人の信頼度を左右するのは意外に「外見」にあった? 服装、持ち物、靴に至るまで、ビジネスやプレゼンの場では全てが信頼度を測る判断材料になっているのです。プレゼンに自信を持って挑める演出テクニックを清水久三子さんが解説します。
プレゼンテーションは、「プレゼンス」と「コンテンツ」と「デリバリー」、3つの要素が複合的に絡み合う「総合格闘技」です。1つ目の「プレゼンス」は中でも最初に“勝負”を分ける要素と言ってもいいくらい重要にも関わらず、実は最も注意が払われていない方が多いのではないでしょうか? プレゼンスを向上させてからプレゼンテーションを始めることで、驚くほど聞き手が話を聞いてくれるようになります。「プレゼンスなんてそう簡単に向上できるの?」と思うかもしれませんが、“自分を魅せる技”をしっかりとご紹介します。
そもそも、プレゼンスとは何でしょうか? 日本語だと「存在感」や「影響力」と訳されることが多いのですが、つかみどころがない感じなので、ここで構成要素を理解しておきましょう。
人間性:キャリア、専門性、キャラクター、持ち味
身体性:人相、身体、スタイル、雰囲気、オーラ
精神性:熱意、意思、誠実さ、正直さ、感情
上の3つが一体となって醸し出す、その人の存在や影響力を感じさせるものです。一つひとつ分解していくと、何をどう向上したらいいのかが見えてきます。今回は「人間性」について考え方とテクニックをご紹介します。
「人間性」―人を惹きつける秘密とは?
人は話を聞く時に常に相手を値踏みしています。「この人の話を信じてよいのか?」、「この人の言うことを聞く気になるか?」を、プレゼンする人が部屋に入ってきて、第一声を発してから数分の間に判断します。つまり、プレゼンテーションを始める時には信じるに足る存在であることを証明する「強さ」と、この人の言うことなら聞いてみたいという「親しみやすさ」を感じさせる必要があります。この2つを同時に感じさせるのは実はとても難しいのです。強さと親しみやすさはシーソー関係にあるからです。強そうな相手には、親しみやすさはなかなか感じにくくなりますし、親しみやすさは弱さを感じさせることもあるからです。
「強さ」と「親しみやすさ」のバランスとは?
私の例を紹介します。私が若手コンサルタントだった頃、まだ提案前でクライアントにお会いしていないにも関わらず先方の役員から「うちの現場は荒っぽいから女性のプロジェクトマネージャーは困る」と言われたことがあります。このように女性には「強さには欠ける」という古典的ステレオタイプのプレゼンスが付きまといます。
それがキャリアを積んでくると「清水さんは怖そうで近寄りがたいと思ってました」ということを役員の方から言われることが増えてきました。コンサルタントという職業や高いポジションなどは一般的に「強さはあるが、親しみに欠ける」というプレゼンスになるわけです。
「強さ」と「親しみやすさ」は、自分と相手との関係で決まります。まずは相手が自分にどんなイメージを抱いているのか、強さなのか親しみやすさなのかを把握することが出発点になります。前述の私の例でいうと、「女性では困る」または「仕事の能力が低い」と思われているのであれば、意識して強さを演出していきます。「近寄りがたい」と思われているのであれば、逆に親しみやすさを意識して前面に出していくわけです。このバランスがとれると、「強くて親しみやすい」という最強のプレゼンスで相手の懐に入ることができます。
「強さ」を演出する
ビジネスにおける強さは仕事ができるかどうかに尽きます。ただし、自分から「私は仕事ができます!」ということをアピールするとあまり快く受け入れられないので注意が必要です。特に「女性は謙虚であるべき」という古典的ステレオタイプの女性像を持っている人には逆効果でもあります。
強さのアピールはまずは外見です。服装はもちろん、持ち物、仕事のツールなどにも気を配りましょう。服装なんてうわべだけの底が浅いテクニックだと思う方もいるかもしれません。しかし、プレゼンスを評価される時に大きな役割を果たします。おしゃれに装え、と言っているのではありません。服装は美的センスではなく、どんな集団に属しているのかを表しているのです。
自分の仕事におけるプロフェッショナルらしさを表す服装を戦略的に考えましょう。一般的に服装はフォーマル度が高い、つまり格が高いほど「強さ」を感じさせます。相手にとってだけではなく、自分自身も適切な衣服を身につけることによってプレゼンテーションに対する自信を得ることができます。
余談になりますが、多くの女性リーダーの方にお会いしてきましたが、強さをきちんと感じさせる服装をされている方には、実はなかなかお目にかかれません。本人のキャラクターと合っていないフェミニンすぎる服装だったり、地味過ぎる方などもいました。適度な「華やかさ」は強さの表現につながります。
また、若い女性は近年のオフィスファッションのカジュアル化にともない、ややくだけた服装が多いようです。強さをきちんと表現できているかどうかという観点ではカジュアルな素材やだぼっとしたシルエットは格が低いため、ここぞというプレゼンテーションには、格を意識した服装選びを心がけましょう。
強さの表現の2つ目は、信頼足りうる能力レベルかどうかを具体的に見せることです。自己紹介やプロフィールでは、実績をできるだけ数値にします。自分のキャリアにおいて数値化できるもの、キーワード化できるものを探してください。これらを、
(1)自己紹介として自分で冒頭に話す
(2)プロフィールに記載しておく
(3)司会に紹介してもらう
(4)上司に紹介してもらう
……などプレゼンテーション前に何らかの形で聞き手に伝わるよう、仕込んでおきます。自分で言いにくい場合には、(3)、(4)など人から言ってもらうのも効果的です。
「親しみやすさ」を演出する
聞き手がすでに「強さ」を認識している場合には、「親しみやすさ」を前面に出しましょう。親しみやすさの出し方は、(1)共感を表す、(2)共通点を見せる、(3)笑顔を見せるという3つのテクニックがあります。
(1)共感とは
プレゼンテーションの冒頭で、「皆さんはきっと非常に困難でストレスの多い状況にいらっしゃると思います」、「私が何をしに来たのかと不信感を持っている方もいるでしょう」と相手の心境に理解を示します。これによって「話が分かる、聞く耳も持っているのだ」ということが伝わります。
(2)共通点とは
例えば共通の趣味の話や、相手が関心を持っている事柄について話します。共通点が見つからない場合には、事前に調べておきます。相手に近づこうという気持ちは必ず相手に伝わります。また、自分の失敗談などもよいでしょう。例えば「仕事を始めたばかりの頃はミスばかりしていました」と自己開示することで「近寄りがたいと思っていたけど、自分と同じ悩みがあった」と思ってもらうのです。
(3)笑顔とは
ここで親しみやすさという観点で気をつけたいのは、親しみやすさ=「かわいさではない」ことです。癒されキャラや天然キャラを演出してもあまり意味がありません。ビジネスにおける親しみやすさはあくまでも、相手に近づくことによって生まれるものです。必要以上の笑顔や、かわいらしいしぐさ、言動は「弱さ」を感じさせる場合もあるので、気をつけましょう。
まとめ―鉄則は「存在感とギャップ」
「強さ」と「親しみやすさ」のバランスでプレゼンスを魅せるということを紹介しましたが、鉄則として覚えてほしいのは、まず“存在感”を感じさせ、次に“ギャップ”を感じさせるという順番です。自分が与えている存在感は、強さなのか親しみやすさなのか、その強さはどれくらいなのかを考えてください。強さをしっかりと伝えられたら、ギャップを出すことを意識して、相手にとっての親しみやすさを演出していきましょう。強さと親しみやすさのバランスで惹きつけるテクニックはあくまでも相手との関係性によって決まりますので、常に同じパターンではなく、自分が相手にとってどのような存在かを考えることからスタートしましょう。
お茶の水女子大学卒。大手アパレル企業を経て、1998年にプライスウォーターハウスコンサルタント(現IBM)入社後、企業変革戦略コンサルティングチームのリーダーとして、数々の変革プロジェクトをリード。
2005年より、コンサルティングサービス&SI事業部門の人材開発部門リーダーとして5000人のコンサルタント・SEの人材育成を担い、独立。2015年6月にワーク・ライフバランスの実現支援を使命とした会社、オーガナイズ・コンサルティングを設立。延べ3000人のコンサルタント、マーケッターの指導育成経験を持つ「プロを育てるプロ」として知られている。
主な著書に「プロの学び力」「プロの課題設定力」「プロの資料作成力」(東洋経済新報社)、「外資系コンサルタントのインパクト図解術」(中経出版)、「一瞬で伝え、感情を揺さぶる プレゼンテーション」、「外資系コンサルが入社1年目に学ぶ資料作成の教科書」(KADOKAWA)がある。