プレゼンでギュギュッとクライアントの心をつかむ。そのためには「どう魅せるのか」自己演出が必要です。元外資系コンセルタント・清水久三子さんが、クライアントの厚い信頼を得るための必勝法を教えます。

前回のおさらい:プレゼンスの3要素【人間性】
「プレゼン・ファッションは格が命。まずは『見栄え』と心得よ」 http://woman.president.jp/articles/-/625

プレゼンテーションでの“身体の使い方”、鍵はジェスチャーではありません。ジェスチャーとは、プレゼンの内容を伝えるためのもので、自分が信頼に足る人間であるかを示す“プレゼンス”をよりよく魅せるためには、ジェスチャーをしていない時の身体のあり方=「立ち居振る舞い」が鍵となります。プレゼンスを構成する2つ目の要素「身体性」では、オーラを感じさせる立ち居振る舞いのテクニックを紹介します。

「身体性」―“立ち居振る舞い”でオーラを醸す

よく「あの人はオーラがある」という言い方をしますね。オーラとは「霊的なもの」と「自信や実績が自然と滲み出るもの」という二つの意味があります。プレゼンテーションでいうオーラとはもちろん霊的なものではなく、自信の表れです。では私たちはオーラを何から感じ取っていると思いますか?

一つは「人間性」に含まれるキャリアや実績です。人が役職の高い人の前に立つと緊張するのは、背景にある地位や権力を感じて萎縮するためです。そしてもう一つの要素が、その人の背景情報以外で、オーラを感じさせる「立ち居振る舞い」です。

ではどのような立ち居振る舞いが、オーラを感じさせるのでしょう? 次のページで詳しく説明していきます。

登場の仕方で「信頼できる人」を演出する

プレゼンテーション本番。会議室や会場に入場する時、皆さんは身体のどの部分を意識して、どの部位から会場に入りますか? プレゼンテーション前だからと資料や進行だけに集中していては、折角オーラを感じさせるタイミングを逃しています。入る時の姿勢は、非言語メッセージ(言葉以外で伝わる身体的メッセージ)として、相手に届いていることを忘れずにいましょう。

まず、頭から前傾姿勢で入る人は“知性”を感じさせるものの、“強さ”はあまり感じさせられません。特に下を向いていたり、ペコペコと頭を下げながらの入場は、服従や愛嬌という非言語メッセージにもつながります。若手芸人の方が、腰をかがめ前傾姿勢で入ってくる姿がその例として挙げられます。

次に、腰から入る人の典型的なタイプとしては、ファッションモデルや権力者を思い浮かべてみてください。腰から前に出るということは上半身がそり、後ろ重心になるため、歩くたびに身体が揺れ、気だるさや優雅な印象を与えます。さらに激しく動きをつけると、いわゆるチンピラ歩き。強さをことさらに強調することになりますが、ビジネスプレゼンテーションでは相応しくありませんね。

三つ目は、胸を張って入るタイプです。これはバレリーナなど舞踏家、そして成功したビジネスパーソンの入り方です。頭を高く掲げるため、周囲を見回しやすいという利点もあります。注意してほしいのは肩を怒らせないこと。胸を張り、肩を怒らせると軍人のような「いかつさ」が出てしまうからです。頭を高く掲げ、胸を張り、肩の力を抜いてリラックスすることで、優雅な自信を感じさせましょう。頭の中でバレリーナをイメージするとよいでしょう。

「立ち居振る舞い」で性格が変わってくる

以前、私のプロジェクトの入社1年目のメンバーでとても姿勢がよい人がいたのですが、クライアントから「立ち姿にプロ意識が出ている。弊社の若手社員とは全く違う」というお褒めの言葉をいただきました。このように姿勢は自信や意思を表現し、プレゼンスの向上にとても重要な役割を果たします。

よく「私は緊張しやすいから、堂々と振舞うなんて無理」と言う女性がいますが、逆だと考えてください。「性格が立ち居振る舞いを決める」のではなく、「立ち居振る舞いで性格が変わってくる」のです。背中を丸めていれば、負のオーラが出て自分の気持ちも暗くなります。背筋を伸ばし、胸を張り、肩の力を抜いていれば、自信が湧き、堂々とした気持ちになっていくのです。性格は中々変えられませんが、立ち居振る舞いは今からでも変えられます。魅せるオーラは自らつくっていくのです。

トラブルの時こそ「優雅に振る舞う」を肝に銘じる

立ち居振る舞いは、トラブルの時こそ更に優雅にすることを意識しましょう。私が駆け出しのコンサルタントだった時、重要なプレゼンテーションでプロジェクターが故障してしまうという事態になりました。私は焦って小走りで代替機を準備しようとしたところ、マネージャーに「走るな! お客様が不安になる」と制されました。その一言で、冷や汗をかいていても立ち居振る舞いは優雅にしなくてはいけないことを理解させられました。

トラブルの時にどう振る舞うのか、相手は通常の時以上に見ています。トラブル時の対応は、うまく振る舞えば、経験の多さや修羅場(と言うと怖がられるかもしれませんが)をくぐり抜けてきた強さなどをアピールできます。テレビドラマでは女性主人公が焦ってバタバタとしているシーンをよく見かけますが、本当に仕事を任せたいと思えるでしょうか? トラブル時には迅速な対応をしなくては、と焦る気持ちはもちろん必要ですが、殊更に優雅な立ち居振る舞いを心掛けましょう。

プロらしさを感じさせる道具の扱いとは?

姿勢や動きとともに、プロらしさを象徴するのが、道具の扱いです。パソコンや使用するアプリケーションの動作など、できるだけ慣れて素早くできるようにしておきましょう。前職のコンサルティング会社の業務分析・改善提案を専門とするコンサルタントチームは、エクセルの分析シートを説明する際にマウスやポインター操作を行わず、全てショートカットキーだけで、画面が自動的に次々と展開しているかのようなデモンストレーションを見せ、クライアントを驚かせることを得意としていました。

他にもホワイトボードに文字を書く時に、聞き手に見えるように体の位置をずらして書くのも道具の使い方の一つです。このようにプロらしさは道具の扱いに表れますが、練習しておかないといざという時にできません。聞き手が見ていてほれぼれする鮮やかな動作や技術の魅せ方を練習しておきましょう。

鉄則―「存在感とギャップ」

最後に、プレゼンス全体の鉄則である「存在感とギャップ」を思い出してください。身体性では、まず存在感を感じさせるために「オーラを感じさせる優雅な立ち居振る舞い」を、特に入場などの出だしやトラブルの時など、印象的になるよう心掛けてください。そして、ここぞという場面で鮮やかな技を見せることで、相手の想像を超えて強い印象を与えるのです。「ゆったり」と「鮮やか」な動きで、プレゼンスを演出していきましょう。

清水久三子

お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティング
を設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。