キャリアアップを支援するメディアには、キラキラまぶしい先輩の成功談や、ためになるノウハウなどの記事があふれています。そんな役立つ情報が「しんどく」なったときに、あなたがすべきこととは……?

以前、若手社会人のキャリアアップサイトのプロデュースをしていた時のことです。同僚が別の女性誌の編集者と雑談をしている中で、とても興味深い相談をされたと教えてくれました。

その女性誌は若手社会人女性のキャリアアップを支援するメディアで、キラキラと輝いている先輩女性たちの活躍ぶりや、そうなるためにやるべきことは何か、そのノウハウをこれでもかというくらいに詰め込んだ、とても役立つ内容でした。しかし、その役立つはずの情報が、ターゲットとしている女性読者にとっては重荷になってしまったというのです。「苦痛だ」「しんどい」と苦情のメールが来るようになってしまった、困った……と相談されたといいます。

確かに、女性向けでしかもキャリアを扱うメディアというと(このコラムを書いているPRESIDENT WOMAN Onlineもそうです)、読者の見本となるような素敵な女性であふれています。仕事でしんどくなった時、自分と同じような悩みを抱え、苦労を乗り越えてきた先輩の話を読めば、読者はとても勇気付けられているはず――メディアをつくっている人たちはそう思っていたのです。しかし現実には、そういう効用もある半面、勇気を与えたり、気づきを得たり、困難を乗り越える方法を学ぶことそのものに疲れてしまった人たちも少なくなかった。「頑張れ」というメッセージに「これ以上は無理だって!」と反応したという感じでしょうか。

頑張っている人に「頑張れという以外の励ましの言葉」は難しい

実はこの問題、日常の働く現場でも、わりと起きています。例えば、自分では限界ギリギリまで頑張って働いているのに、もっとできる人を引き合いに出して、その女性を見本にして「頑張れ」と励ます(本人は激励しているつもりです)上司に対して「私はあの人じゃないのだから、それはできない相談だよ」と、同僚たちに思わず愚痴ってしまう人も少なくないでしょう。役に立つ仕事の進め方のノウハウや、読むことでキャリアアップにつながる情報が詰まった本や雑誌、Webメディアなどを周囲から薦められても「いや、時間ないし」と、思わず拒絶してしまうこともある。

厄介なのは、周囲は良かれと思ってやっている、ということです。「あなたが頑張っていることはよく分かっている。だからこそ、もっと頑張るためにこういうことを知っておくといいよ。だからもっともっと頑張れ」という流れでしょうか。励ましの言葉として「頑張れ」以外の、もっと適切な、そして、誰の心にもぴったりくる言葉がなかなか見つかりません。また、実際にはすべての人が頑張りたいと思っているわけではないのに、世の中の多くの人は、「何かに取り組んでいる人は、それに対して頑張るべきだ」と思っています。結果として「頑張れ」の大合唱になってしまうのです。

「やる気になる」と「やった気になる」との大きな違い

さらに、“頑張るための情報”は、ときに面倒な状況を作り出します。

仕事でも趣味でもかまいません。あなたが何かに一生懸命取り組みたいと思って、そのためのノウハウを得るために情報収集したとしましょう。情報を集めた結果、頑張るための方法論をたくさん見つけ、それをしっかりと読んだ結果、「やった気になってしまった」というケース、これは悲劇です。皆さんも心当たりがあるかもしれません。大切なのはやる気になり、実際に取りかかることなのですが、多くの場合はやった気になっただけでもう満足、お腹いっぱいになってしまうのです。読みやすい、かみ砕かれた情報を手にすればするほど、この現象は起きてしまいがち。

例えば、ある問題を解決したいとします。本来は問題の原因を特定するために、さまざまな知識を取得して、解決に導くための方法を自ら模索し、実行するのが望ましい。しかし、世の中にある多くの問題は(特に、仕事において直面する問題のほとんどは)誰かが同じようにぶつかっていて、いろいろなアプローチによって解決されているものが多い。つまり、もうゴールが描かれた情報を簡単に手にすることができるわけですから、ある種の疑似体験がそこで起きてしまって、達成感を得られた状態になってしまう。インプットしただけなのにアウトプットまで完了した、と思えてしまうのかもしれません。

自分自身の「ワークスタイル」を少しだけ考えてみる時期

このコラムを読んでいるPRESIDENT WOMAN Onlineの読者は、もうすでにビジネス社会でさまざまな経験をして、キャリアの曲がり角に差し掛かろうとしている人も多いはず。そういう人たちにもお勧めしたいのは「書かれていたことを改めてやってみる」というスタンス。

文章に「ぜひやってみて」と書かれていても、ほとんどの人は自分ではやらないし、試しもしません。でも、実際には未経験なのにもかかわらず、気分的には経験済みになっていることが澱(おり)のように溜まっている可能性が少なくない。改めて、手で書いてみる、口に出してみる、身体を動かしてみる、というフィジカルな部分を大事にしてみることです。

もう1つお勧めするのは、「自分にとって必要な情報を吟味するために、改めて自分自身のワークスタイルを整理してみる」ことです。あらゆることに全力投球したい、という気持ちがある人は別ですが、仕事において本音と建前が違っている人は、そろそろ建前部分には力を抜いてもいいはずです。(いい意味で)手抜きをしたとしても、周囲には悟られず、頑張っていると見せかけるだけのテクニックは、すでに持っているでしょうから。これからは自分が取り組みたい、興味がある、伸ばしたいと考えているところにだけ食指を伸ばして、なるべく未知だと想像される部分の情報を収集し、アウトプットすることを心がけてください。もちろん、この提案が既知ならば、華麗にスルーすることをお勧めしておきます。

サカタカツミ/クリエイティブディレクター
就職や転職、若手社会人のキャリア開発などの各種サービスやウェブサイトのプロデュース、ディレクションを、数多く&幅広く手がけている。直近は、企業の人事が持つ様々なデータと個人のスキルデータを掛け合わせることにより、その組織が持つ特性や、求める人物像を可視化、最適な配置や育成が可能になるサービスを作っている。リクルートワークス研究所『「2025年の働く」予測』プロジェクトメンバー。著書に『就職のオキテ』『会社のオキテ』(以上、翔泳社)。「人が辞めない」という視点における寄稿記事や登壇も多数。