可保育園)のみで計算していました。今年からの新制度によって「認可」の枠組みが広がり(認可保育所のほかに、認定こども園、小規模保育、家庭的保育なども「認可」の保育になった)、入園申込みも希望順位をつけて一緒に申し込むことになりました。このため、保育園を考える親の会の「入園決定率」も、これらの保育を一括して扱うことになったのです。認可保育所が第1希望だけれど小規模保育に決定したという子どもは「入園できた子ども」としてカウントされています。その分、「入園決定率」が上昇しました。つまり、「認可」の枠が広がって、「認可」に入りやすくなったということです。

それで何がよくなったの?

でも、広がった枠が認可保育所ではないのなら、手放しでは喜べないという人も多いでしょう。現に、多くの自治体が、認可保育所を第1希望とする人が圧倒的に多かったと答えています。認可保育所そのものの入園難易度は、あまり変わっていない自治体が多いかもしれません。

小規模保育・家庭的保育は新設されるものや認可外から移行してくるものがあります。認可保育所よりも若干、基準がゆるい類型があり、園庭がないところが多いのですが、小規模で家庭的な環境をつくりやすいという、低年齢児にはうれしいメリットもあります。何よりも、保育料が認可保育所と同じというのは朗報です。きょうだい軽減(2人目が半額、3人目から無料)も同じです。また、市町村からの関与も認可保育所と同様に行われるので、何かあったときは安心です。

ただし、小規模保育と家庭的保育は、3歳未満児が対象なので、2歳児クラスが終わると卒園し、就学前までの保育を実施する認可保育所か認定こども園、幼稚園などに転園しなくてはなりません。小規模保育や家庭的保育ばかりがふえると、3歳児からの転園が困難になる「3歳のカベ」が出現することも心配されています。

「3歳のカベ」はあるのかないのか

そこで、「100都市保育力充実度チェック」では、今年初めて「3歳のカベ」の有無を調べてみました。

2015年度4月1日時点で、「小規模保育や家庭的保育の2歳児クラスに在籍している児童数+認可保育所や認定こども園の2歳児クラスに在籍している児童数+認可に申し込めず認証保育所などの認可外保育施設(自治体助成施設)に在籍している2歳児の数」を「認可保育所と認定こども園の3歳児クラス定員」で割る、という、なんとも難しい計算になりました。しかも、ここには、3歳から預けたいという新規ニーズや、幼稚園が受け入れる分の受け皿が計算されていません。

それでも、この数字が大幅に割り込むようなことがあると「3歳のカベ」が出現する恐れがあるということになります。

有効回答した59市区の平均で97.7%と、若干の不足気味という数字が出ています。100%を超えている自治体も多い一方で、80%台の自治体もありました。これから小規模保育や家庭的保育の認可がますます進んでいくと思われますが、自治体には、バランスを考えて整備してもらわなくてはなりません。

激戦区在住の人は引越しも

こうして調査したり、保活をしているママ・パパの話を聞いたりしていると、結局、激戦区に住んでいる人は引越しするのが早道かもしれないと思えてきます。ただし、そのとき参考にするのは公表されている待機児童数ではありません。

「待機児童ゼロ」を謳っている自治体の窓口で「一生入れない」と言われてしまった人もいました。認可保育所がどんどん新設されているけれども、園庭のない認可保育所ばかりで、3歳以上児もいるのに、児童公園が混み合ってお散歩もままならないという地域もあります。そんな地域で「保活」を頑張っても、報われない可能性は大です。

では、どこに住めばいいのか。たとえば、こうです。

通勤可能な範囲の自治体で、「入園決定率」がマシなところや、電話で問い合わせてパートタイマーも入れているという自治体をいくつか選びます。その上で、自治体サイトにある認可の空き状況(募集状況)を通年で監視する、あるいは窓口に足を運んで相談すると、中でもどの地域が入りやすいのかなどの状況がある程度わかります。ここなら住んでもいいという地域を見ださめ、地域の保育所や保育施設を実際に見学して検討します。

今は入りやすくても、大規模なマンション開発の予定があるところは危険です。ちなみに、「住みたい街ランキング」上位のところなどは、たいてい保育園事情は悪いです。

各自治体の「入園決定率」や「3歳児定員のゆとり度」を掲載した「100都市保育力充実度チェック」は、保育園を考える親の会のホームページで頒布しています(一部、非公表自治体があります。また、個別の保育園情報ではないので、ご注意ください)。

保育園を考える親の会代表 普光院亜紀
1956年、兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。出版社勤務を経てフリーランスライターに。93年より「保育園を考える親の会」代表(http://www.eqg.org/oyanokai/)。出版社勤務当時は自身も2人の子どもを保育園などに預けて働く。現在は、国や自治体の保育関係の委員、大学講師も務める。著書に『共働き子育て入門』『共働き子育てを成功させる5つの鉄則』(ともに集英社)、保育園を考える親の会編で『働くママ&パパの子育て110の知恵』(医学通信社)、『はじめての保育園』(主婦と生活社)、『「小1のカベ」に勝つ』(実務教育出版)ほか多数。